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05.絶ッ対、道満よりウチの方が人気出る自身ある。

真宵が怨霊に取り憑かれ道満と出会う1ヶ月ほど前のこと…高層ビルが建ち並び、多くの人々が行き交う街「新宿」にある廃墟ビル。大雨の中で事件発覚した。

「警部、解剖の結果、被害者は女性、死後2週間が経過、死因は首を絞められたことによる窒息死……」

 顔色を悪くし解剖記録を読み上げる、細見で色白の男、新入りの刑事吉田は今にも吐き出しそうな顔をしていた。

「なんだ、早く言え。」

 警部と呼ばれた男の名は、遠坂。白髪混じりの短髪に無精髭この男も細身だが、あらゆる戦場を経験して来た様な謎の貫禄がある。

「すみません…少し気持ち悪くて…。」

「おい、お前何年目だ?」

 1度、出そうになったものを必死に飲み込み吉田は答えた。

「私は、2年目です。」

「殺人現場の経験は?」

「1回だけです。」

 やれやれという表情と同時に仕方無いという感情が混ざる。

「これからもっと悲惨な現場に送り出される事も増えてくる。その度に現場の雰囲気に呑まれてたら仕事になりゃしねぇ。」

 事故現場に入る。異臭とヌルい室内の空気感がより吉田の気分を悪くし肌の白い顔は青くなり血色がなくなっていく。

「吉田、外行ってろ、大事な現場でお前のゲロ吐かれたら、たまったもんじゃね。」

「堪えます…」

「根性は褒めてやるが、今、言ったろ。お前のゲロまみれになったら困る。おい、すまねぇがソイツを外に連れて行ってくれ。吉田、それ置いてけ。」

 遠坂は吉田から解剖結果が記載されたファイルを受け取る「すみません…」と消えそうな声で吉田は他の鑑識に外へと連行されていく。遠坂は鑑識の資料を受け取り目を通し部屋の奥えと進む。吉田が部屋の外に行く際に小豆色のジャージ姿の美女とすれ違う。

 長く美しい黒髪をポニーテールでまとめシルバーの細いフレームの眼鏡を掛けいた、眼鏡越しにでも分かる綺麗な二重、目鼻立ちがクッキリとしており、作業をしていた他の鑑識スタッフは手を止め思わず見惚れてしまっていた。

「遠坂のおっちゃん??えぇ感じに進んでる?」

 現場に入って来た関西弁を話す謎の美女に鑑識の一人がハッとし大きな声で彼女に注意する。

「ちょっと、アンタ何やってんだよ!!ここは警察以外立ち入り禁止だっ!!」

「はぁー」と遠坂は大きなため息を吐く。

「大丈夫だ、俺の知り合いだ。よう。お前…着いたなら連絡入れろって言ったろ。」

 女は手をヒラヒラと面倒くさいとジェスチャーする。

「そんなんせんでも正面から入るわ。つーか、その呼び方やめてって言ってるやん。」

 遠坂は「またか」と小さく呟き腰に手を当てた。

「外の警備に止められなかったのか?」

「よそ見しとったから脇、すり抜けて来た」

(なんかしたなコイツ…)

 遠坂にようと呼ばれた女は殺害現場の前に座りまじまじと遺体があった箇所を見つめる。

「はーん。なるほど…」

 葉は立ち上がり次に殺害現場になった部屋の周りをグルリと見渡す。

「女の腹一発殴って。身動きのとれなくなった女を犯す…首絞めプレイで楽しみながら殺したって感じかぁ〜。はぁー、この犯人、殺した後も女の死体に何発か楽しんだみたいやな。キッモ。」

 葉は遠坂のいる方向へ向きを変える。

「どう?ウチの推理。」

 彼女の自信ありげな表情に鑑識の一人が「か、かわいい…」と呟くと、遠坂の平手打ちが鑑識の頭を捉え綺麗な破裂音が現場に響く。

「たく、仏さんもねぇ鑑識結果も見てねぇのにそこまで推理出来んのか。」

 頭をポリポリと書いている。

「結果見せてー。」

 葉は遠坂の書類を取り上げるとペラペラとめくる。

「概ね正解だ、後は犯人像と逃走ルートは分かるか?」

「いや、今は分からん。」

 鑑識結果から視線をまじまじと見つめ言い返す。結果を物凄い速さで読んでいるのだろう…葉の目はあちこちに動いていた。

「そりゃそうか。発見が2週間も遅れていて誰も使ってない廃ビルだからな」

「足跡とか残ってるやろ?」

「建物内にな…外は残念ながら雨で流されている。」

「あー、そっか。」

「大体わかった。」そう言うと彼女はファイルを閉じもう一度周りを見渡す。

「つーか?ここは新宿やろ?これだけの犯罪やってんねんで?監視カメラ調べたらすぐ足つくやろ?」

「じゃ、なんでお前をここに呼ばれたと思う?」

「ん?ウチの顔見たかったんちゃう?」

「んな訳ねぇだろ…」

 遠坂は呆れて大きなため息を吐く。

「新宿区だけでも監視カメラは400台超えるだがその殆どは1週間ほどでデータが消される。当然、映ってれば追いかけてるし、お前さんに連絡しねぇよ」

「なるほどなー。そもそも事件発覚も遅れてしもたからってのもあるか…まぁ、給料分はしっかり働くから安心して」

 そういうと葉は眼鏡を外しもう一度、遺体があった箇所を見る。左手を出しその場に一筆書きで五芒星を描く。するとそこには黒い影が2つ現れた。片方は仰向けもう片方は上に乗り、仰向けの影の首と思われる箇所に手を掛けていた。

(早送り。)

 葉が心で呟くと黒い影の一つが立ち上がり机に向かう。葉は影の行き先を目で追うと影は近くの机に向かう。机の上には栄養ドリンクか何かが入っていた瓶を手に取った。

(停止。)

 心で呟くと近くに居た鑑識スタッフに確認する。

「ここにあった瓶は鑑識回されてる感じ?」

「瓶?いや、食品関係のものはゴミも含めて証拠品は確認出来ていませんね。」

 鑑識は立ち上がり首を傾け答えた。

 鑑識の言葉に晴明は「ふーん。」と返す、もう一度机を見る瓶の置いていた場所に微かに蠢く黒い影を見つける。

(これ…呪力の残滓ざんし…か……ここには瓶が間違いなくあった…にも関わらず鑑識が調べてもその痕跡が出てこんとなると、瓶自体に呪力を付与してウチらみたいな人間にしか分からん様にしたんか?なんで、そんな面倒なことした?もしかして、ウチの存在に気がついてる?)

 葉は影をもう一度見る。

(再生。)

 黒い影は小さな瓶を手に取りそれを飲み干し割れた窓へ投げ捨てた。葉は窓へ向かい外をグルリと眺める、雨足は先ほどに比べて強くなっていた。周りのビルもこちらと同じく廃ビルの様だ。ビルの間には人が入れそうな水路が見えた。

「隣の廃ビルとか建物の間にある水路は調べてんの?」

「いえ、隣のビルは調べているのですが、水路の方はこの雨で水位が増してしまって…」

(まぁ、そうか。可能性は潰しといた方がえぇんやけど、どないしよ…)

 現場を何度も見渡し何かを目で追いかける彼女に遠坂はじっと見つめていた。

「遠坂さん?あの人誰ですか?」

 鑑識が困惑した表情で話し掛ける。

「あぁ?自称陰陽師だそうだ。」

「はい?」普段から冗談を言うタイプではない遠坂の言葉に鑑識は眉を顰めた。

「自称ちゃうわー。ちゃんと『安倍晴明』って名前も継承しとる。」

「はい?」鑑識は先ほどと同じ声のトーンで繰り返した。

 現場を見渡す彼女の姿に、遠坂は出会った当時のことを思い出す。

 セーラー服に長い黒髪を下ろし今とは違い眼鏡をかけていない彼女の姿。

『使われるうちが華やろ?』

 顔や手の甲、制服には返り血が付着しており哀しそうな顔で遠坂に微笑んでいた。

(アイツには普通の暮らしをしておいて欲しいんだがな…上の連中は葉のことを検挙率を上げる道具としか見てねぇ…。)

 遠坂はやり場のない怒りが込み上げて来た。そんな彼の感情を知ることもなく晴明は調査を続ける。

(再生)

 窓からゴミを捨てた黒いシルエットは部屋の外へと向かう。ゆっくりと晴明もその影を追っていく。

「何処に行く、葉。」

「着いて来て。」

 彼女に促され遠坂は後を着いて行く。晴明の目に見えている影は他の人間には見えていない。彼女オリジナルの術式。後にその術式が出来た経緯は語ろうと思うが…それはまた別の機会にでも。

 晴明と遠坂は殺人現場となった部屋を出る。黒い人影がゆっくりと走り出す。録画した映像が再生している様にその人影は下の階へ向かって行く。1階まで降りると影は入り口で立ち止まる。奇妙なことに人影は何もないところに突っ立っていたのだが、観察していると身振り手振りした後に、何かを握り、手を小さく2回上下に振っていた。

(停止。)

 ビルの入り口付近に晴明は腰を下ろし目線の高さを影の手の位置に合わせた。

「おい。お前にしか見えない何かがそこにあるのか?」

 遠坂の声を気にすることなく晴明は人影の真似をしてみる。

「お前、誰と握手してんだ?」

(おっちゃんの目にも握手に見えるか。ここに誰か来た…犯人には共犯がいる?)

(再生)

 人影は何もないところから何かを受け取る様な素振そぶりりを見せそれをポケットにしまう。

(クソ、せめて共犯者みたいな奴がこの建物に入ってたら実体化出来たのに)

「話しかけていいか?」

「ごめん、ちょっと黙って。」そっけなく言い返された遠坂は「へいへい」と頭をいている。

(巻き戻し…スロー再生…………停止!)

 遠坂の方を見向きもせず晴明はじっと犯人が受け取ったものを見つめている。立ち上がり何度も見る角度を変えポケットに何をしまったのかを観察する。

(手のひらに収まる、ちっちゃくて細長いなもん…さっき見たな。外に捨てた瓶か!)

 晴明は土砂降りの雨の中ビルの外に走り出す。「おい!」遠坂の呼び止める声を無視し事件があった部屋の真下に到着する。

(再生)

 窓から投げ捨てられた瓶の行き先を晴明は見逃さないと必死に見ている。

「おめぇ、現場荒らすなって言ったろ…始末書書くの俺だぞ…」

 ゼェゼェと息を切らし晴明のあとを追いかけて来た。彼女はゆっくりと水路沿いのフェンスに近づき目をこらし辺りを見渡す。

(現場にあれだけの残滓が残っとったんや!絶対どっかにある!)

 彼女は目を右往左往とギョロギョロと動かす、雨はまた一段と強くなり水路の水位も上がっていた。

「おい、葉せめて傘ぐらいあってもいいだろ。風邪を」

(あった…。)

 川を挟んだ反対側に残滓を見つけ、遠坂の言葉を聞くこともなく晴明はフェンスを登り出す。

「お前、何やってんだ!!」

 よじ登ろうとする晴明の体を強引に掴む

「ッッッッッッッッ!ぎぃャーアアアアアアーーーーーー!!!!!」

 殺人現場で事件性の高い悲鳴が響き渡る、声に驚き窓や建物の影から鑑識達が覗き込む。

「何すんねんッ!エロ親父ッ!!!!!」

「誰がエロ親父だッ!よく見ろ!雨で水位が上がって足場も悪いんだぞッ!流されたらどうすんだ!!」

 必死に止めようとする遠坂の顔に2度肘打ちが入るのだが、その程度では遠坂は離さない。

「あったんや!手がかり!!」

「だからと言って、この状況でフェンス越えさせるバカいるか!」

「うっるさいわぁあぁああああ!」

 遠坂の景色がぐるりと回転する。見事な背負い投げ…窓から状況を見ていた鑑識が「1本…」と呟いた。

「痛ってぇー」

 地面に倒れている遠坂を無視しフェンスを登る。「待て!」フェンスの反対に着いた晴明は2メートルほど離れた反対側へ助走をつけることなく飛び越える。着地の瞬間、ゆっくりとつま先から足をつく晴明の姿はまるで重力がないようにも見えた。晴明は地面に落ちている瓶の破片を拾う。彼女は破片に纏わり付いている黒い残滓を凝視する。

(やっぱり、これ呪物や。となると…ビルの入り口で犯人が受け取ったもんも…呪物と考えていい。しかし引っかかるな…警察の目をあざむいて、被害者の女の子を犯す為にこんなもん用意するか?普通?)

「いってて…たく、災難だ…。葉ッ!!見つかったのか?」

「……………。」

 腕を組み彼女はじっと瓶の破片を見ている。

「アイツ考え事してるとホント人の声聞こえねぇな。」

(違う。これはただの変態野郎の殺人ちゃう。挑戦状や…)

 晴明はまたフワリと飛び川を越えフェンスを登り戻って来た。彼女の表情を見て遠坂はニヤリと笑う。

「自信ありってつらしてんな。」

「言ったやろ。給料分は働くって。」

 少しづつ犯人に迫って行く感覚が晴明の中で実感した。不適な笑みを浮かべると晴明は遠坂の顔を見た。ずぶ濡れになっている2人はまた廃ビルへ戻り入り口で立ち止まる。

(再生)

 入り口に立っていた影はまた動き出す。影は来た道を戻り出し階段を上がる「着いて来て。」晴明は遠坂にそう言い影に着いて行く。

「葉、お前に何が見えているのかは分からん…真実に近づいてるのかも知れん。だがな、ずぶ濡れで現場歩くのは良くないって事は分かるよな?」

「始末書の枚数が増えるだけやろ?これぐら多めに見てや」

 階段を登る2人の会話はまるで仲のいい親子の様だった。

「書くのは俺だって言ってんだろうが…!」

「おっちゃん?今日は流石に屋上調べてへんの?」

 遠坂の話をぶった斬り晴明が質問する。彼は少しイラつきながら答えた。

「午前中、雨降るまでは調べていたが目立った痕跡はなかったと。」

「ふーん。」と返事をすると屋上まで2人はたどり着く。

(間違いない。ホンマちょこっとやけど、ここから瓶と同じ呪力感じる。)

外に出て屋上周りをグルリと遠坂は見渡しているのに対して、晴明はじっと一点だけを見ている。目線の先には影が受け取った瓶をポケットから取り出す。中身を飲むのかと思えば影は蓋を開け中身を地面に垂れ流している様な素振(そぶ)りをした。影はその場で飛び跳ねている。

(なんや喜んでんか?)

 そして影は急に空中に浮かびビルからビルへと飛び移って行った。 

(ふむふむ、そっちな。)

 晴明はゆっくりと逃げて行った方角を確認する。

「おっちゃん、犯人の逃走経路分かったで。」

「何処だ!?すぐに現場に向かわせる!!」

「ちょっと!ウチの推理聞いてぇや。」

「犯人が居る途中の車で聞いてやる!。」

 急いで車へ向かおうとする遠坂の手を握りこちらに引っ張る。

「ごめんやけど。それじゃまた逃げられてしまいや」

「……?犯人はそんなに切れ者なのか?」

「まさか、ただの性欲に溺れた脳空(のうから)や。」

 晴明は鼻で笑う。

「さて、犯人の身柄確保に行ってくる。」

 晴明はニッコリと笑顔を浮かべ遠坂に背を向けるが遠坂は彼女の手を握る。

「駄目に決まってんだろ!お前はもっと自分を大事にしろッ!」

 力強い眼差しに晴明は思わず目を逸らしてしまう。

「急になに…?カッコえぇこと言うやん。」

 晴明はニヤニヤした顔で茶化すがすぐに真剣な表情で話を戻す。

「せやけど、これに関してはウチが行く。今回の犯人はウチの専門分野やから。」

 彼女の言葉に遠坂は下を向き舌打ちをした。

(なんでだよ…なんでいつも辛い思いをするのは若い子達なんだ…)

 晴明はポケットからシワクチャな1枚の護符を取り出す、

「急々如律令きゅうきゅうにょりつりょう

 彼女が小さく呟くと紙に呪力を流れ込みむ、シワクチャだった護符は瞬く間に綺麗になりそこから折り紙を折りながら2人の周りをグルリと舞うやがて護符は全長2メートルは超える大きな白鷺へと姿を変え、晴明は白鷺に飛び乗った。

「葉っ!!」遠坂の大声に驚き振り返る。

「いいか!?絶対に1人で突入するなッ!犯人の潜伏先に着いたらまず俺に連絡しろ!!俺たちが到着するまで待つんだッ!仮に犯人が気づいて逃走を始めても接触はするなッ!無理に追わなくていい逃してもいい!!分かったな!!」

「ほな、行ってくるわ!」

 遠坂の言葉に晴明は微笑み優しく言い放った。白鷺は大きな翼を羽ばたかせどんどんと遠くへと飛んでゆく。

「絶対に無理はするな…絶対に……。」

「あっ」と遠坂はある事に気づく。

「葉ッ!頼むから、お前とその鳥の姿消せぇぇええええ!」

「消せるんだろ!何か姿消せる術とかあんだろっ!おいっ!!聞こえないのかっ!!」

 遠くで叫ぶ遠坂の声は届く事はなく。後日、トップニュースになりインターネット界隈オカルト系チャンネルをざわつかせたのは言うまでもない。

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