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残酷な真実

 ゴウゴウと館が燃えていた。

 幼い頃から何度も通った館だ。

 実家とは違いいつも温かく迎えてくれた。

 馬から飛び降りる。


「フエナ‼」


 ロギルスは愛する者の名を呼び燃え盛る館に飛び込んだ。

 パチパチと飛び散る火の粉と煙が辺りを覆っている。

 ゴホゴホと咳込む。

 玄関ホールは血の海でメイドや使用人が倒れていた。

 皆笑顔で迎え入れてくれた者達だ。

 皆血塗れで事切れている。


「そんな……」


 我しらず言葉が漏れる。

 そこにあるのは余りにも理不尽な死だった。


「おや?お前帰るのが早いじゃないか」


 男が一人立っている。

 よく知る男だ。


「ち……父上?」


 血で濡れた剣を友人だった男の体から引き抜いて父は歪に笑う。

 この館に初めて連れて来てくれたのは父だった。

 シーザル・ハスブル伯爵とその娘エレナを紹介してくれた。


『このがお前の婚約者だよ』


 父は優しくエレナを紹介してくれた。

 もしかしたら優しくされたのはあれが最初で最後だったのかも知れない。

 しかし彼はエレナより妹のフェナーデに魅かれていく。

 父親には、エレナとの婚約を破棄してフェナーデとの婚約を結び直しても『そうか。好きにすると良い』としか言われなかった。


「ふん。父上か……親子ゴッコはお仕舞いだ」


「父上?」


 凍てつく様な冷たい視線にたじろぐ。

 確かに父親は自分に冷たかった。

 政略結婚だった両親だし、貴族の結婚はそんなもんだと聞かされてもいた。

 その代わりに母は優しかった。

 しかし、父は従兄弟には優しかった。

 父は弟と甥とは親しかった。

 まるで父親のように甥に接していた。

 その事を母に訴えたが、母親は曖昧に笑って「気のせいよ」と言うばかりだ。

 違和感はあった。

 従兄弟が父の息子かと疑ったが、そうではなかった。

 叔父と従兄弟はそっくりだったから。

 自分は父に愛されていない。

 だから、愛ある家庭を築きたかった。

 思わず、視線を下に逸らせた。

 父親の足元に倒れている別の死体に気が付き息を呑む。

 愛しい婚約者は父親の足元で事切れていた。

 彼はかけより冷たくなった亡骸を掻き抱く。


「何故‼️ 何故‼️ 何故なのです‼️ 彼女が何をしたと言うのです‼️」


「その娘の罪は存在した事だ」


「存在した事?」


「それはお前にも言える」


 凍てつく様な眼差しで、かつて父上と呼んでいた存在が睨む。


「存在した事が罪?」


「そうだ。お前は王との不義の子供」


 レオパルトは淡々と真実をのべる。


「王と母上は不倫を……母上はそんな人ではありません‼️」


「私はね子供の頃、高熱を出して子供を作れない体になったんだよ」


 男は嗤う。


「まあ。お前の母親は知らなかったがね」


「私の瞳が王家の色なのは降嫁した曾祖母に似たからです‼️」


 何度も母から言われた言葉。

 全く疑問に思わなかった。


「ああ。曾祖母は子供を産んでない。曾祖父とメイドの子供を自分の子供として引き取っただけだ」


 王家も知らない事だよと呟く。


「だから……その瞳の子供が生まれる事は無い」


「ならば‼️ 彼女に何の咎があると言うんですか‼️」


 男は更に逆上する。


「穢わらしい‼️ 穢わらしい‼️ その娘が一番の穢れだ‼️ その娘は国王と隣国の第四姫との子供だ‼️ しかもお前との子を孕んでいる‼️」


 頭が上手く働かない。


「なっ……それでは彼女と私は……」


「腹違いの兄妹だ‼️」


「うっ……」


「しかも、この男はそれを知りながらお前とこの娘を結婚させて王位簒奪を隣国と一緒に企てていた。だから死ね‼️ ああ。後の事は心配要らない。お前を産んだ女も直ぐに後を追うだろう」


 男は剣を振り下ろした。

 かって息子だった者は首を斬られる。

 辺りを赤く染める。

 その首はゴロゴロと奥のドアまで転がっていった。

 奥のドアが開き転がった首に当たる。

 ドアから黒装束の男達が出てきた。


「すんだか?」


「はい。下級メイドも使用人も全て片付けました」


「うむ」


 男は頷く。

 伯爵家は盗賊に襲われ館に居るものは全員皆殺しにあった。

 男達は音も立てず燃え盛る館から出ると闇に消えていった。




 後日、ハスブル伯爵家は盗賊に襲われ皆殺しにあったと新聞の片隅に載っていた。

 目撃者の話によると賊は黒い森に消えていったとの事。

 黒い森の先には隣国がありおそらく隣の国に逃げたのだろうとの事だった。

 国境で盗賊が暴れるのは珍しい事では無かったから。

 人々は痛ましい事件に息子を失ったランカスター侯爵とエイダ夫人に痛く同情した。

 また、王妃のお茶会に呼ばれていた、ただ一人生き延びた伯爵夫人にも痛く同情が集まった。

 侯爵は家族の葬儀が終わると弟に全てを譲ると巡礼の旅に出たという。


 夫と娘を失ったセテイ・ハスブル伯爵夫人は夫の遠縁に家督を譲ると隣国の叔母を訪ねて騎士1人を連れてこの国を去った。


 暫くして王が病に倒れ、離宮で静養する事になり、皇太子が国を継いだ。

 新しい王は王妃を愛し二人は三人の子供に恵まれた。王弟も良く兄を支え国は繁栄した。

 数年後、王はみまかられた。



 息子を失い巡礼の旅に出たランカスター侯爵夫妻が馬車の事故で亡くなったと知らせが入った。

 滝に落ちた二人の遺体は見つからず。

 空っぽの棺が霊廟に納められ、身内だけの葬儀がひっそりと執り行われた。


 暫くしてランカスター侯爵に似た男を町で見かけたと噂がたったが。

 他人のそら似だろうと直ぐに噂はたち消えた。

 そして……

 皆ハスブル伯爵家の悲劇もランカスター侯爵家の悲劇も記憶から薄れていった。







 Fin


 2022年11月12日 小説家になろう どんC

最後までお読みいただきありがとうございます。

感想・評価・ブックマーク・誤字報告感謝いたします。

特に誤字報告(笑)は本当に感謝しております。

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