ここにゴミを捨てた場合、射殺します
俺はトラック運転手だ。
仕事で山道を走っていて、困ったことがある。
トラックを停められるような場所がないのだ。
そんなスペースはあるにはあるのだが、延々とカラーコーンやら鉄の柵やらで封鎖されている。バカなトラック運転手がゴミをポイ捨てするからだ。まったく……、これじゃ運転中にもしトラブルが起きても停車するところがないじゃないか。
しばらく走っていて、ようやく見つけた。
道の脇に広いスペースが空いていた。俺はそこにトラックを停めると、ポイ捨てするゴミを手に持った。
わかっている。ポイ捨てするやつがいるから次々とこういう駐車スペースが封鎖されるんだ。でも俺は県外から来ていて、二度とこの駐車スペースを利用することはない。ここが封鎖されたって困ることはないのだ。
ゴミ箱を設置しておかないのが悪いのだ。どうせゴミ箱があっても俺は窓からポイ捨てするけどな。
ふとそこに設置されている看板が目に入った。
『ここにゴミを捨てた場合、駐車スペースを封鎖します』とかいう、よくあるやつだ。気にしないよ、こんなものwww
──と、思っていたら、微妙に書いてある内容が違った。
『ここにゴミを捨てた場合、射殺します』
……は?
俺はキョロキョロと辺りを見回した。
誰もいない。
名前を知らない鳥の声がケキョケキョと響いているだけだ。
俺は構わずペットボトルを助手席の窓外へ投げ捨てた。女にはわからない方法で黄色い液体を充填した500mlのペットボトルだ。
ポコン、とペットボトルが着地した音とともに、ザザザと山の斜面を何かが滑り降りてくる音が聞こえた。
「射殺します!」
ポニーテールを揺らし、田舎くさいセーラー服姿の女の子が、開け放った助手席の窓の外からライフルの銃口を俺に向けてきた。
「わあっ!」
俺は敵意のないことを示すべく、両手をあげた。
「なななな……、なんだキミは!?」
「射殺させてください!」
女の子は片目を瞑って照準を俺の額あたりに合わせながら、自信のなさそうな声で言う。
「射殺しないといけないんです! お願い! 射殺させて!」
「ゴミを投げ捨てたくらいで!? 俺、殺されちゃうの!?」
「投げ捨てたくらい!? くらいですって!? それを誰が片付けると思ってるんですかっ!?」
ちょっと彼女の怒りに火を点けてしまったようだ。
「それにあなたがゴミを投げ捨てたせいでここも封鎖されたら、運転中に眠たくなったひとはどこに車を停めればいいんですかっ!?」
「ごめん、ごめん。拾うよ」
「風邪薬を飲んで運転してて眠たくなったしいなここみさんはどこで寝ればいいんですかっ!」
「風邪薬飲んだら運転するなよ! ちゃんと説明書にも書いてあるだろ!」
「とにかく……射殺しますっ!」
「拾ってもだめなのかよ!? ゆ、許して! 罰金払うからさ!」
「なんでもお金で解決しようとするあなたを軽蔑します! やっぱり射殺します!」
「ごめんて!」
「射殺します! 射殺させてください! 射殺しないといけないんです! これで月に20万もらってるんです!」
「キミも結局カネやないかい!」
「大体、どうやってそんな口の小さなペットボトルに黄色い液体を入れてるんですかっ!? そんなにあなたのホースはちっちゃくて、ふにゃふにゃしているのですかっ!?」
「あっ、それはね──」
「パアンッ!」
あーあ……。教えてあげようと思ったのに。
永遠の謎になっちゃったよ。