873 ランダム大福
『最初はやっぱこれだろ!』と、最高級のマスクメロン入りの大福を手に取り、楽しみでニヤケ顔を抑えきれないままかぶりついた。
店主には果物大福だけランダムで作ってくれって伝えてあるんだけど、最初だから果物を入れるところを見ていたのだ。
「・・・ヤバい、これはヤバいですぞ!メロンを入れるとこうなるのか・・・」
「フオオオオオオオオオ!美味しいの中でも最上位の美味しさだよ!」
「なにこれ!?世の中にこんな美味しい食べ物があったなんて!」
「しあわせ~~~~~~~~~~~~~~~!」
おそらく大好物の果物が入っているであろう大福にかぶりついた女の子達も、ぱあああ~っと笑顔になり、目をキラキラさせている。
「いきなりメロンいっちまったが、たぶん全部美味いだろな。スイカは食感的に微妙かもしれんけど」
「イチゴってどうなんだろ?」
「ああ、イチゴ大福ってのが存在するから美味いハズだぞ。ただ俺の知ってるイチゴ大福には餡子も入ってたけどな」
「アンコって、あの黒くて甘いやつのことだよね?」
「そそ!せっかくだし作ってもらうか」
というわけで、餡子の大福を作る時にイチゴ入りのヤツも作ってくれと店主にお願いしといた。
「あっ!コレって黄色くて長い果物じゃない?」
「バナナか!パトランは好きな果物を狙い撃ちしなかったんだな。しかしバナナ大福なんて初めてだ。美味いのか?」
「美味しいよ!ピカピカが持ってきた果物に不味いのなんか一つも無いし!」
「モモおいしいよモモ!」
パトランとレミは近江出身だけあって、今まで最底辺の暮らしをしていたから、甘味ってだけで幸せなのだ。
目も舌も肥えている俺やレミィが食っても美味いんだから、たぶん誰が食ってもこの二人のような幸せ顔になるんだろうけどな~。
今日から三日間、無限に大福が作られ続けるから、遠慮なくオエッってなるまで食いまくろう。
「遠慮なく食いまくっていいからな!俺も食いまくる!」
「「やったーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」」
大福を食べながら一つ閃いたので、店主に話し掛けた。
「店主、倉庫内の部屋を一つ、冷蔵室にしてやろう」
「はい。え?レイゾウシツですか?」
「魔道具を使って、部屋を丸ごとキンキンに冷えた状態にしておけば、切った果物や大福をその部屋にぶち込んでおくだけで腐りにくくなるんだ」
「えーと、冷暗所のような?」
「冷暗所どころじゃないぞ。もっとキンキンに冷える」
「おおおおおおおおおおーーーーーーーーーー!」
「ただし魔道具を動かすには魔石が必要だから、魔石を仕入れる必要がある」
「魔石ですか!?雑貨屋に売ってるハズだが、いくらだったかなあ・・・」
「冷やす魔道具は小さな魔石1個で丸一日稼働する。部屋を丸ごと冷やすには魔道具が二つ必要だから、一日で小さな魔石が2個必要だな。まあそれなりに金が掛かるが大した出費じゃないだろ?」
「高くても1個200ギランとかだと思うから・・・、ふむ、問題無いですな!」
「んじゃタダで改造してやる。これからも大福を買いに来るだろうしサービスだ。冷蔵室にしてもいい部屋に案内してくれ」
「ありがとうございます!!」
前回来た時から気になってたんだけど、大福屋の倉庫はだだっ広いだけの倉庫じゃなく、見た感じ部屋が二つ三つあるのだ。
店主と話し合い、その内の一つを冷蔵室にすることが決まった。
なぜこれほどまでのサービスをしてあげるのかというと、大量に作った果物大福の鮮度を保ちたかったからというこっちの都合だ。
でも南国出身の果物、例えばバナナなんかは寒さに弱く、冷やすと皮が黒くなってしまったりするから、果物を丸ごと冷蔵庫に入れるのは逆効果だ。雑菌が繁殖しないように切った果物を冷やすって理由をちゃんと店主に説明しないとな。
というわけで、一人でチャッチャと魔道具を作り、初回サービスってことでアリアダンジョンの魔石をセットしてやった。これ一つで十日持つハズだ。
部屋が冷えてきたのを確認し、皆のところに戻った。
「店主、部屋の改造が終わったぞ。部屋が冷え始めたから後で確認するといい。魔石はサービスだ」
「ありがとうございました!私に出来るのは大福を作り続けることくらいですから、頑張ります!」
「それでいい。期待してるぞ!」
そう言って、適当な大福を手に取ると、バナナ大福だった。
うん、これはこれでアリかもしれん!
「お、いたいた!」
虎徹さんが現れた。
「あ、虎徹さん!大福を食べに来たんですね。ツッパリ共の様子はどうですか?」
「まだケンちゃんの修行編を聞かせてるだけだから、特にこれといった変化はないぞ。時系列に沿って話してるから長くなりそうだし、オレが知ってる話を聞いてもしゃーないからこっちに来た」
「まあ、どうせ今日は休日ですから、皆好きなように楽しめばいいんです」
「だな!アニキはツッパリを見てるのがすげー楽しいみたいだから、労役をサボりそうな雰囲気だった」
「ハハッ!元暴走族ですからね~。この街が相当気に入ったみたいですし、虎徹さんも何度も転移要員として連れて来られるんじゃないですか?」
「もう確実だろ!アニキが楽しそうならそれでいいんだけどさ。でも労役をサボりすぎたら終身刑になるから、オレの方で歯止めをかけなきゃな」
そんな会話をしていると、ゼーレネイマスも倉庫に顔を出した。
「お、ゼーレネイマスも大福を食べに来たのか」
「まだ佐渡ヶ島での修行の話をしておるからな。アレは長くなる。昔の仲間の前で誇張して話さないか見張っておったが、そこは問題無さそうだ」
「あるあるだな!まあツッパリ共は放っておいて、大福でも食いながら長い近江生活でささくれた心を癒すといい」
「別にささくれてなどおらぬ!」
大福部の新入部員の虎徹さんとゼーレネイマスに、『今日は大福食い放題だから、遠慮なく食いまくってくれ』と言うと、二人が適当な大福に手を伸ばした。
「うんめーーーーーーーーーー!果物が入った大福も全然アリじゃん!」
「これは美味いな」
俺も大福に手を伸ばすと、またもやバナナ大福だった。
「そんなバナナ!」
「なに言ってんだこいつ?」
「いや、さっき食ってた大福もバナナだったんですよ。桃大福が食いたかったのに、店主にランダムにしてもらったから、桃を引き当てるのが難しそうだ・・・」
「わはははは!ランダムいいじゃん!オレは逆にバナナが食ってみてえぞ!」
「ちなみに今食ったのは?」
「梨だった」
「おお、梨も美味そうだ!ゼーレネイマスは何の果物だった?」
「メロンといったか?緑の丸いヤツだ」
「「大当たりじゃねえか!」」
こうして、従業員達が餅をペッタンペッタン搗く音をBGMに、ずっと殺伐としていた近江チームは一時の休息を満喫したのだった。




