07
「愛葉ー」
「ええ」
「愛葉ー、構ってよー」
「もう、なんなのよさっきから」
なんだか前よりベッタリになった気がする。
それはそれで嬉しいが、本が全く読めないので頻度を抑えてほしいと思う。
「愛葉、ちょっといい?」
「ええ」
「見ている限り、愛子とは仲直りしたんでしょ? だからさ、今度こそお泊り会をしようよ」
橘花とふたりきりではなくてもいいのだろうか?
「私はいいわよ」
「私も賛成!」
でも、断る意味もない。
どうせならどれぐらい水空たちが仲良くなっているか確認したかったからちょうど良かった。
「それで橘花は?」
「いるよ、私の後ろに張り付いてる。橘花、愛葉は私を狙ったりしていないから安心しな」
「うぅ……でも、橘花が取られたら嫌だから」
「ま、こんな感じで……なんかベッタリになっちゃってさ、他の子といると必ずこうなるんだよ」
「仲がいいのね」
彼女のそれはもう完全に特別なものだ。
だが愛子の方は……どうなのかがわからない。
一応嫌いにならずにはいてくれているようだが、もう少しわかりやすく接してほしい。
「今日からでいいでしょう?」
「うん、じゃあそれで。ほら行くよ」
「うん……橘花は私のもの」
あ。あれは甘やかしすぎて良くない方へ変化している証拠だ。
愛子には決してそんなことをしない、しっかり駄目なことは駄目だと言う。
「愛葉、なんでそんな難しい顔をしているの?」
「愛子、ああなっては駄目よ? あなたは私が自分のものとか言っては駄目よ?」
「え? 愛葉は私のだけど、誰にも渡さないし」
「はぁ……どうせいつもの口先だけでしょ?」
「本気だけど、なんならここでキスしてもいいよ?」
ふぅ、読書を再開しよう。
ふたりが泊まりに来るのなら本を読む時間なんてない――と言うか、協調性がないと言われて終わり、だからいまの内にたくさん読んでおくのだ。
「それ面白い?」
「ええ、読み終わったら貸してあげるわ」
「ありがとー」
ただ帰るだけではなくスーパーに言って食材とかお菓子とかも買う必要がある。
そんな時に愛子の存在は助かるわけだ、最近の子が好きそうなお菓子を選んでくれるはず。
「……どうして私の膝の上に座っているの?」
「え、自由に本を読んでていいよ?」
「気になるわよ」
「じゃあこうしておく、ぎゅー」
どうして姉の背中に腕を回して読まなければならないのか。
「あんたたちなにやってんの?」
「愛子に言ってちょうだい。それに私は読書中よ」
「だからツッコミにきたんだけど……」
私がいま1番姉に言いたいところだが、水空に任せておけば解決するだろうか?
それならこのまま放置しておく、姉は小さいからこれでも字を読むのには苦労しないから。
「愛子、せめて家にしな」
「えー、だってこうしておかないと愛葉が取られる」
「大丈夫、愛葉は私たち以外友達いないから」
「それでも密かなファンがいそうでしょー?」
「いないっ、愛葉は人気じゃない!」
そうだ、……って、余計なお世話だ。
「愛子ちゃん、愛葉さんと仲良くしたいのならふたりきりの時がおすすめだよ。この前、水空が体育館裏で――もがっ!?」
「言わなくていいっ。それに手を繋いだだけだし」
「「自分で言ってるじゃん……」」
「うるさい。いいから教室ではやめな、教師とかに目をつけられたら面倒くさいよ」
「はーい……」
いつの間にか愛子と橘花も仲良くなっているみたい。
ああ……全く読書に集中できない、この子は友達が多いからあっという間に消えてしまいそう。
「あなたが悪いのよ」
「え? わっ」
姉を抱きしめたのはかなり久しぶりな気がした。
立ってするのとは違い、なんだか変な気分になりそうになるのをぐっと我慢。
「どこにも行かないで」
「え、あ……ぅん」
本は頑張って机の上に置いておいたから大丈夫。
姉は柔らかくて小さくて可愛い、自分からする時とは違って緊張している感じなのが面白かった。
「イチャイチャすんなっ!」
「ったあ!? な、なんで私だけなんだよー!」
「メスの顔をしてたからだよっ」
「わ、わかったからチョップしないでー……」
ふぅ、水空のおかげで助かった、移動してくれたから。
「じー」
「えっ?」
「水空ちゃんを取ろうとするのは許せない、ですっ」
「ち、違うわよ」
「水空ちゃんでは不満だということですか?」
こんなやり取りを昔にしたことを思い出す。
あの時は私が愛子では不満なのかって絡んだわけだが、今度は自分が言われる立場になったらしい。
「橘花は水空のどういうところが好きなの?」
「全て、ですっ」
「面倒見がいいものね」
「狙わないでください!」
「大丈夫よ、今日楽しみにしているわよ?」
「はい!」
できる限り集中して残りの時間を過ごしていく。
少しだけ浮かれている自分を発見することができた。
意外にもそういう気持ちが自分の中にもあるみたい。
「――愛子、スーパーに行かないといけないのだけれど」
「ちょっと付いてきてー」
それにふたりには待ってもらっているから急がなければならないのに。
「ほらここだよっ」
「ん? ただの草原じゃない」
目の前全てが緑緑している。
穏やかな風に揺らされ、なんとも落ち着く音を発生させていた。
とはいえ、このなんとも言えない中途半端な時期だと特に新鮮さを感じることもなくといった感じ。
「ここにいるとさっ、世界にふたりしかいない感じしないっ?」
楽しそうにしているところを邪魔するのも申し訳ない。
だから特になにかを言ったりはしないでおくことにした。
それにここなら愛子の言うようにふたりきりだから、誰かに姉が取られるのではないのかと不安にならなくていい。
「どうやってここを知ったの?」
「先週だよ、体調が悪いときにここに来たんだ。気づいたらこっちに来ててさ」
「家は向こうよ? 大丈夫だったの?」
「大丈夫! ちゃんと沙里奈に来てもらって帰ったからさ!」
全然大丈夫そうではないが……沙里奈さん、ごめんなさい。
――もし、いまここで姉を抱きしめたら。
そんなことは余裕でできる、家に帰ってからふたりがいるところですることよりも簡単だ。
どうせ水空や橘花だってしているだろうから我慢する必要もないだろう。
ただ、
「愛葉ー!」
この笑顔を見ていると邪魔したくないという気持ちが強く出てくる。
弱々笑顔だと胸が苦しくなり、逆に最高の笑顔だとなにもしたくなくなるって本当に面倒くさい。
「愛葉っ」
「――っ、な、なに?」
先程までそこそこ距離があったのにどんな身体能力だ。
「そろそろ帰ろっか! スーパーに行かなければならないからね!」
「ええ、そうしましょうか」
時間がかかるため、元々水空か橘花の家で待っているように言っておいた。
だから本当はそこまで急がなくても大丈夫、明日は休日なのもその理由になっている。
どうせ泊まるのだからゆったりとした時間を過ごしたい、過ごしてもらいたい。
それに、水空と橘花は相手とだけ仲良くしそうだし。
「なに買うの?」
「またお鍋にしましょうか。あなたはお菓子を選んでおいてくれる?」
「わかった――と言いたいところだけど、わざわざ別れて見る必要ないでしょ」
「そう? それなら一緒に見て回りましょうか」
すぐに己の失敗を悟る。
なぜだか手を繋ぎながら見て回りたいらしい。
先程のあれが残ったままだから正直に言ってモヤモヤする流れになってしまったのだ。
別に私たちはここにそういうことをしに来たわけではないっ。
「んーと、締めのうどんも必要だよね」
「そうね」
「お肉とかも買ったし、後はジュースとかお菓子だけか」
「ええ、あまり余裕はないけれどね」
さすがに会計時には手を離してくれた。
さて、ある程度準備してから呼ぶべきか、それとも途中で寄って一緒に行くべきか。
――後者の方が効率的か、そのことを愛子に話して水空の家に向かう。
「持つよ」
「ありがとう、半分持ってちょうだい」
「うんっ」
持たない方が楽でいいのに、よくわからない姉だった。
「水空と入らなくて良かったの?」
数時間後、私はおねむの橘花とふたりきりでいた。
現在は愛子と水空がお風呂に入っているため、順番待ちをしている状態だ。
「……はい、まだ見られるのは緊張するので」
「でも、愛子と入っているのにいいの?」
「大丈夫です、愛子ちゃんは信用できます。愛葉さんはできませんっ」
え、なんだか水空を狙っていることになっているらしい。
私は愛子を抱きしめたくて、けれどできなくてモヤモヤと戦っている状態なのに……まったく。
「出たよー!」
「ほら橘花、行ってきなさい」
「なのでっ、裸のお付き合いをしましょう!」
「いいわよ? あなたがいいなら」
もちろん、至って健全な入浴タイムとなった。
ふたりで出たら水空がもううつ伏せで爆睡していて、それにちょっかいを出そうとする愛子を止めるのに大変だったぐらいだ。
ふたりきりがいいだろうからということで私たちは部屋から退出。
「はい、ジュースっ」
「ありがとう。乾杯」
「うんっ」
うん、甘くて美味しい。
それだけではなくて、いらないものを流してくれる魅力があった。
当たり前のように寄りかかってくる姉の頭を撫でて、視線だけは前へと向けておく。
「水空ね、小さかった」
「言わないであげなさい」
「色々なところが小さかった。ちょっと冗談言っただけで怒るし」
「あなたの冗談は破壊力があるのよ」
自分の弱いところを突かれたら平静ではいられない。
例えば私が「私のこと気になってるんでしょ?」なんて言われたら終わりだ。
「橘花ちゃんのことが好きなんだって」
「ふふ、それは見ていればわかるわ」
「だよね、いちいち言わなくても丸わかりなのにさー」
水空なりの取られたくないアピールなのだろう。
あの子がまさか大人しくなって大人しい橘花を好むなんて全然予想もつかなかったけれど。
あの子も意外と驚いたりしていそうだ、いまでは橘花ばかりを優先して他の友達に怒られているくらいだしね。
「橘花ちゃんはどうだった?」
「普通だったわよ、やっとわかってくれたわ」
「自分の好きな人を取られたくなくて必死なんだろうね」
「そうね」
これからは敬語もやめてくれるそうだから楽しい時間を過ごすことができるだろう。
4人で仲良くしていければ終わった時にいい高校生活だったと感想が自然と出るはず。
姉だけがいてくれればいいと考えていた自分はもうここにはいなかった。
もっとも、それがいいことなのかどうかはわからなかったけれど。
「沙里奈ちゃんが気になるって言ったの、嘘だからね?」
「どちらにしても振られてしまったじゃない」
「そうなんだよねー」
前に進んだり後ろに下がったり。
なんとなくお互いに探り合っているようなそんな会話の仕方だった。
「私たちはここで寝るの?」
「そうね、部屋はあの子たちに譲りましょう」
「んー、ちょっと甘くない?」
「せっかく来てくれたのよ? これぐらいはしないと駄目よ」
「でもさ……あそこはいつも私たちが寝ているところだから……ちょっと恥ずかしくて」
驚いた、恥ずかしさとか感じたりするのかと。
いやまあ、姉も普通の人間なんだからなんらおかしくはないけれども。
「ど、どうする? き、キスとかしてたら」
「いいじゃない、やらせておけば」
「あそこでこれからも私たちは寝るんだよ? 生々しくて嫌じゃんっ」
自分たちがする分にはいいのだろうか。
姉も私も、どういう関係を求めているのか。
このまま姉妹として一緒にいる生活というのも一般的でいいだろう。
だが、あのふたりの親密さを見ているとそれだけでは物足りない気がしてくるのが問題だ。
と言うより、やはりしょうもないプライドが問題なのかもしれない。
「ふふ、これからもずっと一緒に寝てくれるのね」
「え? そりゃそうでしょ、ここが私たちの家なんだから」
「ええ、そうよね」
終わりは唐突に訪れる。
ならば、そうなる前にやることをやっておくのが1番ではないだろうか。
変なこと気にしてなにもできずに終わるのなんて自分で自分が許せない。
「愛子、ジュース置いて?」
「うん」
多少ぐらい自分の欲求に素直になったところで愛子は怒らない――はずだ。
「置いたよ、わっ」
「あそこに行った時からずっとこうしたかったのよ」
抱きしめると言うより覆いかぶさるようになってしまったのは許してほしい。
「あなたはいいわよね、呑気に抱きしめてきたり、手を握ってきたり自由にできて。私がどれだけ大変だったかなんてわからないものね。姉妹だからってなんでもしていいわけではないのよ? 少なくとも、私みたいな存在にそんなことをしたらどうなるのかなんてわかるわよね?」
ああ、なんだかとても悪いことをしていみたいだった。
両親からすればそうかもしれない、実の姉に欲情――愛を求めてしまう悪い妹。
「……本気?」
「ええ……もう我慢できないの」
「橘花ちゃんと水空ちゃんもいるのに?」
「ええ……関係ないわ」
あ、しかし待ってほしい。
ここからどうしたらいいのか、それを全く考えていなかった。
私はこういうことをしたいのだと伝わっただけで満足しておけばいいだろうか。
「とりあえず今日のところはやめ――きゃっ」
「そんなの無理だよ」
立場が逆になった。
私が下から見つめる形に。
普段可愛いくせに、真面目な顔になると新鮮でそれはそれで心が揺れる。
「私はずっと前からこうしたかった」
「……私が勝手に距離を作ろうとしていただけだと言いたいの?」
「そうだよ。私は1度だってそういう意味で離れようとしたことはないもん」
あの時の判断も私のためだったらしいし、こちらがネガティブすぎただけか。
「愛葉は私のお世話をしてくれていたけどさ、それはお母さんとお父さんに頼まれたからだと思ってた、義務感? みたいな感じで。でも、違うんだよね? 私をそういう意味で求めてくれるんだよね?」
「あなたわかっているの? 私たちは姉妹なのよ?」
「……自分の方から襲っておいてなに言ってるの」
普通の親ならやめろと言うだろう。
なにも縛りが大きい身内を特別に見定めなくてもと。
間違いなく親に言う必要が出てくるが……。
「ねえ愛葉……好きだよ」
もう向こうは完全にそういうモードに入っている。
そのまま抱きしめて、耳元で甘く好きだと囁く姉。
ふたり暮らし状態ならバレずにいけるのではないか?
いや、駄目か、私がそもそもそんなにコソコソしたくない。
とりあえずこれ以上甘い声で囁かれたりすると不味いため、抱きしめて言わせないことにした。
「愛子、一緒に言いに行きましょうか」
「お母さんとお父さんに?」
「ええ。それでもし駄目だと言われても、私はあなたを諦めないわ」
「行く」
「ありがとう」
姉以外の人間なんて考えられない。
もちろん、この先どんなことがあるのかはわからない。
いい人に出会うかもしれないし、そうではなく姉が1番かもしれない。
ただ、私は過去と現在しか知らないのだから、いまの気持ちを優先しておけばいい。
「愛葉」
「あ、水空……」
――いや、こういうことがあるとわかっていてもなお、私はすることを選んだのだ。
「橘花が喉乾いたみたいでね、ジュース持っていってもいい?」
「ええ、いくらでもいいわよ」
「ありがと。で、そこの茹でダコさんはどうしたの? 愛葉の上に乗っておきながら自分が赤面しているとか馬鹿じゃん。やっぱり愛子には愛葉がいないと駄目だよね」
「なんでそう思うの? 私より愛子の方が優れているのよ?」
「ビジュアル的に? 愛子は小さいし、なんか考えなしっぽいからさ。ま、ジュース持っていくから」
これだけ余裕ということは彼女たちはもっと派手なことをしていることか。
となれば、ただ好きだと囁かれただけでドキドキしている私たちの負けと。
「あ、愛葉は恥ずかしくなかったの?」
「どうして? 私はあなたが好きなのだから恥ずかしくなんかないわよ」
「だ、だってこれじゃあえ……っちなことしているみたい……だし」
「いいじゃない、好き同士なら」
「だ、だめだよっ、そ、そういうのは完全にふたりきりの時じゃないとっ」
男の子の上に跨って色々していたのなら確かにそうかもしれないけれど、私も姉もきちんとした女だ、上に乗られていても物理的に想いなぐらいにしか感じない。
「押し倒したのはあなたよ?」
「……頭が真っ白になった」
「ふふ、可愛いわね」
……自分も押し倒した後にどうすればいいのかわからなくなったからよく似ている。
「そろそろ寝ましょうか」
「布団とかないけど……」
「綺麗にしてあるから直接でも大丈夫よ。ほら、来なさい」
少し固いが寝られない程ではない。
せめてお腹を冷やさないようにと持ってきている小さい毛布をかけて寝ることにする。
「近いわよ」
「離れたくない」
「やっぱりソファで寝たらどう? その方が痛くないわよ?」
「やだっ、愛葉に抱きついて寝る」
「そう。いいわ、寝ましょうか」
私が弱くなければ変な衝突をしなくて済んだ。
姉の体調の悪さを見抜いていれば、余計に傷つけなくて済んだかもしれない。
こんな自分を求めてくれた姉に感謝をしているが、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
皆は愛子には私がいなければ駄目だと言う。
けれど実際は違って、私には愛子がいなければならないのだ。
笑顔を見られるだけで疲れが吹き飛ぶ、その証拠に、共にいられるようになってからは疲れ知らずだ。
姉でもなければこんなつまらない人間である私とは接点もなかったことだろう。
それでも求めてくれたのならば、両親にだって誰にだってきちんと言うつもりでいる。
否定されても私は大好きな愛子と居続ける、きちんと稼いでかかったお金を返せば大丈夫なはず。
いつまで経っても愛子の側にいられるように頑張らなければならない、という気持ちは変わらない。
「愛葉がお姉ちゃんなら良かったな」
「そうね、それならふたりも喜ぶはずよ。姉より優秀な妹が生まれて」
「だってみんな愛葉の方が姉に相応しいって言うんだもん」
「そんなこと絶対にないわよ、あなたの方が姉に相応しいわ」
少しでも姉や母みたいになりたかった。
だからいいところをとにかく真似して頑張ってみた結果、いまがある。
家事はそこそこできるし、勉強や運動だって人並み以上にはできているつもりだ。
でも、必死に頑張って努力してそれだから、姉や母と比べて気が滅入る時もあるわけで。
相手が優しいからこそ辛いこともある、これは優れた人が身近にいないとわからないことだと思う。
だって敵視なんてできないでしょう? 優しければなおさら。
それに八つ当たりをしないことだって知っているわけだし、そんなことをすれば自分がただただ虚しい存在だとわかってしまうから。
「それに、さ……お姉ちゃんが妹に甘えるというのもなんだか恥ずかしくて……」
「私は甘えてくれて嬉しいと思うわよ?」
「……だってさ、私の甘えるは姉妹とかじゃなくてその……ひとりの女の子として求めてるわけだよ? 見方によっては発情……みたいな感じでさ」
「あなたにもそんな感情があったのね」
つまり私はこの子をムラムラさせることができるということか。
一応、魅力はあるのかもしれない。
なので、自分で自分の評価を悪くするのはやめておこうと決めた。
「……先に起きた時とかに愛葉の寝顔を見てキスしちゃったり――あ」
「ふふ、いつからの話?」
「……去年」
なら言ってくれれば良かったのに。
そうすれば捨てられるのではないかって不安に陥る必要もなかった。
恐らくお互いに悲しい思いをしなくて済んだのに。
「ねえ、実際に沙里奈さんのことはどう思っていたの?」
「あの子には気になる子がいるってずっと聞いていたから全然普通だったよ? 私はいつだって愛葉しか見ていなかった……よ?」
「私がしたことは馬鹿みたいね。ひとりで不安がって勝手に考えて距離を置こうとして。せっかく水空のおかげで上手くいったかと思えばまた同じような流れにするしね」
「家事をちゃんとできなければ私が捨てるって思ったの?」
「ええ、それぐらいしかあなたの役に立てないから」
意外と大変なことも多かった。
母は涼しい顔で頑張ってくれていたのだと気づけた。
スーパーに行って大量の食材を買うまでは良かったのだが、運ぶのが結構辛かった。
体調が悪い日も愛子にバレないように振る舞うのが大変だった。
しかし、そういう日に限って他人というのは近づいて来るものだから……ありがたいけれどね。
それでもやめようとはならなかったし、先程も言ったように姉の笑顔を見られるだけで吹き飛んだ。
「むぅ、全然信じてくれてないよね、私がいてくれるだけでいいって言ってたのにさ」
「ま、まあ……いいじゃない」
「良くないよっ」
「あ、あなたこそわざわざ一緒にいたくないなんて言い方しなくてもいいでしょう!」
「だ、だって……風邪移したくなかったんだもん……」
「はぁ……別に良かったのに、そのせいで……泣いたんだから」
母に甘えすぎたせいでまだからかわれていたりするのだから。
逆に考えれば全て愛子が悪いのでは? もっとわかりやすくしてくれないと私は困ってしまう。
「うるさいですよ……?」
「あ、ご、ごめんなさい」
橘花はやはり怖い。
人間、関わってみなければわからないとはよく言ったものだ。
でも、やめてくれて、家にまで泊まりに来てくれて。
私、愛子と特別になれたのが1番嬉しいけれど、そのことも地味に嬉しかった。
「冗談だよっ。ふたりも戻ってきて? いちいち気を使ったりしなくていいからさ」
「そう? それなら行きましょうか」
「うん」
いいわね、敬語を使われないって。
本人にそういうつもりはなかったのだろうが、どうしても距離を感じてしまうから。
「もうっ、なに橘花ちゃんばっかり見てるのさ!」
「大丈夫よ、あなたを見ているわ」
「ふぅん、まあそれならいいけどっ」
「ふふ、行きましょうか」
まだまだお泊り会は始まったばかり。
焦る必要はない、のんびりゆったりとしていければいいなと私はそう思ったのだった。
読んでくれてありがとう。
過去作品となんら変わらないような気が。
キャラだけが違うみたいな? まあ、注意書きみたいなの最初にしているから大丈夫かな。