892 ツッパリ共の武器を作る
突発的に開催した祭と、尾張・三河・伊賀の三国同盟締結、そして伊賀忍二人の観光でメチャクチャ忙しかったわけだけど、俺の場合普段からこれくらい忙しいので、冷静に考えるといつもの生活と大して変わらなかった。
悔いの残らない完璧な買い物をしてホクホク顔の忍者二人を伊賀の里に送り帰し、同盟締結や買ってきた数々の品で盛り上がるとこも見たかったなーと思いながら、アリアダンジョンに仲間達を迎えに行き、いつものように夕食と風呂で万全の状態にしてから夜伽へ。
目覚めてすぐ『観光案内とか関係なしに毎日忙しいじゃねえか!』と憤慨した。
まあでもタフさには絶対の自信を持っているので、何事もなかったかのように流星城に戻って朝食を頂き、アリアダンジョンにガチャチームを放流。
近江チームは、あと四日ほど伊賀の里で休暇を満喫する予定だから、当然遠足も中止となる。ツッパリ共を迎えに行く日まで清光さん虎徹さんと行動を共にする必要もないので、一人で伊賀の里の中央広場に転移した。
祭の飾りつけなんかは昨日撤去されたようで、通常営業って感じで忍者の姿もポツポツと見えるくらいだ。少し寂しいが、早朝だからこんなもんか。
鍛冶をすると高温魔法によって結構な熱を発するので、一応犬の彫像から少しだけ離れた場所に陣取り、骨剣をどちゃっと山積みにした。
「さてさて、やっぱりツッパリ共の武器っつったら、金属バットにメリケンサックだよな~」
ケンちゃんの時のことを思い出すと、どの武器を持ってもしっくりこなくて、最終的にこの二つで落ち着いたのだ。
でも中には剣に憧れてるヤツもいるだろうから、普通に骨剣も20本くらい強化しておくか。盾が無いと不安に感じるヤツもいると想定し、骨盾も必要だろう。あと骨槍も同じくらいあった方がいいかもしれん。
ちなみに骨槍と骨盾は、2階と3階に出現するスケルトンから入手することが出来るのだが、鋼鉄以外の素材でゴテゴテと装飾されているので使いにくく、良質の鉄だけを求めるなら1階で手に入る骨剣の方がいいのだ。
深層で手に入る強い武器もあるわけだけど、クソ雑魚初心者にいきなり強い武器を渡すつもりはないので、一人前と認められるまでは初期武器で戦ってもらう。
ぶっちゃけ普通の骨剣でも羨ましがられるような良質の剣だから、魔物を倒すのに十分過ぎる武器なんだよ。ミスリルやオリハルコンを知ったことで、俺が普通じゃ満足できなくなったってだけの話なのだ。
いつかぶっ壊れるから、予備の金属バットのさらに予備まで用意しなきゃならんけど、考えを変えるつもりはないので頑張るしかない。
「高温!」
金属バット職人の仕事が始まった。
◇
「やっぱりアニキだった!コレってどう見ても金属バットですよね!?」
「剣が山積みになってるけど、もしかして全部金属バットにするのか?」
顔を上げるとケンちゃんとセイヤがいた。
「お前らの部下達の武器だ。何人来るか知らんが用意しておかんとな」
「ありがとうございます!」
「やっぱりあのリクドーの奴らって俺の部下になんの?」
「そんな雰囲気で盛り上がってたろ」
「わはははは!アイツらって、マジで馬鹿ばっかだから苦労するぜ!?」
「仲間が必要なのはわかるけど、正直面倒臭えぞ!」
気持ちはわかる。
勝手な行動をしたら、鉄拳制裁でわからせるしかないだろうな。
「熱ッチィ!うぇッ?なんでバットこんな熱いの?」
「剣を金属バットに作り変えてんだぞ?熱で鉄をグニャグニャにしないと加工できねーだろ」
「なるほど!火の魔法で鉄を溶かしてるのか!」
「手は熱くないんスか?」
「最強手袋を着けてるからな。これしきの熱など俺には効かん」
「マジで!?そんなスゲー手袋だったのか!」
二人と話していると、面白いことを閃いた。
「そういやケンちゃんって、金属バットの本当の使い方を知らないんだな」
「本当の使い方!?どういうこと?喧嘩じゃねえの?」
「違う。元々は別の目的で使ってた道具を、ツッパリが喧嘩に使い始めたのだ」
「そうだったのか!本当の使い方を教えて下さい!」
「いいだろう。セイヤも手伝え」
「手伝う?何を??」
前にガチャで手に入れたグローブをセイヤに渡した。
こんなの一つあってもキャッチボールすら出来ないからお蔵入りしてたのだ。
「そいつを左手にハメて、こうやって構えてくれ」
しゃがんで、捕手のポーズをしてみせた。
「ケンちゃんは金属バットを持ってココに立ってろ」
「はい」
マウンドからホームベースまで、確か18.44メートルだったハズ。
まあ適当でいいかと思い、大体それくらい離れた。
そして、ガチャで手に入れた硬式ボールをアイテムボックスから取り出した。
一応持ってはいたのだ。グローブが一つしか無かったから使ってなかったけど。
「セイヤ、ボールを投げるから左手で受け止めろ!」
「このデカい変な手袋で!?」
シュッ
パシッ!
「上手い上手い!こっちにボールを投げ返してくれ」
「はい!」
パシッ!
赤い流星の白い手袋のおかげで全然痛くなかった。
なんてこった!グローブ1個でもキャッチボールできたんかーーーい!
「よし、ケンちゃん!金属バットをこうやって構えろ」
「こうっスか?」
「そしてこうやって振る!」
向こうから持ってきた金属バットをブンと振ってみせた。
ブン!
「バッチリだ!よし、もう一回ボールを投げるから、ケンちゃんは俺が投げたボールを金属バットで打ち返すんだ!」
「「なるほど!!」」
シュッ
パシッ!
「くそッ!当たらなかった!もう一回お願いします!」
「ハハハッ!そう簡単に俺の球を打てると思うなよ?」
それから5球投げて、ようやくケンちゃんのバットがボールを捉えた。
ピッチャーゴロだったけど。
「よし、当たったぞ!」
「おいケン、俺もそっちやりてえぞ!」
「もう少しやらせてくれ!今の当たりだとなんかイマイチだったんだよ。もっとパコーンと飛ばせる気がするんだ!」
「しゃあねえな~。パコーンといったら交代だからな!」
「おう!」
俺が手加減してたのもあり、それから5球くらいでカキーンとショート方向に鋭いヒットを打たれた。
「っしゃキターーーーーーーーーーーーーーー!!」
「いったーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
「おお!やるじゃねえか!」
三人で盛り上がってると、広場の入り口の方からニンニンがやって来た。
「なにやら面白いことをしてるでござるな!」
「いいところで来た!俺は仕事に戻らんといかんから、ニンニンと交代だ!」
「よし、次は俺が打つからこっちも交代だ!」
「いいぜ!なんかこの遊びメッチャおもしれえかも!!」
というわけで、慣れるまでは手加減して投げるようニンニンに説明し、俺は再び金属バット職人に戻った。
・・・この流れ、伊賀の里で野球が流行する予感がしません?