877 労働ってのは大変なのだ
ツッパリ共に一週間考える時間を与え、これで俺達の用事は済んだ。
ただ低レベルの同行者がドンと増えるわけだから、まずはツッパリ共のレベルを何とかしなければならない。ついでに野盗達もレベル上げしておくか。
今までは流れ作業のように毎日遠足してたけど、このまま次の街に到着してしまうと、ツッパリ共のデビュー戦が敵1000人の超絶バトルになってしまうから、今度は逆に歩を緩めなければならないだろう。
いや、むしろ一歩も進まない方がいいのかな?
少人数のレザルド兵を撃破して、小さな修羅場から経験させたいわけだからな。
そして近江組がどう動くかなんだが、砦に籠ってただ一週間戦闘訓練して待ってるのもつまらんだろうってことで、『明日平蔵と一緒に伊賀の里に行く予定だから、皆で伊賀の里に行かないか?』と提案してみた。
「伊賀の里か。面白いな」
「そこって近江の南にある国だっけ?」
「おーーーーー!桜ちゃんに会えるってこと!?」
「白ちゃんと春ちゃん、元気にしてるかな~♪」
「あ~、その三人がいるのは大和の里の方だ。でも転移で忍者達を里帰りさせてやるって平蔵と約束してるから、たぶん伊賀の里にやって来るんじゃないかな?」
「遠足が出来ないのなら、それでいいんじゃないっスか?」
「おお!伊賀の里でお姉さん達と新たなる出会いが・・・」
「セイヤ、『くノ一』だけは口説かない方がいいぞ?お色気ムンムンの美女揃いなんだけど、例え夫婦であろうとも、上司の命令一つで簡単に夫を裏切るらしい」
「ぐはっ!簡単に裏切る女とか最悪じゃないっスか!」
綺麗なくノ一には棘があるのだ。猛毒がたっぷり塗られた棘が。
一般人ならともかく、大名になるつもりなら絶対触れない方がいいだろな。
「じゃあ伊賀の里で決まりってことでいいか?」
「いいだろう」
「忍者は剣技だけじゃなく魔法にも精通してるみたいだから、いい訓練相手になってくれるハズだ。俺はツッパリ共の武器を作らにゃならんから、目の届かない所で忍者と揉めたりしないでくれよ?」
「善処する」
今までの行動パターンを見ているとまったく信用ならんけど、少なくともバカじゃないから、伊賀忍との関係が拗れるような真似はしないと思うけどね。
「んじゃそろそろ近江に帰るか~」
「里帰りさせると言っておったな?我らが伊賀へ行くのは明後日か?」
「あ~、確かに明日は俺も伊賀忍達も忙しいかもしれん。明後日の朝、伊賀の里に行くってことにしておこう」
「じゃあ明日は訓練日だね!」
「おっと!大福を食ってない人がいるから取ってくる。ちょっと待っててくれ」
というわけで、完成していた大福を倉庫から根こそぎ回収してきた。
仲間に全部食わせるわけじゃないぞ?ほとんどは伊賀の里へのお土産だ。
また海産物を大放出するつもりだけど、さらに甘い大福で『良い人達』だって印象を強く残す作戦なのだ。美味い物をくれる人は良い人なのだ。
あ、しまった!
ガルザリアスに『後でまた来る』って言ったのに、ツッパリ共が近江に行くのは一週間後になったんだった。ケンちゃんの仲間らを連れていく予定だったんだが。
くそう、先読み失敗とは情けない。一週間の猶予くらい考えられる流れだろうに。
しゃーない、通信機で謝っておくか・・・。
ケンちゃんとセイヤが、ツッパリ共に『じゃあ一週間後な!』と言ってる姿を横目に、通信機でガルザリアスに一週間後になったと謝っておいた。
そして近江チームと手を繋ぎ、昨日清光さんが作った砦に帰還。
砦を消さないでそのまま越後に行ったのは正解だったな。
近江に行くから一応メタルヒーローに変身してたわけだけど、少し話そうと思ってスピルバーンとサイダーと三人でアリアダンジョンに転移した。
「しばらく遠足はナシになった感じか?」
「伊賀の里で一週間過ごして、その後越後までツッパリ共を回収に行って、そのまま京の都ダンジョンにぶち込む流れかな・・・」
「ありがてえ!一日置きに遠足があるとマジで他のことが何も出来ないからな」
「オレらはダンジョンに行かなくていいのか?」
「ツッパリ共の訓練は経験者のケンちゃんとセイヤに任せていいと思う。野盗達はレミィとパトランに任せればいいかな?まあゼーレネイマスもいるし、俺達が同行する必要はありませんね」
「よし、久々にバイクでも作るか!」
「これで労役が無ければいい休暇になったんですけどね~」
「アレはアレで必要経費みたいなもんだ。後悔はしてねえ!」
無茶したおかげで、ガチャ産の最強バイクを手に入れたんだもんな~。
副次効果でスピルバーンの衣装も出てしまったわけだけど。
「んじゃそろそろ帰るか~」
「伊賀の里は俺達も見に行きたいから、明後日の朝合流する。チッ!今日の労役サボッちまったから、明日は3倍の速度で労役か・・・」
「3倍は赤い流星の専売特許だからダメです。5倍にして下さい」
「無茶言うんじゃねえ!」
とまあ、いつものふざけた会話でオチがついた後、二人は三河に帰還した。
俺はダンジョン攻略組のガチャを見届け、一緒に流星城入り口に転移した。食堂まで少し歩くけど、何度も送迎をしてる内にこの場所が一番良いと気付いたのだ。
この時間は食堂が混んでるから、食堂に転移した瞬間、座標被りで1人がテーブルの上に出現してしまい、料理をひっくり返してしまったことがあるのだ。
まあそういうわけで、ダンジョン攻略組と一緒に食堂まで歩いて来た。
ガヤガヤガヤガヤ
人混みの中を泳ぐように移動し、いつものテーブルに着いた。
「小烏丸、今日は高級魚が食えるみたいだぞ!」
「ノドグロだってさ!メチャメチャ美味しいらしいよ!」
親父とグミに話し掛けられて思い出したが、そういや今日は高級魚が振舞われるんだったな!まあ、俺は昨日食いまくったばかりなんだが。
「あ~、実はな、俺とニャルルが主犯なんだよ」
「主犯?何の話だ?」
「のどぐろをゲットしに越後まで行ったんだが、二人だけだと網外しがキツいから、流星城にいたミスフィートさんと和泉とルーシーとリンコを拉致して漁に出た」
「ぷはっ!!」
「そういや、のどぐろって越後で獲れる高級魚だったか!」
そんな会話をしていると、俺達のテーブルに本日の料理が運ばれて来た。
「へい、お待ち!」
和泉が寿司職人みたいなセリフを吐いて、美味そうな刺身を並べ始めた。
そしてもう一人の女の子が、ぎこちない動きで焼き魚を並べているのだが、ん?と思って顔を見ると、百花繚乱のヨーコだった。
「おお、ヨーコじゃないか!」
「・・・え?」
どうやらまったく気付いてなかったみたいで、俺の顔を見て目を大きくさせた。
「ああ!マスクの人!」
「頑張ってるみたいだな!兵士達の食事が終わったら料理班も同じ料理が食べられるし、その後流星城自慢の大浴場に入れるから、最後まで頑張るんだぞ!」
「あ、えーと・・・、は、はい!頑張るっス!」
俺達のテーブルに料理を並べ終わると、和泉の後ろを追いかけるように厨房に戻っていき、でっかいトレイに料理を乗せて次のテーブルに運んでいった。
うん、大変そうだ。
百花繚乱の他のメンバー達も、ヨーコと変わらないぎこちない動きで料理を運んでいるが、見ていて微笑ましいな。
でも大変だからこそ、両親がどれほど苦労して自分を育ててくれたか、身を以て知ることができるだろう。
しかし本当に大変そうだな。本人が望めばだが、リンコのようにダンジョンで軽くレベル上げしてやるか・・・。