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いきなり話しかけらたが、いかがしたものか。
少女をじっとりと見てみると、想像以上に可憐で可愛らしい子だった。
大きな瞳に、こぶりな唇。耳は装飾なのか何故か少しとんがっている。
ああすごい、こんな可愛い子この世にいるんだ。異世界と言ってもそんな期待してなかったけど、なかなか捨てたもんじゃないかもな。
「そんなに舐め回すように見ないでください。照れるじゃないですか」
「い、いや、ごめん。別に見とれてしまったとかそういうわけじゃないんだ。人間がいるなと思って観察していただけなんだ」
「人間? それはもしかしてヒューマンのことを言っているのでしょうか。それなら本当に遺憾という他ありませんね。私は誇り高き、世界で一番の種族ハーフエルフなんですが。ヒューマンなどと一緒にしないでください」
「ハーフエルフ?」
少女を今一度観察してみる。
よく見れば長い耳がぴくっと一瞬動いてるぞ。まじか、これ直付けだったのかよ。そうか、異世界なんだからそういう種族もいるか。新鮮新鮮。
「そうですが」
「悪かった、色々事情があってあんまりこの世界に詳しくないものでな。でもエルフとハーフエルフって何が違うんだ? ハーフエルフって中途半端じゃないか」
俺はつい思ったことをそのまま尋ねてみた。
「本当に言っているのだとしたら、流石にやばすぎますよ。私をあんな融通の効かない引きこもり種族と一緒にしないでいただけますか? ハーフエルフは雄大な慈悲と思いやりあふれる暖かな心を持った素晴らしい種族なんですよ。わかりますか?」
「そうなのか。でもなんでそんなハーフエルフさんがこんなところに?」
俺は一番気になっていたところを質問した。
「凄く強い光が見えたので気になって来てみたんですよ。そうしたらあなたがいたのです」
「光だって……?」
どういうことだろう。まさか俺が転生したときの光だったりしないよな? マジでふざけるなよあのじじぃ。目立ってどうするんだよ、俺は目立ちたがりの逆なんだ。逆目立ちたがりなんだ。
「気の所為だろそんなの。そんなことより近くに村とか街とかないか? はっきり言って迷ってるんだ」
「ぷっ、そんな歳にもなって迷子ですか? どんだけ頭花畑なんですか、目付いてますか? えーっと、ぼく、迷子かな? お母さんどこにいるの? あ、ぼくじゃなくてお兄さんか」
「めちゃくちゃ煽るじゃねぇか。そんな悪いことしてねぇだろ俺。そう言うあんたは何してたんだよ」
「あんたではありません。私はツークオリシィーラコスモナトナ二ェーラユグドラという立派な名前があるのです」
……えっと。
「ご、ごめんなんて言った」
「はぁ、この私に二度も名乗らせますか? ツークオリシィーラコスモナトナ二ェーラユグドラです。神木アオシラ様から賜った大切な名前です」
「ああ、そうだなすまん。よろしくな、ツクツクマンサーベルコインランドリージェンダーレスマグネシウム」
「今すぐクビを締められたいですか?」
少女は冗談抜きで怖い口調になった。
「じょ、冗談だ。でも長いからもうツグちゃんとかでいいよな。ツグちゃんは一体何をしてたのかな? あ、俺は上条遊矢ってんだヨロシク」
「……すべてにおいて謝らせたい気分ですが、まぁ取り合ってても疲れるだけです……私は……まぁ散歩をしていたんですよ」
すべてを諦めたかのように少女は吐き捨てた。
「散歩か、こんなところで?」
「……あなたには関係ないことです」
少女は歯切れが悪そうだった。
「まぁなんだっていいけど、とにかく道を案内してくれないか。本当にここがどこなのかもよく分かってないんだ」
「この流れでよく物事を頼もうと思いましたね。普通断られますよ。まぁしかしこの私は特別なので、特別に慈悲を与えてあげます。私を育てた神木様に感謝願いたいですね」
答えはまさかのオーケーだった。これは普通にありがたいやつだがまぁ順当でもあるよな。
やっぱり世の中図々しいやつが勝つようになってるんだ。遠慮しちゃだめなんだ。と心の中で思った。
「マジで困ってたから助かるわ。ありがとう、ツグさん」
「……本当にその呼び名でいくつもりですか」
てことで俺は謎のハーフエルフの少女に案内して貰えることとなった。
はぁほんと良かった。とりあえずは宿にたどり着けるのかな。これで野宿は回避。異世界転生そうそう野生化するところだったぜ。
そうして草原を少女の案内の元歩くこと十五分ほど。
少女の言う通りに進んだ先にあった道を進むと、遠くの方に何か建造物のようなものが見え始めた。
「ふ、ふぅ……なんとか着きましたか」
横をちらりと見てみれば、少女は明らかに安堵の表情になっていた。
「あれは……城壁なのか? てかどうしたんだよ、便秘でもきたか?」
「関係ないことです」
目をそらされてしまった。
なんなんだよ、まぁいっか。
「じゃあありがとな、ここまで案内してくれて本当に助かったわ。お前のこと一生忘れないからな」
「気持ち悪いことを……ぐぅ」
そんな音が聞こえた。
何が起きたのかとびびったが、微妙な感じになる少女を見て理解した。
誰かの腹の音がなったのだ。
俺ではない。
となれば答えは決まっていた。
俺は気を使って笑おうとした。
しかし乾いた笑いになる気がして、とっさにやめた。
「例えばこの世に三日も何も食べずに草原を歩き回っている少女がいたとしましょう。そんな彼女の前に飲食店やら屋台やらなんやらいっぱい詰まってそうな理想郷が……あなたならどうしますか?」
「行くだろうな」
「ならば私もそうしましょう」
少女は前へ向かいせっせと歩き始めた。
かわいい奴め。俺は心と体を爆破させた。




