906 ツッパリ共を迎えに行く
近江チームを越後に連れていった日から一週間経ち、とうとうツッパリ共を迎えに行く日になった。
待ち合わせ場所は前回と同じくあの大福屋の前だ。
店主がブチキレる前に急いで退散しねえとな!
ダンジョン班をアリアダンジョンに放流し、清光さん虎徹さんと共に伊賀の里の中央広場に転移すると、ちゃんと近江チームの面々が揃っていた。
カキーーーーーン!
ケンちゃん達が抜けようとも野球は永久に不滅なので、いつものように忍者達は朝から野球に励んでいる。
「いやいやいやいや!アレって絶対野球してるよな!?」
「お前が流行らせたのか!?」
「もちろん俺です。近江チームも毎日野球してたから、忍者と同じくらい上手くなってるハズですよ」
「用事が無ければ今日もやりたかったくらいっスよ!でもさすがにいつまでも遊んでらんないっスからね~」
「だな!野球の続きは近江と越前を獲ってからだ!」
「よし、じゃあツッパリ共を」
「小烏丸殿~~~~~~~~~~!」
向こうからニンニンが駆け寄ってきた。
「どうした?」
「出発前に、あのボールの作り方だけ教えてほしいでござる。変化球の練習がしたくともボールが足りないのでござる」
硬球の作り方か~。
「確かコルクかなんかに毛糸を巻いていって、最後に革を縫い付ければ完成だったような気がする。芯の大きさはちょっと覚えてない」
「芯の部分はコルクをゴムで包んだ感じで、大きさは34mmだ。まあゴムなんてものは無いだろうから、何かで代用するしかないだろうな」
「清光さん、なんでツッパリのくせに野球に詳しいんですか!?」
「ツッパリっつったらアイツらみたいじゃねえか!せめてヤンキーと呼べ!まあなんとなく知ってるだけだ」
「アニキの雑学は半端ねーんだぞ!」
何がどうなったら暴走族が雑学に詳しくなるんだ・・・。
「えーと、とにかく34mmの丸い何かに毛糸を巻きまくればいいのでござるな?」
「最後に革を縫い付けるんだぞ?あ、そういや革を白く塗らないと野球のボールっぽくないな。白いペンキじゃダメだよなやっぱ・・・」
「革の塗料なら三河に売ってる。明日持って来てやろう」
「それは有り難いでござる!革は何でもいいでござるか?」
「どうなんだろ?忍者達で色々試して研究してくれ」
「ふむ、色々やってみるでござる!情報感謝!」
ニンニンが仲間の元に戻っていった。
「本当に野球にハマりまくってておもしれーな!」
「俺も野球がやりたくなってきたぞ。三河にも野球チームを作るか?」
「忍者と対抗戦か!絶対おもしれーじゃん!」
「忍者達メチャメチャ強いっスよ?あの鉄壁の守備をどう崩すか、俺ら毎日作戦を練ってたくらいっスから」
「倒し甲斐があって最高じゃん!面白くなってきたぞ!」
どうやら三河にも野球チームが誕生しそうだな。
尾張にも作らんと置いていかれそうだ・・・。
「って、野球の話してる場合じゃなかった!いい加減、迎えに行きましょう」
「おう!」
全員で手を繋ぎ、あの大福屋の裏に転移した。
「向こうから話し声が聞こえる」
「何人集まってるかが問題だ」
「近江に行かない奴も仲間の見送りに来てるだろうから、まずは何人参加するのか聞き出そう」
「ちょっとドキドキするな!」
というわけで、ツッパリ共のいる方へ歩いていった。
前回の時と同様、大福屋の前にツッパリが大勢たむろしており、店主がコメカミに青筋を立てている姿が容易に想像できた。
「よう!迎えに来たぜ!」
「「ケンちゃん!!」」
「前ん時と同じくらいいるように見えるけど、全員行くわけじゃねえんだろ?」
爆炎一夜十一代目総長のイッペーと、六道椿六代目総長のテツオが前に出た。
「爆炎一夜の参加者は30名っス!」
「六道椿も30だ」
マジか!?60人も参加するとは思わなかった。
どっちも30人ピッタリって、流石はライバルチームだな。
「30、いや、合わせて60人も!?お前らわかってんだろな?俺達は殺し合いをしに行くんだぜ?」
「やる前から脅すのもどうかと思うが、間違いなく何人かは死ぬぞ?」
ケンちゃんとセイヤの言葉を聞いて何人か唾を飲んだ音が聞こえたが、一週間悩みに悩み抜いた答えだったようで、ツッパリ共は一歩も引かなかった。
近江兵の残虐さを話してもその決意は変わらず、むしろ闘志を漲らせている姿を見て、正直彼らを見直した。
そして越後に残ることを選択したツッパリ共なんだが、すでにそれぞれのチームの引き継ぎが終わっていたものの、戦力があまりにも低下したから同盟を組むことにしたらしい。それでも厳しいとは思うが頑張るしかないだろう。
「わかった。覚悟が出来てるってんならこれ以上は言わねえ。近江で暴れまくって天下に名を轟かせようぜ!」
「「オーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」」
話がまとまったところで、一歩前に出た。
「もう近江へ行く気マンマンだろうけど、その前に寄る所がある。俺の転移魔法で飛ぶから全員手を繋いでくれ」
ケンちゃんとセイヤが転移魔法の説明をすると、歩いて近江まで行くものとばかり思っていたツッパリ共から大歓声が上がった。
「じゃあ出発するぞ!」
「みんな頑張れよ!俺達は越後に残ることを選んだけど、応援してるからな!」
「ケンちゃん!テツオ!そしてみんな!絶対に死ぬなよ!!」
「「おう!!」」
ガラの悪い集団を引き連れ、ガルザリアスの城の前に転移した。
すぐに通信機でガルザリアスを呼び出す。
「ちょっと人数が多いんで、城門前に出てきてもらえるか?」
『んだと!?大人数で何をやらかすつもりだ!』
どう見ても目の前にデカい城が見えるのでツッパリ共が大騒ぎしているが、城から出てきた男の姿を見て、全員が目を大きくさせた。
「ガリザリアス、一週間ぶりだな」
「おいおいおい!なんだこの集団は!しかも越後のツッパリ共じゃねえか!」
俺達の会話を聞き、ツッパリ共が騒めきだした。
「お、おい!この人とんでもない名前を口に出さなかったか?」
「ガルザリアスって、越後大名の名じゃ・・・」
緊張しているケンちゃんとセイヤを前に出した。
「ケンちゃんのことは覚えてるよな?」
「爆炎一夜の十代目だな?そっちに六道椿の六代目もいるようだが」
「うむ。六代目はとりあえず置いといて、ケンちゃんとセイヤで近江と越前を獲ることになった。ってことでこのツッパリ共を二人の部下として連れて行きたい」
いきなりとんでもない話が飛び出したので、ガルザリアスの目が点になった。
「近江と越前を獲るだと!?マジで言ってんのか?」
「マジだ。こっちにいるメンバーで、すでに近江兵を1000人以上撃破した」
ガルザリアスがゼーレネイマスを見た。
「ゼーレネイマス、始めたのは貴様だな?」
「弟子達の修行だ」
「おいコラ!たかが修行で国を獲ろうとしてんじゃねえ!」
「でも近江で遊んでたおかげで『ファンネルー』を閃いたんだぞ!たまには変な遊びもしてみるもんだ」
「ああっ!遠江守護と二人で遊んでたとか言っていたが、近江で遊んでたのか!」
「越後大名ってこの男だったのかよ!」
「こいつも大魔王じゃねえか!」
清光さんと虎徹さんも会話に入ってきた。
どうやらガルザリアスのことを知ってるらしい。
「そうだ!どこかで見た顔だと思ったら、この二人ってこっちにやって来た変わり者の勇者じゃねえか!」
「おっと、その話は今度な」
「ん?ああ、そうだな」
そういえば清光さんと虎徹さんって、こっちの世界と繋がる扉を閉じるためにアリアの世界に召喚された勇者らしいんだよ。
全然神様の言うこと聞かないから、『ダメだこいつ』って感じでいきなりダンジョンにぶち込まれたらしいけど。
結局魔王達に紛れてこっちの世界に飛び込んできたわけだから、勇者失格の烙印を押した女神様は正しかったっぽいのが笑える。
越後大名とタメ口で話してる俺達を見てツッパリ共が驚いていたので、話を進めることにし、ツッパリ共は一週間考え抜いて立ち上がったんだと伝えた。
「そうか。覚悟を決めて近江へ行くというのなら許可しよう。だが死人が出た時に家族に伝えるのは、ケン、セイヤ、お前ら二人の仕事だぞ?目の前で両親に泣かれる辛い役目だ。覚悟はあるのだろうな?」
そういえば覚悟を聞いてなかったと思い二人を見ると、話を振られて一瞬たじろいだものの、強い瞳で『部下の命を預かる立場なんですから当然です!』と答えた。
二人とも成長したなあと思ったけど、ツッパリや越後に縁もゆかりもないセイヤに覚悟があったかどうかは不明だ。
「じゃあツッパリ共はもらっていくぞ!近江と越前を獲ったら招待するんで、楽しみに待っていてくれ!」
「うむ。お前ら、両親を悲しませるんじゃねえぞ?」
「「絶対勝ちます!!」」
よし、これで越後大名に筋は通した。
後は近江で野盗達を回収して、ダンジョンに放り込むだけだ!




