903 リンコをダンジョンに放流する
百花繚乱五人のレベル上げも終わり、流星城に戻って海鮮パーティーを始めた俺達だったが、ダンジョン産の海産物が美味いってのもあるけど自分達で倒した魔物だからそれも含めて感動が大きく、メチャメチャ盛り上がった。
お腹いっぱいになった五人が、京の都を散策すると言って食堂を出て行こうとしたので、全員に剣帯を着けてやった。得物が刀なんで正確には刀帯か。
そして自分達で刀を装着させると、やっと軍の一員になれたといった感じで五人とも良い笑顔になった。
越後からの借り物だから、そう単純な話でもないんだけどね。
この先どう生きていくかは彼女達次第だ。
越後に帰るもよし、もう少しここで稼ぐもよし。
ただ、せっかくモノになってきた戦力を和泉がそう易々と手放すとも思えない。
上手いこと口説いて、バイト期間を延長させようとするだろな~。
というわけで、百花繚乱の五人は今度こそ街へ出発した。
「行ったようだな。さてリンコ、ダンジョンに戻るか!」
「ちょっと待って!もう漏らすの嫌だからトイレーーーーー!」
バタン
リンコがトイレの中に飛び込んでいった。
「ダンジョンの通路で、一人でお花摘みできるよう訓練する必要がありそうだ」
「そこからなの!?」
「4階層だから、たとえ目の前で魔物がリポップしようが楽勝なんだけどな。まあ一度体験したら慣れるだろ」
「明日も一日リンコに付き合うの?」
「いや、さすがに時間の無駄だからダンジョンに置いてくぞ。普通のリュックを背負わせて魔石だけ集めさせようと思ってる」
「海産物がもったいないけど、しょうがないか~」
マジックバッグを持たせればいいだけの話なんだが、新人にポイポイ渡していいようなもんじゃないので、海産物は諦めるしかない。
どうせ4階層攻略中のダンジョン班が腐るほど持ち帰ってくるしな。
「ただいまーーーーー!さあ行くよーーーーーーーーーー!」
「よし、手を繋ぐぞ」
こうしてリンコのレベル上げを再開し、帰る時間ギリギリまでリンコは魔物を狩り続けた。
リュックを背負わせて、魔石を取り出す方法も伝授したし、一人でお花摘みも体験させたので、明日は一人でレベル上げさせても大丈夫だろう。
魔石10個と引き換えに好きな家具と交換してやると言ったら、メチャメチャやる気を出して微笑ましかった。正規ルートじゃないからガチャは許可しないけどな。
というわけで、ダンジョン班を回収して流星城に帰還。
俺はいつものように夜伽へ出発だ。
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そして一夜明け、百花繚乱の五人にバレないようにリンコを連れ出し、ダンジョン班と共にアリアダンジョン4階層にやって来た。
「リンコが手に負えない魔物は倒しておくから俺がいなくても大丈夫だ。後輩との差をつけるため、最後まで頑張ってくれたまえ!」
「言われなくても本気でいくよ!」
「でも魔石の回収だけは忘れずにな。城に帰ったら小烏丸商店をオープンしてやるから、高品質の家具を買いまくるといい」
「それも楽しみ!じゃあ時間がもったいないから行く!」
タタタタタタッ
リンコが駆けていくのを見届けてから、俺は闇ゴブリンを倒すため、4階層のボスが出現する広場の手前にあるセーフティーゾーンに転移した。
ダンジョン班に聞いたところ、闇ゴブリンは危険だからあまり戦いたくないということで、最初に一回倒した後は放置しているらしい。
セーフティーゾーンまで来たら引き返せばいいだけなので、あのゴブリンは相手にしなくても構わないのだ。虎徹さんが通路を塞ぐように設置した立て札に『この先、闇ゴブリン』と書かれてるから、うっかり入ることも考えられないしな。
無理に倒す必要はないと言ったのは俺なので、立て札があるにも拘らず入ってしまいそうなリンコが迷いこんでも大丈夫なように、俺が倒しておかねばならない。
てくてくてく ザンッ!
立て札を避けて通路に入っていき、気配を消して短剣で首を掻っ切りにきた闇ゴブリンを瞬殺した。
「なんか最近、普通にコイツの気配も感じるようになったな」
俺も成長しているようだ。
でも、いると分かって通路に入ってきたわけだから、慢心には注意しよう。
魔石を取り出し、一応ドラゴン部屋に転移した。
「よし、いないな」
これでもう、リンコを丸一日放置しても大丈夫だ。
伊賀に行って、中央広場でツッパリの武器を作ろう。
犬の彫像の前に転移した。
カキーーーーーン!
気持ちいい音と共に視界に飛び込んできたのは、忍者達が野球をしている光景だった。ゼーレネイマスやケンちゃん達もすでに広場に来ているようだ。
俺は昨日来なかったわけだから、一昨日からずっと朝から夜まで野球で盛り上がってたのかもしれない。
お前ら野球部かよってくらいハマってんな!
軍手グローブまで用意してやった俺としては感無量なんだけどさ。
タタタタッ
「小烏丸殿!」
俺を見つけたのだろう。ニンニンが駆け寄ってきた。
「教わった他にも変化球って無いでござるか?」
「お?もしかして変化球を解禁したのか」
「ニンニン!直球だけじゃ打者を抑えられないでござるからな」
「とんでもない動体視力だな。わかった!新しい変化球を伝授しよう」
「おおおおおーーーーーーーーーー!」
「でもデカいグローブが無いとキャッチできんぞ?」
「そうだったでござる!ちょっとデカグローブを借りて・・・、いや、小烏丸殿も一緒に来てくだされ!」
「まあそれは構わんが・・・」
ニンニンと一緒に、試合中のマウンドに歩いていった。
「小烏丸殿による変化球講座が始まるので、試合中断でござる!」
「「おおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーー!!」」
いや、そういうことされると緊張するんですけど!
変化球が曲がらなかったら恥ずかしいじゃん!
「俺は変化球の握りを知ってるってだけで、ほとんど実戦経験が無いから、失敗しても笑わないでくれよ?じゃあまずは『カーブ』からだ!」
というわけで、最初に教えた『スライダー』『フォーク』の他に、『カーブ』『チェンジアップ』『カットボール』『ツーシーム』をなどを伝授した。
そして、キャッチャーが『次はこの球だ』とピッチャーにサインを送ると球種が分かって捕球しやすいってことも教えたが、とりあえず変化球を覚えるので頭がいっぱいだろうから、サインは今度にしようってことになった。
皆が変化球の練習を始めたので、変化球の名前と握りを紙に描いてニンニンに手渡すと、これは重要だと立て札に貼り出された。
盛り上がりは最高潮って感じ。
俺はとんでもない遊びを教えてしまったようだ・・・。
元の場所に戻ると、子供野球の方に白とお母さんがいるのを発見したので、二人の側まで歩いていった。
「おはよう!白のお母さん、『トン汁』は上手く作れたかい?」
豚肉を使ってないから、豚汁じゃなくトン汁だ。
ドラゴン汁でもないし呼び名に困るから、それっぽいのは『トン汁』で統一だ。
二人が振り返り、俺の姿を見てぱあ~っと笑顔になった。
「ええ!初めてにしては上手に出来たかも♪美味しすぎて昨日も作っちゃった!」
「すごくおいしかったよ!」
「そうか、それは良かった!」
二人の笑顔を見て、伊賀の里に味噌と醤油が行き渡って良かったなーとこっちも嬉しくなった。
まあ、残念ながら三河産の味噌・醤油なんだけどね!




