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第2話「行こう、外の世界へ」

※※※※※※※※※※※※



 国民から元老院独裁体制とささやかれる今のリラ共和国の現状だが、そのあり方に異を唱えたものは容赦なく弾圧を受ける。そのせいで不満を募らせていてもそれを口に出せない者が大勢いた。リラもまさにその中の一人だった。


 そんなリラがタクシーで向かっているのが、まさに元老院の議場だった。普段はメタバース上で済まされる元老院とのやり取りであったが、今回ばかりは例外のようだ。


 リラは昨日の件をぼんやり思い悩みながら議場へと向かった。




 元老院の議場はこの国のどの建物よりも豪奢なつくりだった。議場の入り口前には噴水があり、議場への階段は横に百メートルはあろうかというほど広く、左右にそれぞれビーナスの大理石の巨像が配置されていた。議場自体も真っ白な大理石である。




 リラは礼をして議場へと入った。赤色の絨毯やシャンデリア、中央には法廷のように証言台のようなものがあった。リラはそこへ立つよう元老院議員に促された。リラは嫌味を見せることもなく何気ない顔でそこに立つ。極地戦闘員の司令官が中央の議場へ実際に赴くことはまれだ。リラは少し身を固くして議員の発言を待った。




「君たち極地の戦闘員がこの国の安全を守っていることは言うまでもないことであり、その点まことに感謝する。早速だが本題に入ろう」


 リラは気づかれないようにため息をついた。


「つい昨日プラマ共和国から戦争行為に関する最後通牒が通達された。その内容は我々共和国民にはとうてい受け入れられるものではなく、プラマ公国との全面戦争に突入することはもはや避けられそうにない。そこでだ。南北の極地戦力を結集し、君たちには陽動作戦を展開してもらいたい。リラ共和国が南と北に大きく口を開いているのは知っての通り。そこからの敵の大量侵入を阻止してほしいのだ」


 リラは再び小さく息を吐いた。元老院議員の考えていることは手に取るように分かった。コロニーから抜け出す方法はもちろん南北の穴だけではない。そこら中に小さな出入り口がある。そこから脱出することはいくらでも可能なのだ。プラマ公国の攻撃にさえあわなければ。




 リラは二、三のやり取りをして手短に議場を出た。戦力増強の話もラダイトじゃ仕方がない。送られてくる生身の人間は一人いるかどうかだろう。南北に1000kmあるリラ共和国では……いや、プラマ公国相手では、南北の共同体制も大した意味はないだろう。共同したところでプラマ公国の圧倒的物量に立ち向かいようがないのは見え見えだ。そもそもこのコロニーは戦闘など想定していない。プラマ公国に膜などはられてしまったのは何よりの証拠だろう。






 リラは両手を叩いた。


「集合!」


 すると数少ない戦闘員の三人がめいめいの仕事を中断して集まった。基地唯一のやんちゃ者キーナ、他人思いのモナ、終始クールなシーナ、朱雀極地戦闘基地はたった四人の人間で構成されていた。


「今から皆に大事な話をするわ」


「わかった!」とキーナ。「戦争がはじまるんでしょ!」


「大当たりよ、キーナ」とリラが回答したところで基地のアラームが作動した。


「敵機の接近を探知! 数は約30。各戦闘員は至急戦闘態勢に着け!」


 その放送を合図に、四人はそれぞれの専用機に乗り込んだ。


「ラダイトの命令はこれきりにして! M-1リラ、出撃!」


「M-2キーナ、いっきまーす!」


「M-3モナ、出撃します」


「M-4シーナ、出撃です」




 四人はラダイトの援護を受けながら必死の操縦で敵機を撃ち落としていったが、最後通牒を突きつけられた直後ともあって、いつもの練習用戦闘機まがいの生易しい攻撃ではなかった。




「M-4、右足を部分喪失、遠方からの援護射撃に回ります!」


「M-4了解。二人の動きだけなら把握できるわ。何かあったらシーナ、お願い」


「了解です!」




 リラは指揮用のフォルムから二足二腕のフォルムに変態して積極的攻勢に出た。


 相手機は現状十機、編隊は組んでおらず遊撃の体制だ。今回の公国の攻撃機は前回同様中型機のみだが、その移動性能や攻撃の幅広さは倍ほどもあろうかと思われた。


「M-2、一機だけ動きが尋常じゃない奴がいます! 現在回避運動中ですができれば応援……」


「M-2! M-2! 応答せよ!」リラは通信機がやられたのだと思いたかった。とにかく今はその機体をしとめるつもりで攻撃に出る。「私がそいつの相手をする。相手の位置は把握済み。M-2は基地へ戻れ!」




 その折、後ろから銃撃が加えられた。複数発が機体後部に被弾した。リラは後ろに向かって銃撃で応酬した。後ろにいた二機は一機が爆発し、それに巻き込まれる形でもう一機も大きく損傷し戦線を離脱していった。


 発進時の三次元空間を基準に、リラ機は上昇をし、直立してレーザー銃の狙いを定めた。しかし目標の機体はすばしこく回避運動を展開し、リラの予測を裏切る運動を何度も展開した。相手機が腕っぷしのある相手だろうことはすぐにわかった。


 そうしている間にもM-4や小型護衛機が相手を複数機戦線離脱させていた。残りは六機だ。




 リラは相手の動きの癖を把握して機体を撃墜することを狙っていたが、対象機の護衛に回ろうとした一機を離脱させたのみで、今回の星はなかなか一定のパターンの運動を見せなかった。のみならず、一定のパターンを装ってこちらの動きを硬直させては懐に忍び込もうとしてくるなかなかの策略家にも思えた。攻守どちらにも出る構えだ。


「今回の目玉機はそう簡単には目玉焼きになってくれそうにないわね」


「えっ」


「M-3、応答可能なら返事を」


「M-3、敵機から距離があるため応答可能ですが。先ほどの」


「それなら私の援護にまわってくれるかしら」


「了解」


 その瞬間星は急速に加速してこちらに接近してきた。やや楕円軌道を描きながら。


 リラは予測される軌道上に何十発も銃弾を撃ち込んだが、相手機はことごとくそれを回避して見せた。


「やるわね。それならこれはっ、どうっ!?」


 リラは大量の護衛機を射出し、不規則に爆発させていった。時には膜を張って包み込もうともした。しかし星はひるまない。射出の一瞬の隙をついてこちらに爆発物と思われるものを撃ち込む。それはちょうど星と同じ緑色のキューブだった。


 M-3とリラは何とか回避したが、爆風の影響で通信が使えなくなっていた。


 敵機は五機まで減少していたが、星をつぶさないことには意味がない。




 しかし星は突然動きを止めたかと思うと、来た方へと引き換えしていった。リラ機もいつの間にか思うような俊敏な動きを発揮できなくなっていた。


「ちっ、次は必ずしとめてやるんだから、覚えてなさい!」


 敵機は目標を達成したと判断したのか否か、戦闘をやめて引き揚げていった。






※※※※※※※※※※






 研究室には大量のボディが格納されていた。それらをバックに16歳の姿のサニーはさも嬉しそうに言う。


ーーまた会えて嬉しい。


「ええあたしもよ。こんな気味の悪い場所じゃなければもっとよかったのだけれど。聞きたいことが山ほどあるんだけどいいかしら」


ーーちょっと待って、今日は一つだけ言いたいことがあって、それを伝えるためだけに来たの。あんまり時間はかけられない。


「まってサニー、あなたは本物なの? それとも偽物? そこにいるの? ただのホログラム?」


ーーホログラムじゃないよ。いい? 聞いて。わたしからのお願い。


「いいわ。聞いてあげる。いったい何が目的でこんな場所に呼び出して……三年前みたいにいなくなるの?……」


ーーリラ、あなたにはきっとその資格があると思うの。だからさ。


 リラはしずかに息をのんだ。


ーー行こう、外の世界へ。


 サニーは懇願するような調子で言った。そうしてそのままの調子できれいに消えた。

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