03.JKの膝蹴りちょーいてぇ
「蘆屋道満」そう男が名乗ると鬼は凄まじい速さで怨霊に近づき棍棒を振りかぶる。式神の一撃から逃げようとするが怨霊の巨大な体はピクリと動かない。
「言ったらろ?設置型だって。」
道満の言葉に怨霊の多くの顔が足元を見る、網状の術式が怨霊の動きを止めていた。抜け出そうと必死にもがくが術式は徐々に怨霊の体に絡みつき、より身動きが取れなくなっていく。
動きが止まった怨霊にぶうぉんっ!っと式神の棍棒が振り下ろされる、バキバキッと大木がへし折れる様な音が響く。怨霊は悲鳴をあげ手足を地面に叩きつけてはその場で暴れた。あまりの光景に空いた口が閉まらない真宵の前に道満が立つ。
「道満ッ!!」
式神が合図を送ると道満は素早く手を絡め9つの「印」を組む、「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」ぶつぶつと呟く
最後に縦に4本、横に5本の格子状に線を空中に書くと身動きが取れなくなっていた怨霊は宙へと引き上げられ貼り付け状態になった。
道満は着物の袖口から人型の紙を取り出し宙に投げる。紙はヒラヒラと舞い道満の目線の高さぐらいに留まった。
「籠目詩」
道満は小太刀を勢いよく振り下ろし人型の紙を切り裂く。怨霊は悲鳴を上げ体は引き裂かれ、肉片からはドス黒い炎が漏れ怨霊の体を焼きやがて怨霊は消えていった。
「呪が呪の力によって祓われる。皮肉だね。」
完全に怨霊が消えたのを確認すると先ほど道満と戦っていた式神をスッとその場がら消えていった。
「立てる?」
この世の光景とは思えないものを目の当たりにし腰が抜けた真宵に道満は優しく手を差し伸べる。彼の手を取りゆっくり立ち上がった。
「あの…えっと……ありがとうございます…。」
聞きたいことは沢山あるが、何から聞けばいいのか考えが纏まらず、まず真宵はお礼の言葉を口にした。
「えっ…えっと……。」
真宵は自身が混乱してしまっているのが分かった。落ち着いて考えを整理しようとしたが、次に出て来る言葉が見つからない。困り果ている真宵を道満は優しく微笑みかけ2人はゆっくりと歩き始める。
「送るよ。聞きたいことあるなら歩きながら整理すればいい。」
(聞きたい事……。駅で行き先をしてくれたのはあなた?あの化物はなんだったの?なんで私を狙ったの?陰陽師ってなに?何を聞けば…)
「あの怨霊いつから君に取り憑いていたの?」
眉間に皺を寄せ考え込む真宵に道満から質問してきた。
「えっ?えっと…2週間ほど前?」
「ふぅん…。」
(自分が取り憑かれた日を明確に答えれるか…)道満は前を向き次の質問を投げかける。
「最近、身の周りで何か変なことなかった?」
「変なこと?」その言葉に最近のことを思い出そうとするが、特別思い当たる節がない。真宵はまた考え込んでしまう。
「あの怨霊はね。本来なら1週間前後で対象者を呪い殺す筈なんだ。それが君の場合はその倍の期間何もなかった…何か心当たりないかな?」
(やっぱり殺されていた可能性あったんだ…)当然の様に出てきた道満の言葉に真宵は困惑しながら心当たりを探ったのだが…
「足を怪我はしましたがそれ以外は…ずっと付き纏われていたぐらいです…。」
(怪我?)
道満は真宵の言葉を聞き視線を送る。すると彼女の右手首と右足首から強い霊力の残滓を感じ取ると何事も見なかったかの様に話を続ける。
「そっか………。じゃあ次の質問。どこかの心霊スポットとか行ったとか。」
「行ってないです。」
霊がハッキリと目視出来る彼女が危険なことをわざわざしない。
「そうだよね。じゃあ、この2週間で誰か身近な人が亡くなったとかは?」
「…ないです。」
(だろうね。)
答えを知っているかの様な顔をする道満に真宵は俯いた。
「じゃ、次の質問。最近誰かに告白された?」
真宵は息を呑む。
「あったんっだ。」
(やっぱりか…怨霊を初めて見た時に違和感があった)
そう呟くと道満は少しの間考え込み暫く話さなくなった。
「あっ、あの…?」
真宵の言葉に道満はハッとし笑顔で話出す。
「あぁっ、ごめん少し考え事してただけ。ところで真宵ちゃんは怨霊ってどうやって生まれるか知っているかい?」
「えっと…生前に受けた仕打ちが恨みになって死後そのまま現世に残って……幽霊?怨霊?になる…?」
(あれ?怨霊と幽霊ってどう違うっけ?……地縛霊とか…何が違うんだろう?)
何となく理解をしているのだが、いざ言葉にすると説明出来ず言葉に詰まる。眉を顰めている真宵に道満は驚いた表情を浮かべた。
「おぉッ!概ね合ってるよ。少しだけ違うのは幽霊は人前に現れたりするけど、決して人に危害を加えたりしない、いい幽霊だって居るくらいだからね。逆に怨霊は生前の怨みで関係ない人にまで危害を加えて来る。全く迷惑な話だよねぇーハハハッ!」
どこか小馬鹿にした笑い声が辺りに響く真宵は冷めたい目で、道満を見つめていることに気づき軽く咳払いをする。
「失礼。話を戻そう。君に取り憑いていたのは怨霊だね」
真宵はより困惑した表情を浮かべる。
「怨霊の代表的なものは怨みや憎しみから生まれる所謂、「呪い」。怨みや憎しみが強ければ強いほどより強力な呪いとして対象者を狙う。普通の人は呪われていることは気づかないんだけど…」
(とは言ったが。今回のは怨みから生まれた呪いではない…動機は逆恨みだが…誰かによって意図的に創り出された呪霊。しかも色々な霊が混ざっていた…)
チラリと道満は真宵を見た。視線に気づき彼女は道満を見ると彼は笑顔を作り一言言い放つ。
「今回は本当ドンマイだったね!霊感が強いと不憫だねっ!」
「ハハハッ!」人を小馬鹿にした様な笑い声が夜道に響く。
(この人、もしかして…ノンデリってやつ?)
叱ることにも疲れ真宵は呆れた目で見ていた。暫く歩くと暗かった道は徐々に街の光が灯ってゆくと同時に真宵の心は晴れやかになっていった。いつもと変わらない景色がこんなにも愛おしく思えた。公園に向かう途中に怨霊に踏み潰された車を横目に、駅に辿り着く。改札前を歩いていると聞き覚えのある声がどこからか聞こえてくる。
「真宵ちゃーーーんっ!!」
真宵は目を凝らし人だかりを凝視するとそこには小町の姿があった。
「こっ、小町!?」
小町が真宵の姿を認識すると笑顔でコチラに駆け寄って来ているのだが…徐々に彼女の顔が強張っていく様に真宵の目には見えた。
「やぁあ!久しぶり!こおぉぉおうぅううぅううぅぅぅううううう!」
大きな声で挨拶をしようとした道満の顔面を小町の左膝が完全にクリーンヒットし4〜5メートル離れた先へ吹っ飛びゴロゴロと地面に転がる、ピクピクと痙攣している道満の周りを多くの人間は困惑しながら様子を伺っていた。
「真宵ちゃんっ!大丈夫っ!!怪我はないっ!?!?」
「えっ、うっ、うん…でも蘆屋さんが…」
道満に視線を送ると小町は真宵の事を気にせず物凄い力でグイッと引っ張る。
「道満?誰?そんな奴どうでもいいから叔父さんが運ばれた病院行こっ!」
2人は地面にのたうち回る道満を置き去りにしてその場を走り去って行った。真宵は小町の言葉に叔父の苦痛な顔を思い出す…苦痛に歪みながらも彼女を不安にさせまいと必死に笑みを浮かべる叔父の表情を。
「おじちゃん無事なのっ!??」
不安そうな表情を浮かべる真宵に小町は優しく微笑んだ。
「命に別状はないし、今は暁くんが一緒に居るから大丈夫っ!」
小町の言葉に真宵は安堵の表情を浮かべる。
「叔父さんの荷物を取りに一旦自宅に戻ろう。」
2人は一度自宅に戻った。店の扉を開けると店内は明かりがつきっぱなしだった。厨房の方へと2人は向う。作業台の上に走り書きで『ねーちゃん。戻ったら携帯に電話して』と1枚のメモが置いてあった。真宵は急いで暁に電話をした。呼び出し音が2回3回となる…
「ねーちゃん?」弱々しく震えた掠れ声が電話越しに聞こえた。
「暁っ?!今どこ?!おじちゃんはっ!?そこに居るのっ?!」
捲し立てる真宵に小町は静かに肩に手を置き落ち着くように促す。
「今は暁くんの気持ちを汲んであげて?叔父さんも大変だし、真宵にも何かあったんじゃないかって…凄く取り乱してたんだよ?」
小町の言葉にハッと我に帰り真宵はゆっくり話し始める。
「ごめん。暁、なにがあったか落ち着いたら話すから。私は大丈夫。………心配かけてごめんね…。」
真宵の言葉を聞いて啜り泣く暁の声が聞こえて来た。
「…………俺のほうこそ、ごめん。仕込みに集中しちゃってて……もっとちゃんと気を使えれていれば…」
「いいんだよ。またこうやって声が聞けたんだもん。」
涙を浮かべながらクスリと微笑む。
「無事でよかった…」
暁の啜り泣きの向こうから聞き覚えの声がきこえ、電話を代わるように声をかけている。
「ちょっと待ってね。」そう言うと電話から匠の声が聞こえた。
「真宵…俺の心配しなくても大丈夫だから。暁も帰らせる、今日は自宅でゆっくり休みな。」
真宵を思いかけられた言葉だったのだが彼女はすぐに断る。
「ううん。病院に行く。着替えとかないでしょ?」
「ここへ向かう最中にまた何かあったら…」
(ありがと。おじちゃん。)匠なりの優しさに真宵はクスリと笑う。
「大丈夫。それとも私の顔見たくないってこと?」
気遣い無用と言わんばかりに真宵は声をワントーン上げ匠を揶揄って見せたのだ。「どこの病院に居るの?」
「………………………。」2人の会話を聞きながら小町は静かに店内を見渡す。
「分かった。着替え持って行くね。」
通話を終え小町の方に向き直す。
「お待たせ、今からおじちゃんの病院に行くけど駅まで送って行くよ」
「……………。」
「小町?」
「ううん。私も病院まで着いて行くよ。」
真宵の言葉に小町は静かに向き直し小さく答えた。
「でも…」
「いいから。」
真宵の答えを最後まで聞く前に小町は彼女の背中を押し厨房の奥へと連れて行く。
真宵は匠の部屋に向かい荷造りをし小町と共に店を後にした。病院へ向かう最中、真宵は素朴な疑問を小町に投げかける。
「そういえば…小町なんでここにいるの?」
真宵の言葉に小町は「あっ、うーん。」少し吃りながら答える。
「お母さんの仕事の手伝いで今日は真宵の家の近くまで来ていたの。」
「小町のお母さんのお仕事って呉服屋さんだっけ?」
小町の母親の姿を思い出す。小町は母親似で母親も美しく神秘的な女性だった。
「そう。出張して着付けとかお座敷でのマナーを教えてるの。その帰りにたまたま事故現場に通り掛かって。救急車に運ばれる叔父さんを見かけて、真宵を探してくれって頼まれたの。」
「そうなんだ。ありがとね。」小町に微笑み駅まで辿り着き周りを見渡すとふと真宵はある事を思い出す。
(あっ、蘆屋さん…小町に膝蹴りされてどうなったんだろ?ちゃんとお礼もしてない………あれ?あの時、小町…蘆屋さんの名前を言ってたよね?私…蘆屋さんの名前、言ってないはず…蘆屋さんも小町のこと知ってたぽいし…知り合いなのかな?)
2人は電車に乗り匠がいる病院へ向かう。病院へ着くと2人は急いで受付を済ませ小走りで病室へ向かう。
扉を開けると目を真っ赤にした暁と匠の姿があった。
「暁。いつまで泣いてんだ?」
いつもの笑顔で宥める匠の姿を見て真宵の内側から熱く込み上げ大粒の涙がこぼれ落ちる。部屋の入り口で涙を流している真宵に気づくと匠は優しく「心配かけたな。」と声をかけた。匠に駆け寄り勢いよく抱きつくと声をあげて泣き出す。
「ごめんなさいっごめんなさいっごめんなさい!」
匠は困った表情を浮かべ真宵の頭を撫でる。
「何でお前が謝るんだよ?」
泣きじゃくる真宵を見て匠は2人の両親の葬儀を思い出す。
『私が泣いたら、暁が心配するから。私は泣いちゃダメなの。』
大好きな両親との別れ、大きな声を出し涙を流したかっただろう…しかし真宵は涙をグッと堪え堪えきれなかった涙は彼女の頬を静かに伝った。幼い彼女の手は小さく震えている。
『泣ける強さもあっていいんじゃないか?』
『分かんないよ、そんなの…………。』
真宵は冷たく言い放つ、その日以来、真宵は悲しいこと辛いことがあっても自分の感情をあまり表に出すことがなくなった。
(いつぶりだろ…こんなに感情的になっている真宵を見たのは、もしかしたら初めてかもな…。)
家族の安堵した表情を見て匠は優しい笑顔を浮かべた。