オルトハート家の秘密
「私が貴方の本当の娘です!」
今夜招待された舞踏会で私達の目の前に父譲りの金髪と青い瞳、母そっくりな顔立ちの少女が父と私の前に立ち塞がり少女が声を上げた。
「生まれた後、取り替えられて、育てられました。私の本当の人生を返してください!」
涙をいっぱい溜めながら叫んでいた。
「確かにそっくりだな。だが証拠は有るのか?」
お父様はいつも冷静だ。
「あります!耳の後ろに公爵様と同じホクロがあります!この位置にあるホクロは公爵家に生まれる者には必ずあると聞きました!」
「そうか…。明日屋敷に来るが良い。部屋を用意する。お前が本物か確かめる。」
「お父様!?」
私はお父様の言葉に驚いていた。
「帰るぞ……」
舞踏会では何が真実なのか、口々に囁かれていた。
翌朝、昨夜の舞踏会で、自分こそが本物だと宣言した少女が、コーギー男爵と共に来た。
「私はカーラ・ワトソンです。ワトソン商会の娘として育ちましたが、私は両親には似ていません。ずっと前から不思議に思っていて、先日産まれた病院に行き、調べました。同日産まれたのは私以外にもう1人女の子がいたそうです。」
興奮したのか立ち上がり言葉を続けた。
「当時の看護婦さんに聞いて周ったら、新人の看護婦さんが職場のストレスで鬱になり、憂さ晴らしに赤ちゃんを取り替えたそうです。休み明けに病院に行ったら親子はそれぞれ、退院していなかったそうです。
私達は取り替えられたんです!」
カーラは涙を浮かべ必死に訴えた。
「私はワトソン商会と取引きがあり、相談を受け、先日の舞踏会にカーラを連れて行きました。今日も後見人として来ました。私も調べましたがカーラの話は真実でした」
小太りの中年おっさんが、カーラを補足した。
「私の人生を返して!」
カーラは私に向かって指を指した。
人に指さしちゃダメって教わらなかったのかしら?目をウルウルさせて、私が真実よ! って言ってるわよねぇ……。困ったわぁ……
「貴方が私の真実の娘なの?」
お母様は首を傾げて聞いた。
「はい!そうです!お母様!!」
さっそくお母様呼び……。流石に無いよねぇ……。
「私にそっくりねぇ…。部屋を用意してるから、まずは湯浴みをして身体を清潔にしてね。着替えの服はクローゼットに用意してあるから、好きな服を侍女に着せてもらったら良いわ」
お母様はカーラの顔を触っている。
「はい!」
カーラはニンマリ喜んでいる。
「カーラ様、本日よりカーラ様付きの侍女になりました、セアラです。
よろしくお願い致します。
早速ですが、湯浴みの準備が出来ています」
セアラはカーラに深々とお辞儀した。
「お手伝いさせて頂きます」
そう言うとセアラはカーラの髪にブラシを通し、浴槽で髪と身体を洗いマッサージをした。
セアラの技術でカーラはピカピカツルツルお肌になった。
「ありがとう!セアラ!」
天使の笑顔でお礼を言う。
「どういたしまして。お嬢様。」
カーラはお嬢様と呼ばれ満更でもなかった。
色とりどりの豪華な衣装の前で、鼻歌まで歌っている。
衣装を選び、次は屋敷の探索に向かった。
「こんにちは!お疲れ様!ご苦労様!」
カーラは次々屋敷の者に声を掛け、天使の笑顔でアピールした。
♢♢♢♢♢♢
カーラが、屋敷に来て一週間が経った。
屋敷の者達に『お嬢様』と呼ばれ、自分がオルトハート家の娘なんだと堂々としていた。
クラウディアとすれ違いざま、カーラは思いっきり転けた。
「痛っ!どうして足を引っ掛ける様な意地悪するんですか!?そんなにこの家の本当の娘の私が憎いんですか!?」
カーラは涙を溜め、クラウディアを睨みつけた。
呆気に取られたクラウディアは何も言わなかった。
叫ぶカーラの声に屋敷の者達が集まり出した。
そして父母も……。
「どうしたの?こんなに騒いで?」
お母様がカーラに問いただした。
起き上がり、お母様に近寄り、泣きながら経緯を説明するカーラ。
「クラウディアが私に嫌がらせで足を引っ掛けたんです!クラウディアは本当の娘の私が憎いんです!私、いつかクラウディアに殺されます!お母様!私怖いです!!!」
「お母様って呼ばないで頂戴」
お母様はカーラを冷たく見た。
「え?……」
カーラはお母様の言葉に驚いていた。
「私の娘はクラウディアちゃんよ。貴方じゃ無いわ。だって貴方ちっとも私達に似てないもの」
冷たい低い声で言い放った。
「なんでそんな事言うんですか!?私はお母様にそっくりだって皆言ってます!」
庇護欲をそそる、涙を溜めながら訴えた。
「だってぇ、作り物の顔だもの。気色悪いわよ……」
「な!?」
お母様の言葉にカーラは真っ青になった。
「それにね、貴方にはオルトハート家の印が身体にないじゃない。確認済みだから」
「あるじゃないですか!耳の後ろに黒子が!!クラウディアにはありませんよね!?」
「黒子ねぇ…。」
「オルトハート家の精霊が認めた嫡子には尻にアザが必ずある。何人もの侍女と侍女長が入浴中と着替え中に確認したが、お前には無かったそうだ」
とうとうお父様が声を上げた。
「…!?」
「オルトハートのプリティハートよねぇ」
お母様は私とお父様のお尻をナデナデしてきた。
お母様はお尻にあるハートのアザだからプリティハートと呼んでいた。
オルトハート家の秘密、嫡子になる者には必ずお尻にハートのアザがある。
嫡子は必ずしも長子な訳ではない。男女関係なく、オルトハート家を守る精霊が認めた子だけに現れるアザ。
我が家の秘密を家族以外や屋敷の者以外、知らないのも無理はない。知った者は皆この世には居ないのだから…。
大抵1世代に1人か2人自分が本物だ!って現れるらしい…。お父様の時はなんと、3人も出て来たらしいが、全て消え去った。
「コーギー男爵と手を組み騙そうとしたんだろうが、守護精霊に認められない者が我が家の者の筈がない!」
「そんな!セ、セアラは私を認めてくれるわよね!?屋敷の皆だって私の事お嬢様って慕ってくれていたじゃ無い!」
「楽しい一週間をありがとうございました。他所のお嬢様」
屋敷の者はクスクスと笑っていた。皆偽物だと分かっていて揶揄っていたのだった。
「ふざけるなぁーー!!!」
髪を振り乱し、大声を出して地団駄を踏むカーラ。
「煩いわねぇ……。品位のカケラもないのね」
「さっさと牢に連れて行け。寂しくは無いぞ。先にコーギー男爵も入っているからな」
騎士団に連行されるカーラは姿が見えなくなっても暴れて叫んでいた……。
「クラウディアちゃん、お疲れ様。やっと貴方をハグ出来るわ」
お母様は私をハグして匂いをクンクンしている。
「癒されるわぁ。クラウディアちゃんの匂いは最高!!」
お母様、目がヤバイですわ……。
「どいつも、こいつも全く。こんなに似ているクラウディアが娘じゃ無いなんて、よく言えるものだ」
お父様は私の頭をわしゃわしゃ撫でた。
最高の笑顔で。
「クラウディアお嬢様、お疲れ様でした!」
屋敷の者達が笑顔で声をかけてくれる。
たまにある、この偽物劇場を屋敷の者達は暇潰しがてら楽しんでいる。皆良い性格してるわよねぇ。クスクス。
私の代では何人の偽物さんが出てくるかしらね……。
未来を思うと、笑いが出てしまった。
沢山ある作品の中から、この作品を読んで頂いてありがとうございます。
お手数ですが、星で評価頂けたら今後の活力、パワーになりますので、よろしくお願い致します。