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07.陰陽師の日常

あぁ、どうも。みなさん、俺の名前は佐藤。ただのゲーム好き、24歳フリーターです。

私は今、数多くのサブカルと人々の趣味を満たすことができる街。秋葉原に来ています…お目当ては、そのゲームセンターっす。

 佐藤は店に入店し他のゲームには目もくれず最近ハマった一昔前のゲームが設置されているフロアを目指しエスカレータに乗りお目当てのゲーム機の近くに向かうが、今日はいつもと雰囲気が違うことに気づく。佐藤の視線の先には2人の男女が対立し何か話している。

 女の方は遠目でも分かるほど美しい容姿をしており、綺麗な長い髪をポニーテールでまとめている…が何故か小豆色のジャージ姿だ。

(めっちゃ綺麗な人だな…ジャージってのがギャップがあっていい…)

 佐藤は彼女に思わず見惚れどうでもいい感想を思う。美人と話す男がどの程度の男か気になり佐藤は男を確認する、白髪の頭に黒い和服を着用し男…

(コスプレ?ここのゲーセンってコスプレしてプリクラ撮れるサービスあるの?)

 2人が気になりつつも彼は格闘ゲーム機の隣にあるゲームに腰を下ろしお金を入れゲームを楽しみだす。

「で?ウチと勝負したいと?」

 晴明が吐き捨てた。

「あの時、味わった敗北の感覚…今、ここで貴様にも味合わせてやるわッ!!」

 妙に時代劇風に話す道満。彼らの隣には、人気の格闘ゲームがあった。

「過去に囚われた可哀想な男…残念だったな。その呪縛からは永遠に逃れることは出来んッ!座りなよ…。『氷の女王』の実力見せてやろう。」

 道満の言葉を嘲笑い晴明は反対側の筐体に座る。意外とノリノリな晴明の言葉に佐藤は困惑する。

(氷の?何言ってんのこの人?。)

 佐藤は2人のやり取りが次第に気になり始めチラチラと様子を伺う。

「こ、氷の女王だってッ!!」

「マジかよッ!!彼女のプレイ、無料でみていいのかよッ!!」

(えっ?アンタら誰?)

 佐藤の向かいのゲーム機に座っていた2人が急に立ち上がり身を乗り出す。

「あの敗北以来…」道満は語り出す。

(まだ続けんだ…)横目で見ていた佐藤は完全に道満の方を見ていた。

「私はひたすらコマンドを入力した…来る日も来る日も。この手首が痛くなり動かすのも辛くなるほどにっ!!」

 道満は右手首を見た。

(あっ、ゲームのやり過ぎで腱鞘炎になったのね。)

 佐藤は手首を握り苦悶の表情を浮かべる道満の顔を冷めた目で見る。

「おい、おっさんやめ時なって!相手は氷の女王だぜ?勝てる訳ねぇよ」

 道満を嘲笑う二人組、道満は低い声で問いかける。

「君たちは…『駒込の和服』という名を聞いたことはあるか?」

「あ、アンタまさか…」

 道満の言葉に2人組はハッとし息を呑む。

「そうだ。私がその『駒込の和服』その人だ!!」

(うん。なんとなく想像ついてた。)

「『氷の女王』と『駒込の和服』の戦いだってッ…!!」

「どっち勝つか昼飯かけようぜ!」

「『氷の女王』もスゲェーけど経験値的に駒込の和服だな。」

「お前、女王の実力知らねぇの?(笑)」

「おい、動画撮ってYにアップしようぜっ!!」

 その言葉に2人だけではなく他の客もざわつく。

(えぇっ…ちょっと待て。知らないの俺だけ?)

 観客の歓声を気にする事なく2人は筐体に向きお金を入れる。

「このゲームには基本的にそこまでキャラの性能差はないと言われている…だがしかし、プロはこう言っている。『性能の先を見た』…と……つまりこのキャラクターの選択が勝敗を大きく分けると言っても過言ではないのだッ!」

(向かいの奴さっきから何言ってんの?)

 佐藤の心配をよそに向かいの男は真剣な表情で語っていた。

 晴明と道満はほぼ同時にキャラを選択した。

 女王が選択したキャラは攻撃に特化した人気の女性キャラ…『カミー』。和服が選択したキャラは女王とは対照的に守りに特化したキャラ…『カエル』。2人のキャラ選択にフロアが湧いた。

「魂の1先ッ!開始!!」

 男の声と同時にゲームが始まる。互いに絶妙な距離を取り相手の出方を伺っている、互いに牽制を当て合うが全てガードやパリィで対処していく。20秒ほど膠着こうちゃく状態が続くが均衡は破られる…仕掛けたのは『氷の女王』こと晴明だった。彼女の釣りの攻撃に『駒込の和服』こと道満は掛かってしまう。

「ッ!!!」一瞬油断してしまった事にクッと奥歯を噛む。

 攻撃が当たった瞬間…『氷の女王』晴明の猛攻が炸裂しフロアの観客から大きな歓声が上がる。凄まじいコンボで体力の3分の1を持って行かれるが、相手キャラのコンボの終わったタイミングを見て『駒込の和服』道満も反撃の一打を与えコンボを繋げ相手に削られ体力と同じぐらい削る。

「おいおい。どっちが最初のラウンド取るだ?」

「両方に可能性があるぞ…」

「やべぇ、呼吸すんの忘れてた(笑)」

(初めのよく分からないやり取りがなければ最高だったんだけどな…) 

 互いに譲らない攻防は、このシチュエーションを除けば佐藤からすれば素晴らしいものだった。「ウォおおぉお」と歓声が上がる。

 激しい攻防戦が続く中、最初のラウンドを取ったのは『駒込の和服』こと道満だった。

(よしッ!)口に出していないが道満はガッツポーズをしている。晴明は「ふー」と大きく息を吐き姿勢を整えた。間髪入れずに次のラウンドが始まる。

 第二ラウンドは先ほどとは全く違う展開になって行く。『氷の女王』の猛攻が始まった。

「ヤベェヤベェ!!」

「女王っ!?」

「おいっ!焦ったんのか!?」

「いや、よく見ろ!コンボの切れ目がほとんどねぇ!!」

「『駒込の和服』が守ってるだけで何も出来ない!」

(行けるッ!このフロアも味方になった!)観客の歓声の中、『氷の女王』は確信する…だが『駒込の和服』は誰よりも冷静だった…キャラクターを屈ませ静かに…そして確実に……その時を待っていた。

(私は知ってる。その大パンの後に−4フレームで差し替えせることをッ!)

『氷の女王』の一瞬の綻びを見逃さなかった。『カエル』の一撃が『カミー』を捉える。瞬く間にコンボが繋がりライフは削られて行く。コンボの終わりに『カエル』大技が炸裂し画面上にはK・Oの文字が表示された。

(な、ん………だと…)

『ウオォおぉおおおおおぉぉぉおお!』

 フロアは大きな歓声が上がり歓声はやがて『和服』コールに変化する。

『和服ッ!』『和服ッ!』『和服ッ!』『和服ッ!』『和服ッ!』

 歓声に応え『駒込の和服』こと道満は大きく手を広げ歓声を浴びる。グッと歯を食いしばり『氷の女王』こと晴明は歩み寄った。

「この屈辱…忘れんぞッ……!『駒込の和服』!!!」

 悔し涙を浮かべる彼女に彼は言い放つ。

「這い上がって来い。私はこれからもここに君臨するッ!!」

『ウオォおぉおおおおおぉぉぉおお!』

 2人のやり取りに観客は大いに湧いた。

「俺は今…たった今…王の帰還を見た…。」涙を流す向かいの2人組の男達。

(もう…俺、ツッコまない。)

後に2人の戦いは『秋葉烈戦』と語り継がれる…。

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