846 俺は重要なことを忘れていた!
「どうやら俺達は、共通の敵と戦ってるみたいだぜ?」
伊賀忍二人の反応を待っているのだが、なぜか驚いた顔でフリーズしている。
ん?と思って隣を見ると、お嬢もフリーズしていた。
・・・あ、ムービーをキャンセルするの忘れてたし!
でも、ぼやきキャンセルすると半端になってしまうな。折角だからムービーを完走させることにしよう。
夢の世界に旅立っていた三人が帰って来た。
「おい!今の現象は何だ!?」
「赤いピカピカが何者かと戦ってたでござる!」
「うちゅーけいーじー、シャアリバーン♪」
お嬢、歌詞を覚えたのか!楽しんでくれたようで何よりだ。
「俺くらいの正義の味方になると、歌付きで戦闘シーンが再現されたりするのだ。とにかくあれだ。どうやら俺達は共通の敵と戦ってるみたいだぜ?」
「怪奇現象をさらっと受け流すな!」
「尾張が近江と敵対しているなど初耳でござる」
「ああ、近江が美濃を狙っているとの情報を聞き、少人数で近江に侵入したんだよ。実際中に入ってみると、処刑場で無残に殺されて放置されたままの多数の死体を見たし、村のど真ん中で女がレザルド軍の兵士共に犯されていたりと酷い有様でな、奴らは近江から駆除することにした」
俺の話を聞き、伊賀の二人が目を細め、お嬢は大きく目を開いた。
「そうか、アレを見たのか」
「悪行の一部分でござるな。奴らはそれ以上の非道を平然と行ってるでござるよ」
「そんな酷い国でしたの!?」
「ただミスフィート軍とレザルド軍の戦争にするつもりは無い。内側から喰い破り、仲間の一人が近江大名として国を統治する予定だ」
「ほう?興味深い話だ。しかしその様な事が可能なのか?」
「できる。近江で動いているのは10人程度だが、すでに1500の兵士を撃破した」
「10人で!?凄いでござるな!!」
「しかしまだ始まったばかりだ。仲間を集めて挙兵するにはまだ幾日も掛かるだろう。・・・さて、それを聞いて伊賀はどう動く?」
作務衣の男が眉を吊り上げて考えている。
ニンニンは何を考えているのかさっぱり分からん。
「いいのか?その様な貴重な情報を、未だハッキリと素性も明かしてない我等の様な者に教えてしまっても」
「ニンニン」
「近江と敵対してるんだろ?この情報をレザルド軍に流して媚びるほど追い詰められているのか?」
キレるかな?と思ってジッと窺っていたのだが、流石は忍者とでもいうか、感情は一切表に出さず、此方と同じ様に俺を窺っていた。
「敵方に知られたとしても問題無い程の精鋭部隊というわけか」
「逃げればよいだけと考えているのかもしれぬでござる」
「ごっこ遊びでは頼りにならぬではないか!」
「それはピカピカに直接聞くでござる」
なるほど!俺らが近江で遊んでるだけだったら、伊賀だけが動いて『じゃあ後はよろしく』とかやられる可能性があるもんな。
「赤い流星殿、どこまで本気なんだ?」
「ん~、そうだな。急いで近江を獲る程意気込んではいないが、出会ったレザルド軍を皆殺しにしながら次の街目指して琵琶湖の周りを遠足している一行だ。両親をレザルド軍に殺された仲間が一人いるんで、近江は必ず獲るだろう」
「やる気があるのか無いのかよく分からぬでござるな!」
「急いではいないが、やる気はあるといった所か・・・」
話を進める為に、近江一行と会わせた方がいいかな?
変装させて明後日の遠足に同行させるか。
「じゃあ近江にいる仲間達に会わせてやるよ。俺達と一緒に遠足したらどんな集団か分かるだろ?」
「会わせてくれるのか!しかし近江か・・・遠いな」
「遠足は明後日だぞ」
「そんなの無理でござる!」
「ところが無理じゃないんだよな~。俺がピカピカ輝いているだけの男だと思ったら大間違いだ。今からそれを証明しよう」
「また変なこと言ってますわ、この人!」
「じゃあ俺と手を繋いでくれ。もちろんお嬢も」
「手を繋ぐ??」
「本当に意味が分からないでござる!」
髭の男、ニンニン、俺、お嬢って感じで手を繋ぎ、お嬢の居城の前に転移した。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
伊賀忍コンビが城を見上げて呆然としている。
「城だ・・・」
「城が出現したでござる」
「違う。俺の魔法で大和の城の前に瞬間移動したんだ」
「「瞬間移動!?」」
「これで分かったかしら?ピカピカと一緒なら一瞬で近江に行けますの」
「信じられん・・・。確かに目の前に城があるが、何なのだこれは!!」
「確かに此処は、大和に建てられた新しい城の前でござるな」
ニンニンの方が現実を受け入れるスピードが速いな。
「じゃあ俺らは城に帰るんで、明後日ここで待ち合わせな!」
「それではごきげんよう」
「待てーーーーーい!近江に行くにしても、仲間に一言伝えなければ心配されるだろうが!」
「え?仲間とかいたんかい!」
「二人だけで修行してるのかと思っていましたわ」
「とにかく元の場所に戻してくれ!」
「しゃーねえな」
切り株いっぱいの場所に戻って来た。
「じゃあ明後日の朝、ここで待ち合わせってことでいいか?」
「それで頼む」
「あ、二人とも変装する服はあるのか?忍装束はダメだぞ?」
「服か・・・」
「拙者は普通の服に着替えれば看破不能でござる」
「儂の場合、着替えたとしても顔が知れ渡っているのがな・・・」
「髭剃ればバレないんじゃね?」
「髭を剃るくらいなら布で隠す!」
「大事な髭だったか。あ、いいモノ貸してやるよ」
髭忍者の顔にサングラスを装着してやった。
「暗いぞ!」
「変な顔になったでござるな!それなら絶対分からないでござる」
「本当に変な顔で笑えますわ!」
「余計に目立つではないか!」
「ああ、目立つことはまったく気にする必要無いぞ?同行者全員アホみたいに目立ってるから。俺の姿見ろや」
忍者コンビが俺を見て、『これはひどい・・・』って顔をした。
「まあ変装の方は大丈夫そうだな。しかし明後日か・・・。急だな」
「楽しみでござる!」
「ところで、二人に関して気になったことが一つある」
ビシッとお嬢を指差した。
「目の前に腕や太ももが丸出しの女の子がいるのに、なぜ無反応なんだ?普通ガン見するだろ!」
俺の言葉でようやく忍者コンビがお嬢を見た。
「見慣れておるからな」
「くノ一の方がもっとエロエロでござる」
「「な、なんだってーーーーーーーーーーーーーーー!?」」
そうだよ!なぜ俺は『くノ一』の存在を忘れていたんだ!?
もしかしているんじゃないのか?大和にくノ一が!!
決めたぞ!俺はくノ一に会いに行く!これを見ずに帰ることなどできん!




