1
「あ、あれ、ここは……」
「おお、ようやく目覚めたか」
俺は気付けば知らない場所にいた。
神殿のような雰囲気のある場所で、白く美しい柱が何本も並んでいる。
そして目の前には一人の見知らぬ老人が立っていた。
「なんでしょうか、ここは。僕は一体なぜこんな場所にいるのでしょうか」
疑問に想ったことを、そのまま口にする。
「それを今から教えてやろうとしたのだ。ここは天界。そしてお前は死んだ。ご想像の通り、地球でな」
老人は見た目に反して若々しい口調だった。
「俺が死んだだって? やれやれ、そんなことあるわけない。僕はこうして意識を宿して確かに生きているではないか」
「君は勘違いをしている。意識を宿しているのがイコール生きているに直結するわけではないんだよ。君はトラックにしかれて死んだんだ。下校途中にね」
俺はそう言われ考えてみる。
するとクラクションがやけに大きく耳に鳴り響いた光景が思い浮かんだ。
ああ、もしかして……
俺はそれ以上を思い出そうとしたが、寸前のところでやめた。
それ以上思い出すことに意味がないと思ったからだ。
「だから私は君を生き返らせたいと考えている。異世界でね」
「僕が死んでしまったことは一応受け入れましょう。しかし異世界だって? やれやれ、どういう流れでそうなるのかまるで見えてこないな」
「これは救済処置なのだ。地球時間で五年に一度、二十歳以下で死んだ者を定期的に生き返らせるという取り組みを行っている。世界単位の幸と不幸の帳尻を合わせるためにな。君は偶然にもその周期に引っかかり、選ばれた。それだけの話なんじゃよ」
それが本当だとするならば、実に運がいい話だ。
「それでどうする。君は異世界に転生するかどうかを選択することができる。拒否をすれば、君は再び輪廻の輪にもどされ、次の者が繰り上がりでこの特典を享受することとなる」
「なるほど、そういうことなら答えは決まりきっている。その次の者にこの特典を受けさせたくはない。妨害するために、僕は異世界に転生する」
「ほっほ。だいぶ潔い性格をしておるのう。私はお前が大嫌いだ」
「それで? その転生というはまさか赤ちゃんからなんですか?」
転生と聞いて真っ先にイメージしたのがそれだった。
「そこは申し訳ないが、お主の生前の肉体の状態からのスタートということになる。同一の肉体があっての魂。肉体が違えば、お主はお主ではいられなくなる」
「それはいいですね」
「そしてお主は能力を選ぶことができる。それは抽選で決まるのじゃ」
神様がそう言うと、彼の手元に金色の箱が現れた。上の面に一つ穴が開いている。
「それは一体?」
「見てわからんか。これは抽選箱じゃ。この中にいくつもの能力が入っておる。お主の手で自らの能力を引き当てるのじゃ」
「なるほど引けば良いんですね。ちなみに右手と左手、どちらで引けばいいですか?」
「臭くない方の手じゃ」
「おーけー、それなら右手だな」
と言いながらも俺はあえて左手で抽選BOXに手を突っ込んだ。フェイントを入れることで乱数を調整したのだ。
中を探ると、丸くて固い何かがたくさん入っていた。野球ボールくらいのサイズかな。
俺は己の勘に任せ一つを持ち上げた。
「これは……」
俺はボールをじっくりと見てみた。
金色のボールで、何かよくわからない文字が書いてあるだけだ。
「うむ、どれどれ。ほう、一応Sランクをあてたようじゃな。当選確率は六%じゃ。かなり悪くないとは思うぞい」
「それでなんの能力が当たったんですか?」
「うむ、能力は『ビックリBOX』じゃな。周囲のありとあらゆるものを異空間に収納することができる。というものじゃ」
「うーん……」
なんとリアクションしたものか困ってしまった。
聞く感じ特別な何かがありそうには思えない。名前もへんてこだし。
「この能力を手にお主は転生する。ちなみに生活に不便のないよう異世界言語にはなんなく対応できるようにしといてやろう」
「ありがとうございます」
「それでは転生させるとしよう。私がお主に関知するのはここまでじゃ。転生後は特にこちらからアクションを起こすことはない。生きようが死のうがお主の勝手じゃ。勝手に生きろ」
「はい」
そうして俺の体は光に包まれていった。
ああ、転生するんだ俺。
さあて、どんな異世界なのやら。
「うう……ありゃ?」
かすかな陽の光で俺は目覚めた。
気付けば木の根っこを枕に寝ていた。
「やばい……またもや知らない場所にいる……あれ、この感覚どこかで」
俺は一瞬訳が分からず叫びだしそうになった。
しかし冷静に考えて思い出した。
どこか神殿のような場所で、神と名乗る男に異世界転生させられたのだ。
「マジかよ、あれは夢じゃなかったのか……てことはここが異世界?」
キョロキョロと辺りを見渡してみる。
どうやら草原地帯のようで、俺の寝ていた一本の木がある以外は凄く閑散としていた。
「やばい、どうしようか……いやいや違う、冷静になれ。俺は今からこの世界で生きていかなくちゃいけないんだ。ここは一つ深呼吸。すううううううはあああああああ」
「何をしているんでしょうか」
と、そこで突如として話しかけられた。
そこにいたのは一人の少女だった。
甘栗色のショートがよく似合う背の低い人だ。
俺は深呼吸をしている途中だったので、思いっきり間抜けな顔を晒してしまっていた。
俺は死にたくなった。




