98 ミスフィートvsジャバルグ
その攻防を見ながら俺は震えていた。
怖くて震えているのではない、武者震いが止まらないのだ。
ギンッ ギンッ ガッ ギンッ
ジャバルグの4連撃をミスフィートさんが全て刀で弾き、軌道を逸らす。
攻撃を逸らされ体勢が崩れた所に、今度はミスフィートさんの連撃が襲い掛かる。
しかしジャバルグは大剣だけじゃなく、ガントレットも上手く使いそれを防ぐ。
そしてまた攻守が入れ替わる。
見守る仲間も誰一人として声を出さない。
その闘いを瞼に焼き付けようと、瞬きすら忘れている状態だ。
ミスフィートさんの振り上げが、ジャバルグの太腿を斬り裂き鮮血が飛ぶ。
だがジャバルグはお構いなしに大剣を振り下ろし、獰猛な一撃が頭部を狙う。
避け切れないと悟った彼女が刀を滑らせ、剣の軌道を変える。
ドガッ!
石床が砕け散り、ミスフィートさんが横に飛ぶ。
だがジャバルグが一回転し、逆方向からの薙ぎ払いが彼女を襲う。
拙い!
ギンッ
しかし大剣の一撃を毘沙門天は完璧に止めてみせた。
「ぐおおおッ!」
見ると今の相打ちでジャバルグの剣が欠けていた。
対する毘沙門天は無傷。
最大強化する前だったので冷や汗をかいたが、さすが俺の鍛えた刀だ!
たぶんあの大剣もガントレットも、オリハルコン製と思われる。
しかし毘沙門天はただのオリハルコン製の刀ではない。
俺の付与魔法でかなり強化されているからな!
見た目は細くとも、同じオリハルコンならこちらが勝つ!
「私の刀は凄かろう?名は毘沙門天、大切な宝物だ」
「俺様の大剣を止めるとは凄まじい剣だ。まさかそのような細い剣で、俺様のオリハルコンの大剣を欠けさせるとはな・・・」
「剣ではない。これは刀という武器だ!小烏丸が鍛えた最強の武器、これから尾張の国の主流となるぞ」
「戯けたことを!俺様を倒さねば夢物語で終わる話だ」
「ハハッ、その通りだ。なのでキッチリ倒させてもらう!」
「返り討ちにしてくれる!!」
二人の殺気が膨れ上がった。
刹那、ジャバルグの大剣が凄まじい速度で振り下ろされる。
ミスフィートさんは紙一重で右に回避。
だが大剣は瞬時に軌道を変え彼女を追撃。
それを刀の峰で上へ弾き刀を一閃。
ジャバルグがガントレットでガード。
砕けたオリハルコンが宙を舞う。
その恐ろしいまでの一瞬の攻防は、見ている者の魂まで揺さぶられる。
呼吸をするのも忘れ、手には汗を握っていた。
彼女が強いのは知っていた。
だが実際に強敵と斬り合う姿を見るまで、俺はまるでわかっていなかった。
間違いなく彼女は、清光さん虎徹さんクラス。
そしてジャバルグも同等。
これが大名クラスの闘い。
俺もジャグルズという怪物を倒したが、果たしてジャバルグを倒せるだろうか?
実際にやってみないと分からないが、確実に生き死にの勝負になるだろう。
こんな荒んだ尾張に、他国が攻めて来ない理由がわかった。
単純にジャバルグが強いのだ。
それにあのジャグルズまでいたのだから、尾張を獲るには確実に命懸けだ。
だがそれでも、俺達はジャバルグを倒さなければならない。
ここまで来たんだ。ハッピーエンド以外の結末など有り得ない!
ミスフィートさん怒涛の連撃が、ジャバルグに襲い掛かる。
だがどれだけ攻撃しても全て防がれる。
攻撃的な性格だと思ったが、奴の真骨頂は防御力の方だったようだ。
・・・しかし決着は唐突に訪れた。
ミスフィートさんの斬撃を防いでいたガントレットが砕け散る。
相手を引かせる為に、ジャバルグが大剣を一閃。
だが彼女はその攻撃を避けずに、迫る大剣を蹴って飛んだ。
ザンッ!
ジャバルグの右腕が床の上に落ちる。
ガラン
「終わりだ。ジャバルグ」
「ハッ、ハハハハハハハハ!!!俺様の負けだ」
右腕を斬り落とされたジャバルグに、もう勝ち目はゼロだ。
しかし高速で迫り来る剣に乗って飛ぶって、どんな反射神経してんだよ!?
「言い残す事はあるか?」
「そんなものなど無い。ただ、そうだな・・・。一つ警告をしてやろう」
「警告?」
「三河は知らんが、美濃と伊勢は尾張を狙っている。俺様が倒されたと知ったら、尾張が混乱している間に攻め込んで来るだろうな」
「そうか。警告、感謝する」
「・・・殺せ」
確かに尾張が乱れた今が最大の好機。他国が狙わない理由がない。
美濃と伊勢が恐れているのはジャバルグだ。
反乱軍になど全く興味が無いだろうな。
そのジャバルグを、正面から力で粉砕したというのに。
ルーサイアに戻ったら、すぐにでも三河と同盟を組もう。
清光さんが出した条件は達成した。もう連絡を躊躇する必要はない。
だが他国の奴らめ、来るなら来いだ!
集まった所にビームライフルをフルパワーで撃ち込んでやる。何度でもだ!
「さらばだ、ジャバルグ。あの世で弟と一緒に仲良く暮らすがいい」
うおーい!それ俺の!赤い流星の名セリフ!
―――ジャバルグの首が胴から離れ、ゴトリと床に落ちた。
ミスフィートさんはそれをじっと見つめた後、皆の方を向き勝利の宣言をする。
「尾張大名ジャバルグ、反乱軍総大将ミスフィートが討ち取ったり!!!」
「「わああああああああああああああああああーーーーーー!!!」」
とうとう尾張での長い戦いが終わった。