96 トラネコ城
一夜明けて疲れを癒した反乱軍は、夜の間に引き離された分を取り戻すため、歩く速度を上げて敵を追う。
『敵は真っすぐトラネコ城に向かってます!』
「トラネコ?何だその可愛らしい名前の城は」
『あれ?知らなかったんですか?ジャバルグの城の名前ですが』
「マジでそんな名前なのか!とりあえず了解だ、何かあったらまた連絡を頼む」
『ご武運を!』
ヴォルフが嘘言ってもしゃーないし、マジでトラネコ城なのだろう。
城攻めとなればビームライフルで破壊することになるだろうけど、なんかあんまり壊したくない城だなあ。
「ミスフィートさんに伝言を頼む。敵は真っすぐトラネコ城に向かってると」
「了解しました!」
とにかく敵に追いつかなけりゃ話にならん。
一晩歩き続けた軍と、一晩ぐっすり眠った軍、どちらが正解かな?
偵察隊の情報だけを頼りに、ひたすら敵を追い続ける。
「見えました!ジャバルグ軍です!」
「とうとう追いついたか!」
さっきの二択は単純な比較だったけど、その内情はまるで違う。
敵軍はミスフィート軍の追撃から逃れる為に、夜も寝ずに歩き続けた。敗戦で傷つき疲れ果て、しかも重い鉄の鎧を着た状態でだ。
それに比べてミスフィート軍は、一晩ぐっすり眠って、装備だって私服に刀というピクニックに行くような身軽さだ。奴らに追いつくのは時間の問題だったのだ。
更に、敵の方が圧倒的に負傷者が多いのに対し、ウチらは聖水で回復までしている。どう考えてもミスフィート軍の圧倒的優勢だろう。
「行くぞ!敵軍はみんな手負いで疲れもピークだ。手柄を立てる好機を見逃すな!」
「「オーーーーーーーーーー!!」」
まあ俺は十分手柄を立てたんで、さすがにもう遠慮するけどね。
後ろでみんなの働きをメモっとくから、今回ばかりはちょー頑張れ!
ココでの手柄で身分が決定するという、人生最大のチャンスとも言える大事な追撃戦だ。怪我してようが疲れてようが、この機を逃す奴は一生負け犬だぞ!!
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―――――大激戦中のカーラ視点―――――
「ハアッ、ハアッ!」
「その体でよくぞここまで戦った!だけどそろそろ決めさせてもらう!」
「ふーッ!、洒落臭い!返り討ちにしてくれるわッ!!」
槍の間合いに飛び込み、刀を一閃。
しかし相手は百戦錬磨の宿老シャガール。
こちらの攻撃を見切り、体を後ろに仰け反りながら槍を横薙ぎに振る。
「ハッ!」
ガギン
「なにィ!?」
即座に返した左下段からの斬撃で、シャガールの朱槍が砕ける。
そして無防備となったシャガールの心臓を、曼殊沙華が貫いた。
「無念・・・」
ドサッ
「ハアッ、ハアッ、ふーーーッ!敵将シャガール、カーラが討ち取ったり!!」
「「うおおおおおおおーーー!!」」
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―――退屈すぎて本陣を抜け出したいミスフィート視点―――
「ミスフィート様!宿老シャガールを、カーラ殿が撃破しました!」
「そうかっ!見事だカーラ!これでやっかいな武将が1人消えたぞ。追撃の手を緩めるな!」
「「ハッ!!」」
宿老ジャグルズ、宿老シャガール、家老ガストラ。
まだジャバルグの重臣は何人か残っているが、他はこの3人ほど質は高くない。
・・・高くないんだが、私の出番がまったく無い!!
このまま戦が終わったら、私はただのお飾りじゃないかっ!
しかし追撃戦で先頭を走ったら、皆に叱られそうだしな・・・。
もうこうなったら城で暴れるしかあるまい。
最終決戦だけは、絶対に私の我儘を聞いてもらうからな!
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―――――傍観に徹する小烏丸視点―――――
「敵将ウィンザー、ベアトリーチェが討ち取ったりー!ですわ」
よし!お嬢よくやった。部将の撃破は間違いなく恩賞候補だ!
「こがらす殿!チェリン殿が、家老マーガスを撃破しました!」
「おお!チェリンもやったか!」
よおおおしッ!これで恩賞組の功績は、ほぼバッチリだ。
この戦の功績で身分が確定するからな。
現時点じゃ、この先いつ他国との戦があるかどうかもまったくの未知数だ。今のうちに地位を手に入れておかないと、次の論功行賞まで相当待たされる可能性があるんだよね。
まあ少なくとも古参のメンバーは、全員悪いようにはならんと思うけど。
反乱軍の快進撃は続き、5日後、とうとうトラネコ城に辿り着いた。
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トラネコ城を見上げながら、ミスフィートさんと作戦会議中。
「偵察隊の報告によれば、ジャバルグは城から出てはいないようです」
「そうか!ならば城を取り囲んだまま一旦休憩し、疲労を回復してから城に総攻撃をかけるぞ!」
「了解です。ただ、何日か前に女子供を乗せた馬車が城を出て行ったという報告がありました。ジャバルグはそれを見送った後、一人城に戻ったとか」
あのジャバルグでも、我が子には優しかったりするのかもな。
「・・・フム。妻子だけを他国に逃がしたか。その子供が将来の災いとなる可能性はあるが、逃げてしまった以上しょうがない」
「そうですね。国内ならば将来反乱を起こす恐れがありますけど、他国から尾張奪取を試みる場合は、その国の大名に取り入ってる感じかな?ならばその国ごと叩き潰すまでですよ」
「ハハッ。尾張が平和になったら、当分は戦などしたくないんだがな」
「ですねえ。ただ美濃や伊勢を支配している人物が野心家ならば、尾張が乱れている間に仕掛けて来る可能性は十分考えられます。気を抜かないように努めましょう」
「だな。ってまだ勝ったワケじゃないぞ!今は城攻めに集中だ!」
「ごもっとも!」
どうも敵を追い詰めて気が緩んでるな・・・。
イカンぞ!こういう時こそ落とし穴があったりするんだよ。気を引き締め直して、最終戦を綺麗に終わらせることに集中だ!




