885 祭
平蔵による冒頭の挨拶が終わり、とうとう『祭』が始まった。
もちろん始まってからじゃ遅いから、料理人達はすでに肉や魚を焼き始めているのだが、まだアリアダンジョン産の巨大海産物まで手が回っていなかったので、急いで空きスペースに移動して鉄板や大鍋を設置する。
巨大海産物はお客さんに勝手に焼いてもらって、好きに食ってもらおうと思っていたので、経験者の帰郷忍者を捕まえては、家族やお客さん達に指導してやってくれと頼んだ。
ピッ ピッ ピーヒャララ
人が沢山で見えないが、笛の音が聞こえてきて、ようやく祭らしくなってきた。
ブルーシートを広げては巨大海産物を山積みにし、『勝手に持っていって、勝手に自分達で焼いて食べて下さい』と書かれた立札を地面に突き刺す。
続けて1リットル缶に入った醤油を積み上げてから、『海産物の味付けは簡単。この醤油をぶっかけるだけ!間違いなく美味いからお試しあれ!醤油のかけ過ぎに注意』と書かれた立札を地面に突き刺した。
そして拡声器で、立札に書かれた内容をそのまま読み上げると、お客さん達が大勢集まった。
「でっか!!」
「なんだこのデカい海産物は!?」
「勝手に食っていいのか?」
『肉、魚、刺身、汁物は、向こうの料理人達が作ってくれるけど、この人数だから長蛇の列になってしまうだろう。なので出遅れた人はこの巨大海産物を焼いて食うことをオススメするぞ!調理方法は大和の里にいた子供達が知ってるから、可愛い子供料理人に教わってくれ!』
「「わーーーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!」」
『そしてこのデカいカニは焼くのではなく、大鍋で茹でて食べるんだ。ここに塩も置いてあるから、カニを茹でる時に、鍋のお湯の中に適当にぶっ込んでくれ。皿や箸は広場の中央に置かれているので、まずはそれを取ってくるといいだろう』
子供達に調理方法を教わるってのがウケたようで、お客さん達が数人で巨大海産物を持ち上げ、醤油の缶を持って、その辺を歩いてる子供を捕まえつつ、空いてる鉄板に向かって歩いていった。
今回は別行動だけど、虎徹さんと清光さんも、広場の反対側で俺と同じ様に巨大海産物屋をやってくれているハズだ。
実はこの中央広場ってメチャメチャ広いから、[ドラゴン肉ゾーン][刺身ゾーン][焼き魚ゾーン][汁物ゾーン]と、中央に鎮座している犬の彫像を挟んで100メートルくらい伸びてるような状態で、どっちが北なのか南なのか分からんけど、巨大海産物は外周で焼くような感じになる。
すなわち、俺が向かったのは外周だから空きスペースだったのだ。
ぶっちゃけこれほど規模の大きい祭なんか初めてだから、人混みの中を移動するだけでも大変だ。
俺だけじゃなく、皆てんやわんやって感じで頑張ってるんだろな~。
「おお!ホタテといったか?これメチャクチャ美味いぞ!」
「この黒い液体美味しすぎない!?」
「立札に『醤油』って書いてあったぞ。フリガナのおかげで読めたが、難しい漢字だったな。これって尾張や三河に行けば買えるのだろうか?」
「美味しすぎだよこれ!ウチにも欲しい!」
「オーーーーーーーーーーイ!お前ら汁物を飲んだか?」
どんぶりを片手に持った男忍者がこっちに歩いて来た。
「いや、すごく並んでたから、とりあえずこっちで巨大海産物を食ってた」
「もう本当に涙が出るほどうめえから絶対飲んだ方がいいぞ!三種類あったけど、間違いなく全部うめえ!俺が飲んだのは『貝の味噌汁』ってヤツだ!」
「みそ汁?」
「泥水みたいな色だったから一瞬後悔したんだが、泥水だと思ってたあの時の俺を殴りたいくらいだ!」
「わははははははははははは!」
なるほど・・・。言われてみると確かに泥水みたいな色だよな。
物心ついた時から、味噌汁といったらそれが当たり前の色だったから、まったく気にしたことがなかった。
味噌汁が泥水なら、真っ黒い醤油なんか毒に見えるんじゃないか?
子供料理人が当たり前のようにぶっかけて美味しそうに食べてるから、他の人も深く考えずに手を出したけどね。
まあ醤油が焦げる良い匂いが充満してるから、その時点で毒疑惑が解消されたのかもだけどな。
他のお客さん達も誰もが笑顔で巨大海産物に舌鼓を打ってる姿を確認したので、減った分を補充してから、まだ手付かずだった右側の外周に移動する。
そこにも巨大海産物ゾーンを作成し、拡声器でお客さんを呼び寄せてから、広場の中央目指して人混みをかき分けて進んでいった。
「ドラゴンの肉は1人1個までだ!そうしないと参加者全員に食べさせてやることができないんで了承してくれ!」
「どれもこれも美味しいけど、汁物が特にオススメだよ!」
「外周で巨大海産物が食べられるようになったから、並び疲れたらそっちに行ってみるといい!」
並んでるお客さん達が退屈しないよう、料理人達が声を張り上げ情報を提供したりと頑張ってるな。
『ゴーメンナサイヨー』と言いながら道を開けてもらって、料理人達のいる方に入っていき、ドラゴンの肉と塩胡椒と薪を補充した。
そして刺身ゾーンに移動すると、ここだけ冷んやりとしていて、親父が板前となって刺身を振舞っていた。格好は大バカ殿様だけどな。
お客さんが持参した皿に七種類の刺身を乗せ、小皿に醤油を入れたら次の人って感じですごく忙しそうだ。
刺身の種類はランダムって感じだが、必ずマグロは入れているらしい。グミが醤油係をやっているのだが、長いことコンビを組んでいるので息ピッタリだ。
その後ろで忍者達が刺身を切りまくってるんだけど、彼らが一番大変だろうから声を掛けて労った。
そして犬の彫像の頭を撫でてから、焼き魚ゾーンに移動。
こっちも、お客さんが持参した皿に焼き上がった魚を乗せ、醤油をかけたら次の人って感じだな。
魚の焼ける匂いが非常に食欲をそそり、見た所、これをおかずに握り飯を食ってる人が多い印象だ。
海の魚を食べる機会が少ないのもあるけど、もう皆我慢できずに歩きながら食ってしまってる感じだ。これを歩き食いするのは大変だと思うんだけどな。
そのせいで渋滞してしまっているのだが、まあ気持ちは分かる。
でも地面に落としたら最悪だし、向こうで落ち着いて食べた方がいいですよ?
焼き魚ゾーンにも薪を補充し、気になっていた汁物ゾーンに移動。
三種類あるけど、どれが美味いかなんて食ってみないと分からないので、ドラゴン汁が一番人気ってわけでもなく、同じくらいお客さんが並んでる感じだ。
ただ、どんぶりによそったら『はい次!』って感じだから回転が早く、そうなると大鍋が空になるのも早いわけで、三つの大鍋を全て空っぽにしてしまわないよう、あえてゆっくりよそってるのがわかった。
水生成機を貸し出してあるんで、水汲みに行かなくていいからかなり楽なハズ。
衝撃的な魔道具に忍者達も驚いていたが、伊賀の里にいくつかプレゼントしてやるつもり。お偉いさんが管理することになるだろうけど。
汁物ゾーンにも薪を補充し、ようやく目的地に到着した。
お客さん達の腹が膨れてきたところで、最後に果物ゾーンをオープンする予定だったのだ。
腹が減ってる状態でいきなり果物ってのもどうかと思ったから、わざとにオープンを遅らせていたわけですよ。
清光さんに壁で囲ってもらって目隠しをしているから、お客さん達からはまったく見えないのだが、壁の中ではすでに忍者達が果物を切りまくってるから、もういつでもOKって状態になっているハズ。
よし!あとは清光さんに壁を除去してもらったら、果物ゾーンのオープンだ!
ちなみに、大福の出番はなくなりました。
だって5000個も無いですし!これは頑張ってくれた運営の皆に配ろっと。




