オイディプス王
短いですけど、キリがいいので初投稿です。
「ただいま。」
夕方、帰宅した俺は両親に演劇同好会へ入ったことを報告した。
「演劇?何がキッカケだったんだ?」
父の発言は最もだろう。俺だって同意見なのだから。
「別に。誘われて何か良いなって思ったからだよ。」
「なるほどな。直感は大事にしろよ、直感を信じて行ったことは大抵成功するし失敗しても納得できるからな。流されて適当に決めないだけ立派だ。」
「ねえねえ。公演とかいつやるの?やっぱり文化祭?」
「いや、夏休みにやるらしい。詳しくはまだ聞いてないんだけどさ。」
母からはその後もあれこれと質問が来たのだが、やけに細かいことや俺には理解できない専門用語も飛んできて驚いた。
「母さん詳しいね。」
「昔はよく観劇をしていたのよ。それで色々調べたの。」
母の知られざる一面が発覚して驚いている俺に父は言う。
「一輝、個人種目と違って集団でなにかを成す為に必要なことはわかるか?」
「団結力?」
「それは大前提の話だ。大事なのは目指す方向を統一することだ。」
それは、目的意識という事だろうか。
「何を目標にするのかは一度誘ってくれた子と話しなさい。向こうが本気でやりたいことがあるのなら参加した以上最大限協力するのが筋だ。半端な気持ちでやるならやらないほうがいい。」
父の言う事は理解できる。上野には明確な目標とビジョンがあるように感じられる。それを理解しないまま共に活動しても擦れ違いが生まれることは想像に容易い。
「わかった。確認しておくよ。」
「お前が本気で努力できる人間だと知っている。自分で頑張れると思い、続けるなら父さんが心配することは何もない。」
それだけだと言って父は食器を片すと風呂場へ向かっていった。
「頑張りなさいよ。お芝居って体力勝負だからスポーツやってた経験が活かせると思うわ。」
「芝居ってそんなに体力使うわけ?」
「本気でやるならってことよ。本当のお芝居をやるならね。」
母も話は終わったと言わんばかりに食器を片してキッチンへ去っていく。
時間を確認するとまだ寝るには早いに風呂は父が居るので後になると考えて俺は自室へ戻り父から拝借しているタブレットを起動する。
動画配信サービスをいくつか漁っているとそれなりに映画ではなく舞台映像が配信されているのを見つけたので、評価の高い作品を一つ観てみることにした。
『オイディプス王』というタイトルの作品を軽く調べてみるとソポクレスという人が書いた紀元前の作品らしい。
内容は王の息子ではないと噂されたオイディプスが予言の神を訪ね、実の両親を殺すことになると言われたので故郷を出た先で怪物を倒しその地で王となり先王の后を自身の妻とし国王となる。しかし、次第に国が荒れるので原因を突き詰めるとオイディプスが原因だと判明し…という悲劇だ。
実際に観てみると台詞回しが小難しくて全て理解できたとは言えないが、映画やアニメとは違う妙な力を感じた。
画面が切り替わらない定点撮影のため表情が見えなかったり、セリフが聞こえなかったりなどあったが、熱量と言うのか気迫と言えば良いのかわからないが惹きつけられるナニカを感じた。
そう、昼間の上野に感じたものと同じ感覚だった。
「凄いな。これが演劇。」
おおよそ二時間の間動き続け、どうやって記憶したのかと聞きたくなるような多くの台詞。音響や照明に合わせて動き観客を飽きさせない工夫の数々。
流し見した素人の自分でこれだ。観方を知っている人ならば多くの発見が出来るのであろう素晴らしい作品に俺は釘付けになった。
アクション映画や有名どころのアニメ映画ばかり見ていた今まででは触れようとも思わなかった世界に俺は夢中になった。
エンドロールが流れた後、俺は少ない小遣いを使って戯曲、オイディプス王を購入してから様々な考察サイトを読み、演劇について色々調べてから布団に潜り込んだ。
いつも眠るまでの間に様々なことを夢想していた俺だが、この夜ばかりはオイディプスを演じていたあの役者に自分を重ねていた。
気づけば、眠りにつき夢の中では舞台の上に立っている自分が居たことは致し方ないだろう。
読んでいただきありがとうございます。
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