856 忍者刀を強化してあげよう
遠足に出発しようと思って周囲を見回し、大変なことに気付いた。
「サイダー、大変だ!スピルバーンがいないとあの砦を消去できねえ!」
「あ、そうか!しかしもう遅い。ダンジョンに置いてきちまった」
「いつもと違う行動をするとダメですね。単純な見落としをしてしまう」
「しゃーねえ、明日の朝またここに来て砦を消すしかねえな」
残しておいても問題が無いような気もするんだけど、清光さんの砦って頑強過ぎるんだよ。レザルド軍や野盗に発見されて使われると厄介なことになるから、やっぱり消した方がいいだろう。
ちなみに土魔法には謎の特性があって、術者以外が建物を壊そうと思ったら城攻めのようにグチャグチャに破壊するしかないのだが、術者本人ならズズズズっと簡単に地面に戻すことが出来るのだ。ただし中に人がいたりするとダメらしい。
原理はよく分からん。
そういうもんなんだとしか言い様がない。
あと氷魔法で作った建造物も特性は一緒らしい。ただし建造物の残存魔力が尽きると日光で溶けるそうだ。魔法ってややこしいっスね。
というわけで、砦のことは一旦忘れて琵琶湖ロードまで移動した。
「んじゃ、しゅっぱーーーーつ!」
ケンちゃんの元気な声で、遠足がスタートした。
「良い天気だ。白、晴れて良かったな~」
「うん!」
「昨日は午後まで霧雨が降ってて、なんか気怠い一日だったな~」
「あ、そうだったんですか」
「ただスピルバーンのリフレクションシールドがほとんど完成したっぽい」
「マジか!?」
「大魔王も完成したっぽいし、そろそろ第二回バトルロイヤルが来るぜ?」
「おおう・・・、またあの地獄の戦いをするのか」
前回は俺とサイダーの同時優勝だったけど、あの二人がリフレクションシールドを使うとなると連覇は厳しいだろな・・・。
ファンネルー戦って脳が焼き切れそうになるから、面白いっちゃ面白いんだけど疲労が半端ないのよね。
琵琶湖を指差している半蔵とニンニンを見てパッと閃いた。
「おーい、二人とも武器を貸してくれ。ちゃちゃっと強化してやる」
変な恰好の伊賀忍コンビが振り向いた。
「武器を?」
「今、強化してやるとか言ったでござるよな?」
「こう見えて実は付与魔法が使えるのだ」
「ほお!何だかやたらと芸達者なピカピカだな。申し出は非常に有り難いが、しかし我らの刀はすでに強化済みなのだ」
「あ、そうだったのか!伊賀にも付与魔法使いがいるんだな。ちょっと見せてもらっていいか?」
「良いでござるよ」
ニンニンから忍者刀を受け取った。
・・・ガチョピンで。
『相変わらずピカピカは意味不明でござる』って顔されたけど、メタルヒーローは武器が持てないのだ。
[忍者刀]
:弥扇作の忍者刀。様々な付与魔法が込められている。評価A
:総ミスリル製。
:斬撃強化(中)斬撃速度強化(中)刺突強化(中)
:衝撃耐性++ 汚れ耐性++
「ミスリル製じゃないか!強いな・・・」
「免許皆伝と認可されて授けられた自慢の刀でござる!」
「なるほど、これなら全然問題無いな。しかし俺ならもう1ランク性能を上げることが出来るぜ?どうする?」
「「なにッ!?」」
平蔵とニンニンが話し合いを始めた。
免許皆伝で授かった忍者刀なわけだし、それを改造してしまうのは確かに問題なのかもしれない。
しかし決まり事を守って強くなるチャンスを逃すなど、ただ頭が固いだけだという流れになり、とりあえずニンニンの忍者刀を強化することになった。
白を肩車しつつ歩きながら付与するのは難しかったが、すでにある程度強化してあったのもあり、30分くらいで強化が終わった。
[忍者刀]
:弥扇作の忍者刀。様々な付与魔法が込められている。評価A
:総ミスリル製。
:斬撃強化(強)斬撃速度強化(強)刺突強化(強)
:衝撃耐性+++ 汚れ耐性+++ 自動修復(中)
「ほれ、強化が終わったぞ」
俺の声を聞き、二人が驚いた顔で振り返った。
「もう終わっただと!?」
「いくら何でも早すぎでござる!!」
忍者刀を鑑定した二人が目を大きく開いた。
「信じられぬ・・・。恐ろしいほど強化されておるではないか!」
「自動修復ってのは一体何なのでござるか!?」
「書いてある通りだぞ?刃が欠けても放っておけば勝手に修復される」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
どうも斬れ味の強化よりも、自動修復の方に衝撃を受けているようだ。
冷静に考えると確かに、勝手に修復されるって意味不明なとこあるよな~。
忍者刀を見ながらフリーズしていた伊賀忍コンビが、今度は俺をジッと見て思考の渦に飲まれてるのがわかった。
「あの強大無比な聖帝軍に勝つわけだ・・・」
「ミスフィート軍の重臣達がどんな武器を持ってるか想像つくでござるな」
平蔵達がミスフィート軍のヤバさに気付いたようだ。でも俺は俺で伊賀忍に脅威を感じてたりする。ニンニンのあの忍装束とか絶対強化されてるじゃんね~。
「もちろん平蔵の忍者刀も強化するよな?」
「お頼み申す!これもレザルド軍を倒す為。決まりを守っている場合ではない!」
「それでいいと思うぜ?」
というわけで、また30分かけて平蔵の忍者刀を強化した。
この一段階上の強化までいくと途端に長期戦となるから、『斬撃強化(強)』ってのは、俺が多用している一番時間効率のいい強化値なのだ。
自分の武器が激しく強化され、平蔵の口端が上がってますな。
ミイラ男の口元は見えないけど、たぶんニヤニヤしてることだろう。
平蔵とニンニンが深く頭を下げた。
「本当に感謝する!しかしこれ程の恩義、どう報いればよいものか・・・」
「ピカピカは正義の味方だって噂を流しておくでござる!」
「あ、それが一番嬉しいかもしれん!」
「シャアリバーン、よくやったぞ!」
やはりサイダーも、メタルヒーローの人気を一番に考えているようだな。
まあ俺としては忍者達と仲良くしたいってだけなんだが。
桜はどうしてるのだろうと思い女子グループの方を見ると、皆と楽しそうに会話しているのが見えた。
この一行が良い人ばかりだってのはくノ一達にもわかってほしかったから、遠足に連れてきたのは正解だったかもな。
「なんか建物が見えるぞ!」
セイヤの声が聞こえたのでそっちを見ると、指差す方向に大きな建物が見えた。
「建物っていうか、小っちゃい砦って感じか。多くて100人くらいかな」
「見張り台も見えるけど、見張りサボってねえか?たぶんあそこに兵士入ってねえよな?」
「まったく見張り台の意味が無いでござるな」
皆でセイヤの側まで移動した。
「どうする?」
「当然攻め落とす」
「でも今日は幼女が二人いるんだよな~」
「シャアリバーンとサイダーは、砦の外で子供達を守りつつ我らの討ち漏らしを処分してくれ」
「ん?平蔵も突入するつもりなのか?」
「強化された刀の試し斬りをしたいと思っていたところだ」
「拙者もでござる!」
「そうか、じゃあ俺達の代わりに大暴れしてきてくれ!」
「でも敵兵が多かったら呼びに来いよ?外はピカピカ1人いりゃ十分だろうし」
というわけで俺とサイダーで外を見張り、それ以外のメンバーで砦の中に突入することになった。
ちょっと心配だが、ゼーレネイマスが指揮するのだから大丈夫だろう。
レミィには聖水をたっぷり持たせてあるしな。
今日は楽しい遠足で終わりたかったけど、こうなった以上しゃーない。
皆、怪我しないようにな!




