ワシ、誕生。
小説:転生賢者0
「――!――!!!」
吾輩は人である。
「男の子です!!」
名はまだない。
「ラウル……今日からお前は、ラウルだ!」
……だ、そうだ。
◇◇◇転生賢者は穏やかに過ごしたい◇◇◇
「ラウル〜♪ほら、ラウル〜♪」
この世に生を受けてはや三ヶ月。
兄弟姉妹達もだいぶ私に馴染んできた。
「あ、笑った!今笑ったよね!!」
特に、現在進行形で私を構い倒しているこの三女ミネルヴァは私の魅力にベタ惚れらしく、今日に限らず少しでも空いた時間があれば大体この有様である。
「はいはいミネルヴァちゃん、あんまりラウル君を困らせちゃダメよ?」
ミネルヴァを嗜めたのは、第五夫人エリーゼ。
「それに、そろそろ時間でしょう?早めに行っておいた方がいいわよ?」
その慈愛溢れる雰囲気と柔和な笑顔は、見た者にまるで包み込まれるかのような暖かさすら錯覚させる。
舞台が違えば聖女にでもなっていたのではなかろうか。
「はーい」
そう言って、ミネルヴァはソファから私用の毛布を持ってくると愛おしげな表情と共にそっとかけた。
「またね、ラウル」
軽く手を振り、ミネルヴァは駆けていく。
彼女が毛布をかけていったのは、私がこの体に転生してから今日まで、この時間帯はだいたい(体だけだが)寝ているからだろう。
気遣いのできる、いい子だ。
このまま育てばきっといいお母さんになる。
……さて。
なぜ、生まれてたった3ヶ月の私がここまで理性的な思考を繰り広げていられるのか。
「ラウルちゃ〜……あら、もう寝てるわ」
なぜ、肉体を休めた状態でも魔法を行使できるのか。
「本当に手のかからない子ねぇ……」
そして、何故冒頭で某名著の一節を彷彿とさせるような言い回しができたのか。
それらを説明するには、少々時間が必要となる。
私は、賢者だった。
いや、決して自分が賢い人間だとか致した直後だとかそう言うことを言いたいのではなく、私は本当に、『賢者』だったのだ。
より厳密に言えば、賢者と言う職業ーージョブの人間だった。
もっとも、それはもうかれこれ三百回以上も前の人生における話だが。
私はもう何千年も、転生し続けている。
あるときは、どこぞの国の王族に。
あるときは、スラム街の掃き溜めに。
またあるときは、日本の極々平凡な一般家庭に。
本来輪廻転生は死んだ世界の内部で完結するはずなのだが、私はさまざまな魔術によって記憶と精神を引き継いだまま人かそれに近しい生物の存在する世界へと幾度も転生していた。
具体的な回数は覚えていないが、少なくとも五桁は軽く超えているだろう。
補遺
外物語に登場する賢者で五桁以上の転生経験があるという事は、おそらく――だと思われる。
一旦飛ばそう。