872 近江チーム、越後に行く
俺が何をしようとしているかゼーレネイマスも察したようで、雨がチラついていたのもあって今日の遠足は中止となり、近江チーム全員で越後に行くことになった。
なにしろ毎日遠足してるのは次の街を目指してるってだけだから、なんとしても進まなきゃならんってわけでもなく、ぶっちゃけまったく急いでないのだ。
「集団転移するには手を繋ぐのが条件だから、全員手を繋いでくれ」
「やっぱりそうなんだ?ピカピカが帰る時いっつも手を繋いでるから、そういう条件なんだろなーとは思ってたけど」
「説明したことなかったか?これはしくったな。レミィ母さんはともかく、他の人達にただの仲良しだと思われていたんだとすると恥ずかしいじゃねえか!」
「レミィ母さん言うのヤメレ!」
「そういやこのメンバーって、転移未経験なのか」
「俺が時空魔法を覚えたのって京の都に到着してからだからな~。ゼーレネイマスと弟子二人はダンジョン攻めてたし、それからずっと近江にいたから」
楽を覚えると意識が分散して闘志が薄れてしまうんだよね。
野次馬のピカピカは闘志とかどうでもいいんだけど、主役達には近江攻略に集中させたかったから、敢えて転移で買い物させたりしなかったのだ。
近江国内の転移なら影響は少ないと思うけど、国外に出たら近江とかどうでもよくなってしまうかもしれないからな。それはゼーレネイマスも分かってる。
まあすなわち、重要なイベントだから今回だけ特別ってわけだ。
越後は刃物の所持を禁じられているので、全員の武器を一旦回収した。
みんな強いし、木刀はまあ無くても大丈夫だろ。
「よし、全員手を繋いだな?んじゃ行くぜ!」
大福屋の前はツッパリまみれだろうから店の裏に転移した。
「眩しっ!」
雨模様だった場所から天気が良い場所に転移すると、突然明るさが変わってすごく眩しいらしいのだ。マスクを着けてるせいか俺にはまったく効かんけど。
「目の前にキレイな建物がある!」
「うわ、街の中だ!久しぶりに文明を感じる!!」
「こいつは大福屋の裏の倉庫だ。あ、もう近江じゃないから変身解除しません?」
「大福屋だと!?俺も食いたいから変身解除だな」
「マジか!大福なんて子供の頃食ったっきりだ!絶対食う!!」
ピカピカ三人が、その辺によくいる一般人に戻った。
「おおおおお!ピカピカが人間になった!!中の人初めて見たんだけど!!」
そういやパトランだけピカピカの正体を見たことがなかったか。
「俺がシャアリバーンで、白い服がスピルバーン、黒い服がサイダーだ」
「中の人も派手だし!でもなんでマスクしてんの?」
「そいつはマスクを外すと嫁が無限に増えてしまうんだ。放っといてやれ」
「意味わかんないんだけど!!」
そんな理由でマスクを着けてるわけじゃないんですが!
「越後ってめっちゃ栄えてね?京の都に全然負けてねーな・・・」
「アニキ!仲間はどこにいるんスか!?」
おっと、そろそろ仲間に会わせてやっか!
しかしツッパリの話し声が聞こえてこないな?ちゃんと集まってるんだろな!?
「爆炎一夜の連中は大福屋の前に集まっているハズ。んじゃとっとと行くか!」
大福屋の横を通って大通りに出ると、ツッパリ共はちゃんと集まっていた。
しかしやたらと大人数で、半数に分かれてガンを飛ばし合っていた。
「オイオイ、せっかくケンちゃんを連れて来たってのに、なに険悪ムードになってんだよ?」
俺の声を聞き、ツッパリ全員が振り返った。
そしてケンちゃんが前に歩いていく。
「よう!お前ら元気にしてたか!?」
「「うおおおおおおおおお!ケンちゃんだ!!」」
歓喜の抱擁が始まると思って見守っていたのだが、ケンちゃんが1人の男を見て眉を吊り上げた。
「・・・あ?なんでテツオまでいやがる!?」
「ハハッ!ケン、久しぶりじゃねえか!殺しに来たぜ?」
「んだとコラ!!」
おい待てや、敵対勢力とか今はお呼びじゃねえぞー。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
テツオとかいう男の胸ぐらを掴んだケンちゃんが固まった。
「こりゃダメだな・・・。悪ィけど今の俺とじゃ喧嘩になんねーわ」
「あ”あ”ん!?ナメてんじゃねえぞコラ!!」
ケンちゃんに掴みかかったテツオの目が大きく開いた。
「チッ!コイツらの話ってマジだったのかよ!!」
「なんの話だ?」
タタタッ
「すまねぇ!昨日ケンちゃんの話で盛り上がってたら、偶然テツオに聞かれちまったんだ」
「そしたら、大福屋がこんな状態になっちまった」
あ~、そういうことか。
街を歩いてたら久々にケンちゃんって名前が聞こえてきて、現役の頃ライバルだったテツオが興味を持ち、チームの仲間を引き連れココに来てしまったわけだ。
「なるほど、そういうことか。でもわかったろ?もう昔の俺じゃねえ。レベル差がありすぎて喧嘩にならねえんだ。ちょっと残念だけどな」
「クソが!お前とは決着がついてねえっつーのによ!まあいい。今から爆炎一夜の連中に話すこと、俺にも聞かせろ」
「なんでテメーに聞かせなきゃならねーんだよ!おうちにカエレ!」
「聞くまでぜってー帰らねえ!俺らはしつこいぞ!」
「うわ、うっぜええええええええーーーーーーーーーー!!」
なんか知らんけど、面白いことになったような気がする。
喧嘩でグチャグチャにならんのなら放っておくか。
っていうか早く大福屋に材料を渡さないと、その分大福の数が減ってしまう!
「オイオイオイ!越後メチャクチャおもしれーじゃねえか!このテツオっての、敵対チームの頭かなんかだろ?」
「そんな感じですね。俺はちょっと大福屋に用事があるんで行ってきます。清光さんは族の抗争でも満喫してて下さい」
「もう大福どころじゃねえ!俺が求めていたのはこういうのなんだよ!」
「アホねえ。私はダイフク屋に行くよ!」
「たぶん1個も売ってないから、完成待ちになるぞ?」
「ダイフク屋のくせに、なんでダイフクが1個も売ってないのよ!!」
「昨日買い占めた」
「なにイイィィィ!?」
レミィは祝勝会の時に大福を食べたことがあるので、頭の中はすでに大福でいっぱいだったようだ。
ケンちゃんとテツオがいきなりバチバチやり始めたから、男連中はこっちに興味津々だけど、バカ共の喧嘩とかどーでもいい女子勢と一緒に大福屋に入った。
「店主、大福の材料を持ってきたぞーーーーー!」
作業をしてた店主が振り返ったが、なぜかコメカミに青筋を立てていた。
「なんかキレてない?」
「店の前にバカ共が大量に集まってるんですよ!なんだってウチの前で・・・」
あ、それはきっと俺のせいでござる。
「あ~、うん、どうせ今日は休みなんだし気にしなくて大丈夫だ!それより大福だ大福!あの白い砂糖と最高ランクの果物を持ってきたぞ!」
「待ってました!それでは倉庫に移動しましょう」
店主と一緒に裏の倉庫に入っていった。
「よし、俺が持ってきた果物は格が違うってところをみせてやろう」
テーブルがあったのでそこにいくつか果物を出し、脇差しでザクザク切った。
「見たことの無い果物ばかりだ・・・」
「よしいいぞ!全種類味見してみろ」
大福屋の店主がカットされた果物を口にし、目を大きく開いた。
「な、なんという甘さなんだ!!美味い、美味すぎる!!」
「ヤバいだろ?全て最強糖度の果物だから砂糖なんか使わなくていいからな。そこにいる女の子達が大福に飢えてるんで、とりあえず色んな果物大福を作ってくれ」
「これほどまでの素晴らしい果物で大福を作るのは初めてです!私もワクワクしてきましたよ!」
「「がんばれーーーーーーーーーーーーーーー!!」」
もうすでに従業員達が餅を搗いていたようで、早速店主が大福を作り始めた。
最強果物で作る大福は初めてだから、俺も楽しみでしょうがない。
しかし暑苦しいツッパリ集団とほんわかした大福組の温度差が笑えるな。