894 お色気お姉さんの居城に行く
仲間達が広場で野球っぽい遊びをして盛り上がっていたわけだが、城で味噌と醤油を買ってきた忍者達が続々と広場に集まってきたので、2チームくらい作れるなーと思い、本格的な野球のルールを教えてやることにした。
アイテムボックスから紙を取り出して、ルールというより野球の遊び方から書き始め、思い付いたことを全部書いてからケンちゃんらのいる方へ向かう。
『人数も集まったし、そろそろ本当の野球を教えてやる!』と言ったらメチャメチャ盛り上がったが、広場の真ん中らへんで遊んでいたから、まずは場所を変えることにした。
ホームベースからセンター方向の中堅まで120メートルくらいだったハズだけど、200メートルくらいかっ飛ばしそうなヤツが何人かいたので、土魔法忍者に頼んでホームベースの形をした白くて平べったい石を作ってもらって、広場の端っこの方に設置し、棒で地面に線を引いていって、とりあえず野球場が完成した。
そして地面に線を引きながら1塁ベース、2塁ベース、3塁ベースを設置し、球場が完成してから全員に野球の遊び方を説明する。
いきなり細かいルールを説明しても分かるわけがないから、まずは大雑把に説明し、ルールを書き殴った紙は頭の良いゼーレネイマスに託した。
彼ならきっと、適当に遊んでるうちに理解してくれることだろう。
遊びを通して忍者達と打ち解けるといいなーって狙いもある。
ただ、参加したばかりの忍者達はボールをバットで打ち返すことすら初めてだから、アイテムボックスにあった硬式ボールを二つ手渡し、野球場の反対側で練習して、そろそろイケると思ったら野球に参加することにした。
ちなみに参加者は男忍者ばかりってことはなく、くノ一も沢山いるぞ!
レベルの概念がある世界では、男性の方が身体能力が高いなんてことはなく、鍛えれば女性も同じくらい強くなるのだ。
というわけで男女混合での野球大会が始まったのだが、『俺は仕事があるから、あとは皆で盛り上がってくれ!』と言い、犬の彫像のところに戻った。
◇
カキーン!
「しまった!」
タッタッタッタッタタタタ パシッ!
「「ナイスキャッチ!」」
「くッ、あれを捕るか!」
「ホームランを打たないと、フライは捕られちゃいますね~」
「忍者の足が速すぎるんだよ!」
「いきなり強敵すぎる!どうするんだい?」
「守備の間を抜くように狙い打ちするとか?」
「それでいってみっか!」
野球が面白すぎて、金属バット作りに集中できません!
まだ初心者だからってことで変化球禁止でやってるんだけど、みんな身体能力が凄すぎて、すでに俺の知ってる野球じゃなくなってます。
メッチャかっ飛ばすヤツが数人いるから、ホームランゾーンまで200メートルにしたのだが、180メートルくらい飛ばしても大きなフライなら追いついてしまうことが判明し、ライナー性の鋭い当たりが求められるような状況になっている。
みんな足の速さも常人離れしているので、1塁ベースまでの距離も遠くなったし、ファインプレー続出で、むしろ守備の方が華やかだし、見ていて飽きないのだ!
そして、俺を挟んだ反対側では子供忍者達が野球をしており、お母さん達がワーワー応援していて、こっちはこっちで大盛り上がりだ。
両サイドがこんな状態なもんで、気が散って仕事どころじゃないです。
たまにホームランが飛んでくるしな!
危ないからフェンスとか必要かもしれんな~。なんかもう俺の手を離れた感じだから、忍者達にアドバイスしてそっちで何とかしてもらおう。
「これは何事だ?」
声のした方を振り向くと、そこにいたのは平蔵だった。
「野球を教えたらクッソ流行った」
「やきゅう?」
地面に『野球』と書いて、どんな遊びか説明した。
「なるほど!確かにアレは面白そうだ」
「平蔵も参加してみるといいさ。いい運動になるぞ!」
「興味はあるが、城の方が落ち着いてからだな。昨日の買い物のことがあるから、なかなか忙しくてな」
「お色気お姉さんは城か~。そういやトイレを設置してやらんとな」
「おお!それは十六夜様も喜ぶ!すぐにでも取り付けてくれ!」
「見ての通り俺も仕事中なのだが!でも気が散って仕事になんねーし、先にトイレの設置でもいいか~。城に土魔法使いっている?」
「凄腕が10人以上おるぞ」
「それならすぐ設置できそうだな。例の乗り物を出すから、城まで案内してくれ」
「なにッ!?またアレに乗るのか・・・」
というわけで、すのこと骨剣を片付けてから試作2号機を出し、平蔵の案内でお色気お姉さんの居城に向かった。
でも忍者達が味噌と醤油を買いに行ってたくらいだから、城は伊賀の里のすぐ近くにあり、行列を避けながら城の中に入っていった。
忍者の城は俺がよく知る戦国時代の城って感じで、『そう、これなんだよ!』と叫びながら場内を歩いているのだが、城のあちこちに様々なからくりが仕掛けられていると思うと興奮が収まらなかった。
さらに感動したのは、お色気お姉さんがちゃんと天守にいたことだ!
天守閣じゃなく天守だ!偉い人にはそれがわからんのですよ!
「小烏丸を連れて来ました!」
「まあ!我が『華月城』にようこそ♪」
「素晴らしい城じゃないか!俺はこういうのを待ってたんだ!」
「待ってた??ところで何か用があって来たのでしょう?」
「そうそう、トイレを設置しに来たぞ」
「わああああ!流星城で使ったあの素敵な便器のことよね!?」
「三つ持ってきたから、設置したい場所を指定してくれ」
「そんなに!?どこに設置するか悩むわね・・・」
「一つは携帯用にするのがオススメかな?」
「え?携帯用って、便所を持ち歩くの?」
「マジックバッグがあるだろ。持ち歩けばどこでもあのトイレが使えるんだぞ?」
「なるほど!!」
「あれは便利だったな!地面に穴を掘ってその上に設置して使うというのは斬新な使い方だった。あ、持っておるなら十六夜様に見せてやってくれないか?」
「ここでか!?まあ汚い使い方はしてないけど」
正確に言うと『トイレ』は便所のことを指しているのだが、トイレといったら最強便器って連想してもらった方が説明が楽なんで、あえて訂正はしない。
本当にいいのか?と思いながら、天守に携帯用トイレを出した。
ガチャッ
「あっ!中にあのトイレが入ってた!」
「右の壁にある小っちゃいのは照明のスイッチだ」
パチ
「すごく明るくなった!メチャメチャ良いじゃないこれ!」
「穴さえ掘れば、真夜中だろうがいつでもどこでも使えるぞ」
「こんなの絶対必要じゃない!」
「だろ?あとは、天守と1階に一つずつって感じか?」
「そうね。うん、それでお願いするわ!」
本当はここまでしてやる義理もないのだけど、流星城で初めてあの便器を使って喜んでくれたのが嬉しかったから、サービスしてやろうって気持ちになったのだ。
というわけで土魔法忍者を呼び、お色気お姉さんが指定した便所を最強トイレにする工事が始まった。




