01.女子高生が怨霊に取り憑かれるってよくある事さ
幼い頃から私には、この世のものでは無いもが見えていた。
所謂、幽霊と呼ばれるものだ。悍ましい幽霊が見えると勇気を出して友達に言ったこともあったが…不思議ちゃんとか変わり者と言うレッテルが貼られ、噂は瞬く間に広まっただけだった。幽霊が見えることで知らないクラスの子からも質問攻めにあったこともある。
「霊に襲われたり取り憑かれたりしないの?」
と訊かれたが…「こちらから危害を加えない限りあちらからは何もして来ないよ」と伝えると何処かつまらなそうな顔をしてその場を立ち去っていた。
霊感がある影響で虐められたり除け者にされることはなかったが…
いつしか私は誰にも霊感が強いことを言わなくなり、幽霊が見えたとしても特に何もない事に幼心に思ったのだ。次第に自分以外の他人が認知できないものを気にも留めなくなった。
あの日までは
「入学式の時から好きだったんだよねー、俺と付き合ってよ?」
登校するなりいきなり知らない先輩5人に囲まれ、抵抗する間も無く人気のない校舎裏に強引に連行された女子生徒がいた。
肩まで伸びた少し癖のある黒髪に何処か眠そうな目をした女子…普段から特別テンションが上がるタイプではなく。少し冷めた目で物事を客観的に見ることが出来る、宮守真宵も今回の出来事は困惑していた。
連行された先には見知らぬ男子生徒がいた。男の髪は明るく染められ、左耳には金色のピアスが3つ輝いている。いかにも陽キャという言葉が当てはまる男子が彼女に告白してきたのだ。
「…どちら様ですか?」
突然連行され目の前に現れた男子生徒を前に真宵の表情は引き摺っていた。逃げられない為になのか…ただの野次馬か…
校舎の物陰から先ほど連行してきた5人がコチラを覗いている。
「やだなぁー、2年の小笠原賢治だよ。よく電車で会うじゃん。」
(え…?電車?し、知らない……なに、この人…こっ、怖い。)
男子生徒の言葉に真宵は恐怖心を覚え少しずつ後退りし始める。その姿を見て物陰から1人の女子生徒の声が響く。
「アンタさぁ、告られたんだからちゃんと答えなよ」
ケラケラと真宵を嘲笑う声が聞こえ「おいおい。俺の女困らせんなよ」と小笠原が笑い返していた。
(嫌…。私、この人無理。)
初対面にも等しい男にいきなり所有物の様な扱いを受け真宵は不快感覚えた。
(小笠原先輩?のことよく知らないけど。少なくともこの人の人間性はなんか無理…それに…。)
真宵はゆっくり小笠原に視線を向ける。正しくは彼の背後…そこには悍まし女の霊…いや、人の姿をしていない。人間だったのだと思える怨霊の姿。いくつもの女の霊が混ざり合い、顔や手足がいくつもあり互いに不規則な動きをし蠢き、いくつもある顔は時折奇声を上げていた。
「ん?どうしたの?」
真っ青な顔をしている真宵に気づき小笠原は少しずづ距離を詰め始める。同時に背後の怨霊も少しずづ真宵に歩み寄る。
怨霊が近づく度にベチャっと耳障りで不快な音も近づく。
(ヤダヤダヤダヤダッッッツ!こっち来ないでっ!!)
彼女の想いは届く事なく小笠原は距離を詰め真宵の肩に腕を組んできた。真宵の小柄な体は震え視線は怨霊と目を合わせない様に下を向いている。
「ねぇ?答え聞かしてよぉ?」
ねっとりとした小笠原の声が真宵の耳に貼りつく。同時に怨霊の呻き声と不快で生暖かい吐息が彼女の頬にある。
「ごっ、ごめんなさい…。」
「はぁ?聞こえねぇんだけど?」微かな声が聞こえ小笠原は聞き返す…望んでいない答えが返って来たことには気づいていた。彼の声色からは少し憤激を感じ取れる。
「ごめんなさいっ!私っ!先輩とはお付き合い出来ませんッ!!」
恐怖心で微かな声でしか話せなかった真宵だったが、今度は校舎裏の友人にも聞こえる程の大声が響き渡る、余りにも大きな声が耳元で響き小笠原の腕を勢いよく振り払って走り出す小笠原はその場で尻餅をついてしまった。
「ッ!!クソアマ!ふざけんなっ!」
真宵の背中に多くの罵声が浴びせられたが彼女は気にも止めず走り去った。
(はぁー、災難だったなぁ…)
不快な先輩と計り知れないプレッシャーからの解放されたことで真宵はとどっと疲れが出た様だ。
窓際の席で深いため息をついていると活発的な声が隣から聞こえる。
「お腹空いたぁー、真宵購買行こうよっ!」
アーモンド型のクリクリした大きな目をした小柄な女の子。中学からの付き合いで親友の北沢美雨が話しかけてきた。短めに切り揃えられた茶色の髪はサラサラで綺麗に輝いている。真宵の返事を待つ姿はまるで子犬のようだ。
「購買って…まだ2限目だよ?開いて無いでしょ?」
真宵は呆れた声で肩をすくめ彼女を見た、適当にあしらわれた事に美雨は少し顔を膨らまし鞄をガサガサと漁り出す。
「いぃーもーん。こんな時の為にコンビニでおにぎり買ってきたから。」
鞄の中から勢いよくおにぎりが5つも出てきた。
「あるんじゃん…てか数多っ!これ全部食べるつもり?」
「うんっ!」満面の笑みを浮かべ美雨はベリベリとおにぎりの包装を剥き始めおにぎりを頬張る、間食にしては余りの量の多さに真宵の曇った気持ちは少しずづ晴れていった。彼女の元気な姿と何に対しても真っ直ぐで素直な姿に真宵はいつも助けられていた。
「ふふっ、相変わらず気持ちいい食べっぷりね。」
大人びた声に2人は後ろを振り向く。長い黒髪を頭の上でお団子でまとめ、切れ長な綺麗な二重をした女の子がそこに佇んで居た。細身でスラっとした立ち姿は大和撫子という言葉がピッタリと当てはまる。彼女はもう1人の親友望月小町だ彼女の右手首にはいつも綺麗な水晶のブレスレットが輝いている。2人とは中学からの付き合いで同じ高校に進学し運良く同じクラスになったのだ。
「小町も食べる?」
モゴモゴと口を動かしながら美雨は鮭おにぎりを差し出した。
「ありがと。気持ちだけ受け取っておくね。」
「そっかぁ」そう言うと美雨は早くも2つ目のおにぎりに手を伸ばす、美味しそうに頬張っている姿を見て小町は微笑み真宵の前の席に腰掛け話しかける。
「真宵ちゃん?今日は朝から大変だったらしいね。」
小町は優しく真宵の頭を撫で慰めてきた。普段から小町の立ち振る舞いはこうであった。視野が広く誰に対しても優しく接することから老若男女問わず人気がある。
「え?あっ…う、うん。なんだ知ってるんだ…。」
「噂になっているから…。」
後々知った話になるが、真宵が振った男は2年の陽キャのグループでもリーダー格の男だったらしく、その影響もあり噂が広まったのだろう。
(噂か…。変に話が誇張されてなかったらいいけど…。)
頭を撫でられながら真宵はふと幼い頃のことを思い出していた。幽霊が見えること勇気を出して話したが、変わり者扱いされて学校中から噂されたことを。
『人気者になりたいからって嘘はついちゃダメでしょ?』
先生に言われた一言は今でも忘れられない。
(ホント。こういう話ってすぐに広まるな。)
悲しげな表情でもしていたのだろうか?真宵の目の前に鮭のおにぎりが現れ、クリクリと大きなアーモンド型の目が顔を覗き込んできた。
「っ!?なっ、なに?美雨?」
「何があったのかは美雨ちゃん分かんないけど…お腹が減るとね。幸せなことも辛くなっちゃうだよ?だからおにぎり食べていいよ?」
2人の優しさに真宵は思わず涙が出そうになった。
(恵まれているな…私…)
何があったかは深くは聞かず、ありのままの自分を受け止めてくれる2人の親友に真宵は心から感謝していた。「2人ともありがとう…」真宵の言葉に美雨は勢いよく抱きつき2人の戯れ合う姿を小町が微笑ましく見てた。
1日の授業を終え3人で帰宅する最中、真宵の耳にはベチャっと水溜まりを踏む様な音が聞こえ、思わず足を止め振り返るが、そこには何もない。
「真宵ちゃん?どうかした?」
右隣を歩いていた小町が真宵の異変に気づき声を掛け真宵の視線の先を見つめ美雨も不思議そうに見つめた。
「なんでもない。気のせいだったみたい。」
(なんだろ?どっかで聞いた様な音が聞こえたような…?)
その後も何度かベチャグチャベチャグチャと音が聞こえたが真宵は気にせず2人と別れを告げ帰宅した。
最寄り駅の国分寺駅北口を出て、工事中の道を抜け十分程歩いた所に彼女の家がある。そこは喫茶店兼自宅でもあった。ゆっくりと扉を開けるとカランカランと綺麗な鈴の音が店内に響く、店内の窓は綺麗なステンドグラスに覆われ大正を感じさせるレトロな雰囲気のお店。
「いらっしゃいませ!…なんだ、ねぇーちゃんかよ。いつも言ってるよね!?紛らわしいから、裏口から入れって!」
活気のある男の子に出迎えられた。短髪に黒いシャツにジーンズ。腰には少し汚れた白のエプロンを身につけた男の子…宮守暁だ。何処となく眠そうな目元は姉弟ともによく似ている。
「別にいいじゃん。ていうか暁?今日こそは学校行ったんでしょうね?」
「え?行ってないよ。学校よりここで手伝いした方が勉強になるし楽しいし。」
「アンタね」真宵は頭を抱えていると厨房からコックコートを身に纏い、室内にも関わらず丸渕のサングラスをかけソバージュヘヤーの渋いおじさんが顔を覗かす。叔父の宮守匠だ。
「おかえり。真宵、どうした?少し疲れている様だけど?」
「ただいまー。たった今猛烈に疲れた。」
呆れた顔で弟の顔を見るとヘラヘラと笑っていた。暁は良くも悪くも容量が良く、学校に通わずとも独学で教科書や参考書の問題を解くだけで中間テスト、期末テストをいつも学年トップの成績を収めることが出来てしまうのだ、その為テスト期間以外は学校には行かず、店の手伝いをしている。
初めは叔父も優しく咎めていたのだが…暁が楽しそうに仕事を覚え成長していく姿を見て次第に何も言えなくなってしまった。姉としては素敵な出会いもあるから学校に通って欲しいとも思っているのだが…本人には全くその気がない。
「はぁ」ため息を吐くと真宵は真っ直ぐとお店の奥を抜け自宅1階にある座敷へ向かった。座敷には叔父、匠の趣味である、世界各国の歴史の本がずらりと並んでいる。真宵は窓際の仏壇前に正座し手を合わせた。
(お父さん、お母さん。ただいま。)
仏壇には幸せそうに微笑む2人の写真が飾られている。両親は自動車事故でなくなっていた。祖父母は共に真宵が生まれて間のない時にはなくなっていて唯一の肉親は父親の弟、匠だけだった。身寄りがない2人を当時から喫茶店を営んでいた匠の元に引き取られたのだ。
静かに仏壇に手を合わせる。学校から帰ると毎日、両親に今日の出来事を話していた。今日は変な先輩に告白されたこと、今までにみたことのない怨霊を見たこと、親友に助けられたこと…両親に挨拶を終え真宵は静かに席を立ち店に向かう。
「おじさん。手伝うよ。」髪を後ろで縛り制服姿にエプロンをつけた真宵が厨房に姿を現す。
「ねぇーちゃん!せめて制服着替えなよ!シミとかついたらどうすのさっ!」
「ウールーサーイ!!」
2人のやり取りを叔父が優しく微笑み「ありがとう。」と2人に告げる。叔父の言葉に答えるかの様に2人も笑顔で答え、洗い場に溜まった洗い物を真宵がホールの仕事を暁が役割分担していた。
学校から帰り、叔父の仕事を手伝うのも日課になっていた。真宵と暁の2人は叔父に感謝の言葉では表せない程に感謝していた。両親を失い身寄りがなく途方に暮れていた時、叔父だけは優しく2人迎入れてくれたのだ。育ててくれた恩を彼女らなりに一生懸命返しているのであった。
ラストオーダーの時間が過ぎ最後の客を見送り3人は締め作業を行い全ての仕事を終えると、叔父は2人に晩御飯を作ってあげた。
「真宵?今日何処か元気がなかったけど。幽霊でも見たのか?」
「気づいてたの?」
唐突な言葉に彼女は咽返す。叔父は彼女が幽霊を見える体質である事を信じてくれた人だ。
「お前ら2人のことは見れば分かる。特に暁は。」
不意打ちに暁は味噌汁を吹き出した。
「なんでいきなり俺!?」
ニヤッと叔父が笑うと真宵の方を向き直し神妙なトーンで話出した。
「心配ならお祓いに行くか?」
「大丈夫。久々に大っきいの見ただけだから。」
叔父を心配させまいと彼女は笑顔で答えた。
「そうか……いつでも相談してくれよ。」
(…今日のアレは流石にキツかったな)
灯りを消し眠りにつく前、ベットの上でじっと天井を見つめていた。窓の外からは綺麗な月明かりが照らされている。
(あんなのに取り憑かれて先輩は何も被害とか無いのかな?影響出てもおかしくない…よね?見えない人…羨ましいな…)
色々考えているうちに真宵は深い眠りに落ちていった。眠りの中で窓の外から聞き覚えのある音が聞こえて来た。
ベチャグチャベチャグチャベチャグチャベチャグチャベチャグチャベチャグチャベチャグチャベチャグチャベチャグチャベチャグチャベチャグチャベチャグチャベチャグチャベチャグチャベチャグチャベチャグチャベチャグチャベチャグチャベチャグチャベチャグチャベチャグチャベチャグチャベチャグチャベチャグチャベチャグチャベチャグチャベチャグチャベチャグチャベチャグチャベチャグチャベチャグチャベチャグチャベチャグチャベチャグチャベチャグチャベチャグチャベチャグチャベチャグチャベチャグチャベチャグチャ……
(………??)
息が詰まる…。徐に目を開け窓を見ると…そこには小笠原に取り憑いていた怨霊が窓に張り付きじっとこちらを見ていた。多くの手足と不規則に動いているが、多くの顔は全て真宵の方を見つめている。怨霊と目が合い真宵は硬直してしまう。
ゆっくりと落ち着いた表情で寝返りを打ち天井を見つめる。平然を装うも心臓は凄まじい速さで動いているのが分かった。鼓動の音は耳元から聞こえている様に大きな音だ。
(なんで…?なんでいるの?ダメダメッ…余計なことは考えちゃっ!いっ、今のは見なかったことにして寝よう…こちらから何もせずに放っておけば、そのうちどっかに行くはず…………………だよね?)
恐怖心と戦い真宵は目を瞑り「早く寝ろ!私!!」と葛藤した。その後、明け方になるまで怨霊はずっと真宵の事を見つめ続けてい時折、窓を開けろと言わんばかりにコンコンと叩く音が部屋に響いたのであった。
朝日が真宵の顔を照らし眩しさで目を覚ます。恐怖体験をしたせいか、目の下には大きなクマが出来ていた。怨霊の事を思い出し恐る恐る彼女は窓の方を見ると、そこには見慣れた景色があった。ほっと安心し身体を起こし学校に向かう準備を始める。昨晩の怨霊が何故自分のところに居たのかが真宵には不思議で仕方なかった。
(私、怒らせることしたのかな?)
幼い頃の経験上、霊はこちらから危害加えない限り何もしてこない…。はずだったのだがあの怨霊とも呼べるものは彼女に取り憑いているかの様に思えた。
店へ向かい、店内を見渡すと常連のお客さんたちが何組がモーニングを楽しんでいた。真宵がお客さん達に「おはようございます。」と挨拶をし朝食を食べようとテーブルに着くと弟が何やらこちらの様子を伺っている。
「何?」
視線が気になり不機嫌そうに言うと暁は目を輝かして質問してきた。
「俺の新作っ!エッグベネディクトどう?ねぇ?美味い?」
「は?」と徐に手をつけていた朝食に視線を送る確かに普段とは違い謎に豪華な朝食が出ていたことに気がついた。
「ん…美味しけど…なんでエッグベネディクトなの?」
「ふふっふ。それはね…閃ッ…」
「料理で戦う漫画に感化されて作ったんだと。」
自信満々に己の天才的な閃き!と披露しようとした暁の出鼻を挫く叔父の一言が飛んできたのであった。
「だと思ったよ。」と肩をすくめ真宵は2人に視線を送る。
「おっちゃん!ねーちゃんには内緒って言ったじゃん!」
「ぉん?そうだっけ?」
ケラケラと嘲笑う叔父と少しムキになって食いついている弟の2人のやりとりを見て周りの常連さんも微笑んでいた。いつもの日常の光景を見て真宵の気持ちも楽になり肩の力が抜けた気がした。朝食を終え学校に向かう最中、電車の心地よい揺れが寝不足の真宵を襲う。
(小笠原先輩だっけ?よく電車で会うって言ってたけど…今日も同じ電車にいるのかな?)
混み合った車内をキョロキョロと周りを見渡す。仮に同じ電車に居合わせたとしても彼には会いたくない。怨霊に会いたくないのもあるが、告白され断った相手にどの様な顔をして接したらいいのかは真宵は分からないのもあった。
(よかった。見た感じ小笠原先輩いない。)
少し落ち着き、扉の窓を見ると…昨晩見た怨霊が扉に張り付いていた。
(全然良くなかった…。)
目の前の怨霊に遭うくらいなら、あの奇妙なテンションの小笠原に会う方がまだまっしだと真宵は思った。
(なんで?なんでよッ!?今度は私に取り憑くつもり?!私、何もしてないッ!!)
一晩中見られていた過度のストレスと寝不足から真宵の情緒は不安定になっていた。学校の最寄駅に着き駅を出ても怨霊は真宵の後ろをベチャグチャと不快な音を立てながら付きまとってくる。
学校に着き下駄箱に靴を入れ教室に向かおうとすると、そこには昨日真宵を連行した集団と小笠原本人がそこにいた。
真宵は足を止める事なく小笠原のグループを素通りしようとした時、「あっ、昨日のヤリマン。」「メンヘラじゃん。」「発狂ブス」と囁かれているのが聞こえ、怨霊は小笠原のグループの悪口を聞いて何処か楽しそうに笑っている様に見えた気がし真宵はより不快に感じたのだった。
「真宵っ?何その目!?大丈夫?寝る前に動画とか見過ぎちゃったのっ!?」
「真宵ちゃん?寝る前の2時間はスマホは極力見ない方がいいのよ?」
教室に入り美雨と小町に会うと2人は真宵の目のクマに驚き歩み寄り気にかけてくれた。この2人に会うと気持ちが和らいでいく。
(ホント、2人が居てくれて良かった。)
そう思い気持ちを切り替えて行こうと考えていた矢先…事件が起こる。
4限目の体育の授業の時だった。短距離走でタイムを計測していた時、真宵の順番が回ってきた。
「競争だねっ!真宵っ!」
なぜか意気込む美雨に「お手柔らかに」と苦笑いを浮かべ2人は勢いよくスタートを切る。運動神経が良く脚も速い真宵はどんどんと美雨を引き離して行く。
「まっ、待ってー真宵ぃ!」
何故か呼び止めようとする美雨の声を背中に感じ40メートルぐらい進んだ時だった…ゴールライン手前で突然、真宵は脚に違和感を覚えた瞬間、真宵の視界はグルグルと周り身体中に特に脚に強い痛みを覚えた。何が起こったのか理解するまで多少の時間が掛かったが凄い勢いで転んだのだと、こちらに駆け寄ってくるクラスメイトの姿で理解した。
(あれ?脚がもつれた?……違う…引っ張られた…)
恐る恐る右足を見るとあの怨霊が真宵の足を掴み奇声を上げ笑っていた。余りの不気味さに顔色はどんどん蒼白になっていく。
(ッ!?)
怨霊に掴まれていた右足首にはドス黒いモヤの様なものが纏わりついてそのモヤは徐々に足首を締め付けてゆく。
「真宵ちゃん!大丈夫っ!?立てる?」
先に走り終えゴールライン付近にいた小町が一番に駆けつけ、暫くして美雨がゼェゼェと息を切らしこちらに近づいて来た。転んだ時の騒音に気づき他のクラスメイトも歩み寄って来た。
「宮守さん凄い勢いで転んだけど何処か痛まない?大丈夫??」
心配そうに声を掛けてきた先生に「平気です。」と徐々に酷くなる足首の痛みに堪えながら、立ち上がろうとするもバランスを崩しその場に倒れそうになったところを小町が支え肩を貸してくれた。
「先生。真宵ちゃんを保健室に連れて行きます。」
「わっ、私も!」美雨も真宵の方を貸しゆっくりと保健室へ向かう途中、小町は「本当にごめんなさい。ちょっと教室に行ってくるから待っていて。」そう言い残し2人を残しその場を立ち去って行った。小町を待つ間、顔色の悪い真宵を元気づけようと美雨は真宵に沢山話しかけてくれたが足首のドス黒いモヤは徐々に痛みが増していくばかりだ。
(この黒いモヤ…なに?私にしか見えていないのかな?)
「美雨?私の足…どう見えてる?」
「えっ?凄い腫れている!い、痛いよね?」
(やっぱり…私にしか見えていない?)
美雨は素直な女の子で脊椎反射で見たまま感じたまま答える子だ、彼女が腫れていると答えた感想は黒いモヤが見えていないと言う証拠でもある。
鈍い痛み耐えていると、暫くして小町が戻って来た3人は再び保健室を目指す最中、口数は徐々に減っていく。
「小町?なにしに教室まで行ってたの?」
どんよりと何処か重い空気に耐えられなくなった美雨がなんとか話題を絞り出そうと小町の先ほど教室で何をしていたのか聞いた。「保健室に行けば分かるよ。」と小町は美雨にウィンクを交えて答える。
保健室の扉を開け部屋に入ると優しげな雰囲気の柏木先生が椅子に腰掛けていた。縁側に腰掛けお茶を飲んで居そうな装いからおばちゃん先生と生徒から慕わられている。
「あら?望月さんに北沢さん…宮守さん?転んだの?泥だらけじゃないっ!?」
おっとりした雰囲気の先生だが流石に真宵のボロボロの姿を見て慌てて彼女を椅子に座らせ応急処置を始めた。
「先生。お薬にこれを使って下さいませんか?」
治療の最中、徐に小町がポケットから何かを取り出し先生に渡した。
「もしかしてさっき言ってたやつ?」
不思議そうに小町の手元を美雨が覗くとそこには小さな楕円形のケースを持っていた、小町が静かに開けると透明な塗り薬のようなものが入っているのが見える。
「望月家秘伝の塗り薬だよ。」
「何それっ!凄そうっ!!」
目を輝かせながら美雨は薬を凝視している。
「真宵ちゃん。ちょっと冷たいよ。」
そう言いドス黒いモヤがかかった足首に塗ろうとしたその時。
「待って小町…自分で塗るから…」
(この黒いモヤ…触れた人にどんな影響出すか分からない…それに何かあったら…私耐えられない…。)
不安と恐怖で表情が固まっている真宵に小町は優しく微笑む。
「真宵ちゃん。私、結構強いんだよ?」
「へぇっ?」小町の意味深な言葉に気を取られていると右足首に冷たい薬が塗られ真宵は思わず体が動いてしまった。
(ッ!!………………………。あれ?)
患部に塗られた薬は、真宵の痛みを取るだけではなくドス黒いモヤもどんどん消し去ってゆく。
「なんで…?」
聞こえるか聞こえないか分からないぐらいの微かな声で真宵は呟く。
「痛みはどうかな?」
驚いている真宵に優しく小町は問いかけた。
「いっ、痛くなくなった。」
その言葉を聞いて安心した小町は優しく微笑んだ。
(どうして?)と疑問を抱いている真宵に美雨が勢いよく抱きつく。
「良かった!ここに来るまで真宵、凄く辛そうな顔してたんだもんっ!心配したんだよッ!?」
「痛いって」と苦笑いを浮かべる真宵だった。
(良かった。大事に至らなくて。)
戯れあっている2人の姿を前に、小町は窓の外に視線を送る。
そこには真宵の足に呪いをかけた怨霊が恨めしそうな顔でこちらをじっと睨んでいる…小町も臆することなく怨霊に強く睨みを利かせる、普段の優しい雰囲気とは一変し今にも怨霊は食い殺さんとする程の殺意が漏れ出している…蛇に睨まれた蛙の様に怨霊は怯え、その凄味に圧倒され逃げる様にその場を去って行った。
初投稿になります。
少し長くなってしまいましたが、ここまで読んでいただきありがとうございます。
これから少しづつにはなりますが続きを書いていければなと思います。