886 お、お色気お姉・・・さん?
最初は自分が果物ゾーン担当をするつもりだったんだけど、俺と清光さんと虎徹さんの仕事量がさすがにちょっと半端ないので、『こっちは任せて下され!』と忍者達が販売員までやってくれることになった。いや、無料だが。
ただ相手は5000人とかなんで、伊賀の国で採れる果物がメインで、俺が持ってきた最強果物付きって感じで出す作戦だ。
でも大福をほんの一欠片皿に乗せたってお話にならないから、やっぱり大福の出番はナシですな。
ちょっと規模がデカ過ぎるんで、思ったようにはいかんのう~。
清光さんがやって来たので、壁を取っ払って果物ゾーンがオープン。
甘い匂いに誘われて、一瞬でお客さんまみれになった。
料理忍者達のおかげで一息ついたので中央から離れて周囲を見渡すと、忍者達が舞踊などの芸を見せていたりと、実は食事以外でも大盛り上がりしていた。
そしてお客さん達の腹が満たされてきたところで、太鼓と笛の音が鳴り出し、盆踊りみたいなのが始まった。
「これぞ祭って感じだな!」
「今までは食うだけでしたからね~」
「オレらは遊んでて問題ないのか?」
「むしろ働き過ぎだから忍者達が気を利かせてくれたんです。あとは食材と薪の補充をしているだけでいいと思いますよ」
「そうか。しかし伊賀の里の住人達だけ良い思いをするってのもどうなんだ?」
「それはしょうがなくね?他の村の住人達まで連れて来るなら、ちゃんと準備してなきゃ無理だ。それに何万ものお客さんを満足させるには食料がな~」
友好を深めるためとはいえ、国民全てを満足させるのはちょっと無理でござる。
そういやニンニンはどこ行ったんだ?
「でも近江軍と戦ってる忍者達には美味いもん食わせてやりてえな。・・・よし、最前線にいる忍者達に三河からってことで食料を振舞ってやるか」
「それだ!祭の食材は小烏丸が全部出したから、こんなんでいいの?って感じで、なんかしっくり来なかったんだよな~」
「おお!素晴らしいアイデアじゃないですか。きっとメチャメチャ士気が上がりますよ!」
「それは本当に嬉しいわ!」
俺達の会話に反応した女性の声が聞こえたので声の方を振り向くと、さっきのお色気お姉さんだった。なぜか20人くらいの子供達も一緒だ。
「あ、お色気お姉さんだ」
「子供がいっぱいだぞ」
「幼稚園の先生みたいだな」
「お色気お姉さん!?・・・そういえば名乗っていなかったわね」
「こら!私を子供組に入れるなーーーーーーーーーー!」
子供組のリーダーである桜が憤慨している。ってか桜もいたのか。
「我の名は十六夜。御三方の名は聞いているわ」
「イザヨイって、ジュウロクヤって書く十六夜!?」
「メッチャ格好良い名前じゃん!」
「でも『いざよう』みたいであまり好きじゃないのよね~」
「なるほど・・・。響きは格好良いが、そんな由来だったか」
「十七夜なら十五夜の願いが叶う良い月だったのにさ!」
「響きが格好良いんだから俺がそんな名前なら名乗るたびにドヤ顔するね!『小烏丸』なんて、名乗るたびに名前の説明からでめんどいし、長くて覚えてもらえん」
「うわっはっはっはっはっはっはっは!」
なんかお色気お姉さんの名前で盛り上がってしまったぞ。
「んしょ、んしょ、んしょ」
白が俺の身体をよじ登って来たので、いつもの様に肩車した。
よく見ると、いつの間にか虎徹さんも春を肩車していた。
どうやらピカピカじゃなくても懐いてくれるらしい。
「そうだ。せっかくのお祭りだし、またチビ結界で遊ぶか!」
「お、暇になったしいいかもな!」
「ちび結界??」
お色気お姉さんと子供達を連れて人のいない場所まで移動し、虎徹さんと二人でチビ結界をポコポコ作った。
「「わああああああああああああああ!!」」
今回は年長組がいなかったから低い位置に作ったんだけど、子供達がチビ結界にジャンプしたりよじ登ったりし、キャッキャと遊び始めた。
「この四角いのが、そのチビ結界ってやつ?」
「そそ。色によって消えるまでの時間が違うんだ。消えたら地面にポテッと落ちてしまうから、色が薄くなったら違うチビ結界に飛び移らなければならないんだ」
「お色気お姉さん用の難易度が高いヤツ作ってやるから、試しに飛び乗ってみ」
「名乗ったのに結局誰も名前で呼んでないじゃない!別にいいけど」
虎徹さんが適当に大人用のアスレチックを作った。
トン
やっぱりウズウズしてたみたいで、お色気お姉さんが、二つのメロンをものともしない軽やかな跳躍でピョンと飛び乗った。
「アハハハハハ!これ結構楽しいじゃない!」
ピョン ピョン ピョン
流石は忍者とでもいおうか、高さに恐怖心など無いようで、躊躇なく一番高いチビ結界まで跳んでいった。
「これ使えるわね!でも勝手に消えるんだったかしら?」
「青は5分くらいで消えるけど、緑と赤は結構長持ちするぞ!」
「どんどん色が薄くなって、透明になったら落ちるんで注意な~」
「わかった!」
俺達も祭を楽しまなくちゃな!と巨大海産物を出して調理してたら、初めからいたメンバーの他にも子供達がいっぱい集まって来て、気付いた時には大和の里みたいな感じになっていた。
なぜかお客さん達は遠巻きに見ているだけだったので、子供達とお色気お姉さんに大福を振舞うと、みんな目をキラキラさせて喜んでくれた。
「このお菓子ってどこで買えるの!?」
「越後で買ってきた大福だ」
「「越後!?」」
桜とお色気お姉さんが、予想外の越後に驚いた。
「そんな所まで行ってるの!?やたらと行動範囲が広いわね・・・」
「陸奥を越えて、北海道まで行くのが当面の目標だ」
「「ほっかいどう??」」
「陸奥の最北端から船に乗って海を北上していくと、北海道という魔境に辿り着くんだ。なぜ魔境なのかというと、クソヤバイ魔物がわんさか生息しているからだ」
「最北端の先にそんな所があったなんて・・・。いや、ちょっと待って!どうして貴方はその魔境を知ってるわけ?」
「実際に行ったことがあるからだ」
「海を越えて!?最北端の地からその先を目指すなんて怖くないの?」
「行きたくて行ったわけじゃない。聖帝と斬り合ってる最中に、魔道具で北海道まで飛ばされたんだよ。聖帝もどこかに飛ばされていった」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
話が壮大過ぎて、ちょっとついて来られんらしい。
最北端の話をしてたのに、突然聖帝が出てきたからな。
「知った顔がいたから来てみれば、十六夜様まで此方にいましたか!」
「ニンニン」
十六夜様?・・・え?お色気お姉さんって平蔵より偉い人だったの?
「平蔵さんや。ひょっとして、お色気お姉さんってお偉いさんだったり?」
「お、お色気お姉さんだと!?その御方は伊賀大名の十六夜様だ!」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
俺と清光さんと虎徹さんが、ギギギッとお色気お姉さんを見た。
「「な、なんだってーーーーーーーーーーーーーーー!?」」
嘘だろ!?『ひょっとして平蔵が大名なのでは?』って考えたことはあったが、まさか伊賀大名がくノ一だったとは、予想外すぎますぞおおおおおおおおおお!!
ずっと、お色気お姉さんって呼んでたのですが?




