第4話 色んな意味での初テイム
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さっきほどまで戦っていたオークはそこにはいない。いるのは俺達と変わらない大きさの男が1人。4人達をテイムした時のように膝を着いて頭を下げている。
「こ、これはどういうことだ…?」
まずテイマーという才能は非常に珍しい才能であった。そう俺は実際に自分以外のテイマーを見たことが無かったのだ。またテイマーは強力な才能と知られていた。それを買われ俺はグラウスのパーティーに誘われたのだ。
「テイムできたのか…?」
俺の呆気に取られた声に気付いたのか目の前で膝を着いている男は顔を上げた。
「はい。私はアーサー様にこの身を捧げます。そしてこの私に名をお付けください。」
そういえば以前テイムに関しての本を見たことを思い出した。
テイムをすると主人の種族に容姿と言語が同じになると…そしてテイムした魔物には必ず名前を付けること。名を付ければより使役した魔物との絆が深まると。
「ということは…本当にさっきのオークなのか。」
「はい。私が先程のオークです。」
オークは体制を変えずに待機している。おそらく俺の名付けというのを待っているのだと思った。
「では名はオルデウスと名付けるけど…いいかな…?」
そう言うと俺の体とオルデウスの体は輝き、表現するのは難しいが本の記載通りオルデウスと「絆」で結ばれた感じがした。俺の体にも変化が起き、さっきより力が強くなったのも感じた。
オルデウスはというと名付け前より体つきがガッチリとし本人は嬉しそうな顔でぶんぶんと頷いていた。
(相当名付けられたのが嬉しいのかな?それとも名前を気に入ってくれたとか…?)
「名はしかと心に刻みました!オルデウスは御身に誠心誠意お仕えさせていただきます!」
こうして俺は本当の意味で初めてのテイムを成功させることができた。
俺の言葉にオークは下げていた頭をあげると俺を見た。そして…
「アーサー様。このオルデム精一杯貴方様にお仕えいたします。」
「え…?喋るの…?」
こうして俺は本当の意味で初めてテイムができたのだ。
そしてオルデウスを新たに仲間に入れて6人になった俺達はまだ時間にも余裕があるためさらに深い7階層に向かった。
この嘆きの迷宮はランクの1番低いF級冒険者からD級冒険者くらいまでが挑戦するダンジョンで最深部は10階層になる。
深いところになると厄介な魔物も出てくるがテイムができるようになった以上、追放されてから安心して背中を預けられる味方が多く欲しかったため俺は10階層まで潜る予定だ。
「そうは言っても…片っ端からテイムすることはできないしせいぜい仲間にできても数体くらいか…」
俺は先程と同じように全方位を守られながら7階層を進んでいた。
「そうですね主殿!我らの仲間をたくさん増やしていつか素敵な国なんて作りましょう!」
オルデウスは俺のことを主殿とさっきから呼んでくる。仲間に加わったことでさっきより俺の周りはきっちりと防御されていた。
正直ちょっと暑苦しいけど…オルデウスめっちゃ元気だし。
「ま、まぁとりあえずがんばろー」
俺の全く覇気のこもってない激励にみんなは『おー!』と元気過ぎるくらいに応えてくれた。
「テイマーって暑苦しい才能だったんだな…」
俺はテイマーのまた別の大変さをこの時痛感したのであった。
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7階層を進んでから1時間ほどがたった。少し強くなったとはいえ戦力にはならない俺がいるため、なるべく危険のないルートをガッチリと守られ進んでいたがここで魔物と鉢合わせることになった。
「アーサー様!下がっていてください!」
「主殿!私たちにお任せを!」
現れたのは3匹のブラックウルフだった。大きさは2メートルほどで足が速く、見た目は黒い体毛をし、発達した爪は刃物のように鋭いという。それでいて鋭い牙もあるため中々手強い。
「ひとまず1匹ずつ倒していきます!アーサー様は最後のトドメだけ入れてください!」
戦闘に関しては悔しいがグラウス達のほうが強いため指示に従う。
(後ろから見ていたほうがいいな…オルデウスの力も見れるしな)
俺はそうして盾を構えみんなの後ろに下がった。
ブラックウルフは一体であれば問題なく対処できるが、基本は群れで行動する。それに加え頭もかなりいいと言われている。
今度は何事もなくテイムしたいけど…どうなる…
先陣を切ったのはオルデウスだった。他の4人とは連携力に欠けるオルデウスは1匹のブラックウルフとタイマンで戦うみたいだ。
グラウス達は4人で連携して2匹を相手していた。
「マーサカバー頼む!」「わかりましたわ!」
4人は安定して2匹のブラックウルフと攻防を繰り広げていた。悔しいがさすがの安定力だ。
今までちブラックウルフは遭遇率がそこまで高くないから今までに数回しか戦闘をしていなかったので少し心配をしていたが、4人は全く問題ないようだ。
オルデウスのほうに目を移すと、戦った時に持っていた棍棒が小さくなってオルデウスの手に握られていた。オルデウスは素早く動き回るブラックウルフを捉えようと棍棒を振っている。しかし、あと一歩のところで当たらないようだった。
「やっぱりブラックウルフのほうが足は速いか…」
でもさっきテイムする前に戦った時よりは断然はやく動くオルデウスを見てテイムの強さが理解できた。
「すばしっこいな!この魔物!」
オルデウスは素早く動くブラックウルフを捉えようとまるでモグラ叩きゲームのように大きな棍棒でぶっ叩きまくっていた。一方のブラックウルフも止められまいと一心不乱に動き回った。
「倒せそうか!オルデウス!」
「問題ないです主殿!」
オルデウスはそう言うと急に動きを止めた。
ブラックウルフも同じように動きを止めお互いに睨み合う。
(オルデウスは大丈夫なのか…?急に動きを止めたが…)
するとオルデウスは俺の方を向いて言ってきた。
「主殿のおかげでこんなこともできるようになったのですよ!我の名はオルデウス…願いへ答えよ!ビースト!」
詠唱のようなのを叫ぶと同時にオルデウスの体は光に包まれた。あまりの眩しさに俺は一瞬、目を瞑ってしまう。
(ま、眩しっ!)
そして現れた…オークとなったオルデウスが。
「主殿!見ていてくださいよ!」
本来の姿へと戻ったオルデウスはさっきよりも少し大きいオークになっていた…
人の姿から6メートル程のオークになっていた。
「さっきより…大きい…?」
オルデウスの体はより筋肉質になっておりオルデウスが激しく動く度にそれに呼応するかのように地面も大きく揺れるのであった。
しかし、ブラックウルフもオルデウスから攻撃を喰らわんと激しく動き、間にオルデウスに鋭利な爪で切り付けんと急接近する。
「やっぱりワンランク上の魔物となると進化した俺でもなかなか辛いものがあるなぁ!」
そしてブラックウルフの体が光ったと思うと雷の如く急加速して接近してくる鉤爪攻撃をオルデウスに与えようとするがオルデウスは直撃寸前で棍棒を使い受け止める。
超加速によってより強力になった攻撃はオルデウスをじわじわと押すが…
「主殿にいい所を見せなくては!スキル!パンプアップ!」
そう言うとオルデウスの体はより引き締まり体の各所の血管が浮き上がる。それにブラックウルフは勢いを消され、そしてじわじわと押し返され、やがて棍棒で弾かれる。
大きく空中に弾かれたブラックウルフは着地しようとするが…
「俺はこの時を狙っていたよ…スタンプ!」
ブラックウルフの着地と同時にオルデウスは棍棒を地面に思いっきり叩きつけ、地面の揺れにより再びブラックウルフを空中に浮かした。
「空中で身動きは取れなかろう!」
オルデウスは空中で身動きの取れないブラックウルフに近づくと棍棒を使いブラックウルフを投げ飛ばす…壁に打ち付けられたブラックウルフは強打と衝撃により気絶し瀕死の状態で倒れた。
「主殿!今ですよ!」
オルデウスの合図に俺はさっきと同じように走り出した。
(まさかこっちのほうがはやく終わるとは…しかもなんだよあの力…テイム前より明らかに強くなっているのがわかる…)
そして俺はオルデウスによって吹き飛ばされ壁に叩きつけられ瀕死になったブラックウルフを持っていた小刀で刺した。