95 追撃戦
敵兵を倒してる最中に、ふと違和感を感じた。
明らかに敵の手応えが無くなった。闘志が感じられないというか・・・。
「ん?・・・敵軍が引いて行ってないか?」
もしかして、撤退するのか!?
こちらに背を向けている兵士が何人もいるのだ。
戦いの最中に背中を見せる理由なんて、退却くらいしか思いつかん。
目を凝らして敵の動きに注目していると、遠くに巨体の男が馬に乗る姿が見えた。
「見つけたぞ、ジャバルグ!」
悪いが逃がしゃあしねえよ。
ビームライフルを取り出し、安全装置を外し即座に構える。
ビュオン
「なにッ!?避けただと?・・・もう一度試してみるか」
ビュオン
「ジャバルグで間違いなさそうだな。私の射撃は正確なハズだ。それをことごとく外すとは」
思えば、激戦すぎて名セリフをスッカリ忘れていた。
とりあえずノルマ達成だ。
しかしジャバルグに逃げられてしまったぞ・・・。
奴は馬に乗ってたから、全力で走っても追いつくのは無理か。
「小烏丸さん!本隊から追撃の合図です!」
「ルシオか、了解だ。皆の者!これより敵の追撃に入る!!一人も生かして帰すな!ただし一人だけで深追いしないよう、周りをしっかり見て動けよ?」
「「ハッ!」」
ここからは無理に目立った活躍をする必要はないだろう。俺はすでにジャグルズを倒しているからな。むしろ他の皆が戦功を稼げるよう、後押ししてやるべきだ。
それに城攻めになった場合、ビームライフルが必要になるから、それまでにエネルギーの充填をしておかなければならない。
まあ、一日二日で辿り着くような距離じゃないので、その時間は十分あるだろう。
皆の活躍をチェックしながら、のんびりやりましょうかね。
あ、ジャグルズの装備だけは回収しておかないとな・・・。
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追撃を始めて半日が経過した。
「暗くなって来たので、今日はここまでだ。各自野営の準備に入れ!」
「「ハッ!」」
兵士達に野営の準備を任せて、ミスフィートさんの天幕を張る為に本隊の方へ移動する。
「今日はここまでにしましょう。みんな疲れているし、これ以上無理する必要は無いと思います」
「だな。皆の者!今日の追撃はここまでだ!各自野営の準備をしろ!」
「「ハッ!」」
マジックバッグから天幕を取り出し、みんなで組み立てる。
「ルシオ、ボヤッキー、今から言う人達をここに集めてくれ。カーラ、カトレア、チェリン、リタ、リナの5人だ」
「「了解しました!」」
ミスフィートさんの天幕に、現時点での重臣のみが集められた。
・・・・・
「皆の活躍は聞いているぞ!今日はよくぞ戦い抜いてくれた!」
「さすがに疲れたわね・・・。今日はもう無理~」
「敵軍の背後を封鎖していたのに、ジャバルグの逃走を止められませんでした」
「アレは仕方ないよ。あんだけの人数が一斉に撤退を始めたんだ。死に物狂いの敵をいつまでも封鎖なんて出来っこない」
「むしろ頑張りすぎて戦死しなくて良かったと思うぞ。流石はカトレアだ!引き際をわきまえてる」
「その通りだ!自分の責任だと感じる必要はない」
ああいうケースで無茶をしないのが、カトレアの信頼できるポイントだな。
だからこそ別動隊という、判断力が必要なポジションを任せられるのだ。
「追撃戦はどうだった?」
「雑魚兵は結構倒したけど、殿の部隊を殲滅出来なかった」
「リタと二人で攻撃したのに倒せなかった」
「敵の殿は、宿老シャガールだ。奴は手強いぞ」
リタとリナのコンビでも倒せないとは、相当な手練れだ。
ジャグルズまでとは思わないけど、相当な実力者なのだろう。
「明日の夜明けと同時にまた追撃戦に入るが、みんな無茶だけはするな。最終的に城攻めで殲滅すればいいだけの話だからな」
「でもまだ敵兵は1000近く残ってるわ。出来れば追撃戦で500は削っておきたい」
「味方の生存者はどれくらい?」
「こちらは約2000の兵が健在だ。聖水の存在が大きいな」
「それでも結構やられましたね・・・。5000対3000で始まってるから十分な戦果だけど、追撃戦でもう少し敵を減らせば城攻めも楽になる」
「城の守備兵をどれほど残してきたのか、まあ、そう多くはない筈だ」
ああ、そうか!他国のことを考えたら、守備隊をある程度城に残してるよな。
500はいるだろうなあ・・・。
「それにしても、小烏丸対ジャグルズの対決は本当に凄かったわ!」
「そうだ!私もその話が聞きたかったのだ!」
「聞いたわ!ジャグルズを打ち破ったって。ジャバルグの弟よね?」
「私の所にも、すぐに撃破の報が伝わりました」
「髪が1メートルある男」
「強かった?」
おっと、その話か。少し照れるな。
「かなりの使い手でしたね。命を懸けた紙一重の戦闘をしたのは久しぶりです。ジャバルグがそれ以上の手練れとなると、迂闊に攻撃を仕掛けるのは危険です」
「いや、ジャグルズも大名に匹敵する実力者だぞ!前大名との戦いで獅子奮迅の活躍をしたと聞いている。国をもう一つ落としていれば、確実に一国を任されていた人物だろう」
なるほど、大名クラスだったか。確かにあれだけの強さの男がポンポンいたんじゃ堪らんわな。
「あの、お話の途中で失礼ですが、そろそろ夕食にしませんか?」
「アタシもお腹ペコペコだよ!」
「そうだな、作戦会議は夕食後にするか。私も限界だ!」
「「賛成!」」
俺も一暴れしたせいか、すげー腹が減ってきた。
今日は腹いっぱい食って、ぐっすり寝て、明日の戦いに備えよう!




