844 唐揚げ泥棒
さっき発見した人食い鬼と男と男の話し合いをしなければならないので、彼の進路方向で待伏せしようと、少し開けた場所に着陸した。
フィーーン フィーーン フィーーン
「空飛ぶバイクから変な音が出ていますから、きっとこっちに向かって来ますわ」
「他の魔物も寄って来ると面倒だな。男と男の大事な話し合いなのに」
「女かもしれませんわよ?」
「あ、そっか!直接本人に聞いてみるよ」
どうせ戦闘だろうし、シャアリバーンに変身しとくか。
「赤者!」
ブンッ! ブンッ! ブオンッ!
お嬢に迷惑がかかるので、ムービーはキャンセルした。
「小烏丸がピカピカになりましたわ!」
「赤い流星だと気付かれたら警戒されてしまうかもしれないからな」
「ピカピカの方が警戒されるに決まってますわ!」
ちゃんとツッコんでくれるお嬢が良い子すぎる。
ガサガサッ
正面の森から人食い鬼が出現した。
「やっぱ男じゃないか!下は隠してるのに乳ボローンと出してるもん。さすがに女だったら乳くらい隠すだろ!」
「ん~、確かに男っぽいですわね~。それより話し合いするのではなくって?」
そうだった!しかしメッチャ怖い顔してんな。こん棒みたいの持ってるし。あの大和の住民のおじいちゃん、山の中でこれと出会ったのか。絶対漏らしたろ。
「そこの青い人。君に人食い鬼疑惑が浮上している。でも人違いの可能性もあるから、違うと言うのなら武器を捨てなさい!ところで男だよな?」
『グオオオオオオオオオオオオ!!』
ドスドスドスドス
「怒って向かって来ましたわよ!」
「まさか女なのか!?女なら乳くらい隠しなさいよ!」
ビュン ガシッ!
振り下ろされたこん棒を左手で受け止めた。
「鑑定したらサイクロプスって書いてあるから、普通に魔物ですわね~」
そういや鑑定とかスッカリ忘れてた!
名前:サイクロプス
鑑定したらやっぱりサイクロプスだった。
ブルーサイクロプスとかになってないから、やっぱ青がデフォルト色だな。
「魔物じゃないか!俺を騙したな?許さんぞおおおおお!」
「アホなこと言ってないで、早く倒しなさいな」
ズドン!
ボゴッ バキッ ドガン!
ズズーーーン
青い人食い鬼を撃破した。
「ふむ。やっぱりそんなに強くなかった。俺の拳も日々成長してるしな!」
「お見事ですわ!」
「次の人食い鬼はお嬢に譲るよ」
「それなら、二つ目の人食い鬼がいいですわ!」
「じゃあ二つ目を探すか」
力尽きたサイクロプスをアイテムボックスに回収した。
「持って帰りますの?」
「人食い鬼の情報をくれた民衆達に見せてやろうと思ってな」
「あまり住民達を怖がらせないでほしいんですけど?」
「でも山の奥にはこんなのが住んでるって教えてやった方が、山菜採りなんかで命を落とすよりいいと思うぞ?」
「それもそうですわね~」
「結構深くまで来たから、街から見える範囲なら大丈夫だとは思うけどね」
そんな会話をしながら試作2号機に乗って空へ舞い上がった。
「普通にゆっくり発進できるじゃありませんの!」
「ギャラリーがいる時は全開で発進すると決めているのだ。颯爽と姿を消した方が格好良いからな!」
「前から思っていたのですが、小烏丸って変なとこで見栄っ張りですわよね~」
「お嬢だって寝ぐせつけたまま場内を歩かないだろうし、部下の前で弱気発言なんかしないだろ?それと一緒だ。有名になると一瞬も気を抜けないのだ」
「まあ、それは分かりますけど・・・」
名を馳せた武将って、ある意味アイドルみたいなもんだからな。
部下だけじゃなく民衆の憧れでいたいのですよ。
「いた!二つ目の人食い鬼だ!」
「緑色ですわね」
「俺が知ってるヤツよか怖い顔してるけど、たぶんオーガだな」
「まずは女と女の話し合いをしてみますわ!」
「いや、アレも乳ボローンと出してるだろ。俺は男に賭けるね!」
「男でも女でも、もうどっちでもいいですわ!」
オーガの進行先に着陸した。
お嬢が試作2号機から降りたが、腰の鞘から刀を抜かずに待ち構える。
理由はもちろん、女と女の話し合いに抜刀など無粋だからだ。
「返り血を浴びないように気を付けろよ~」
「分かってますわ!」
ガサガサッ
正面の森から人食い鬼が出現した。
名前:オーガ
やっぱりオーガで正解か。アリアダンジョンのデスオーガよりも怖い顔してる。
猫ちゃん、随分と気合入れてデザインしたんだな~。
「そこのあなた!女性ならもっと慎みを持ちなさいな。それに人食い鬼と噂されてますわよ?違うというのなら、その斧を地面に捨てなさい!」
『ゴアアアアアアアアアッッッッッ!!』
ドスドスドスドス
「怒ってこっちに走って来たぞ!」
「しまった!男性の方だったみたいですわ!」
俺と同じ返し方をしたので、ちょっと笑いそうになった。
何だかんだで、お嬢も冗談言ってる余裕があるんだよね。
オーガくんメッチャ怖い顔してるのに、ウチの女の子達はこういうのじゃビビらないのだ。
ドガッッ!
ザクッ
振り下ろされた斧を華麗に躱しながら刀を抜き、オーガの心臓を一突きした。
そして返り血を浴びないように、サッと後ろへ下がった。
ズズーーーーーン
二つ目の人食い鬼が一瞬で退治された。
「もう終わってしまいましたわ!」
「鮮やかな瞬殺だったな。お見事!」
「これも持ち帰るのですわよね?」
「うむ。首を落とさないでくれてサンキューな。これならそんなにグロくない」
アイテムボックスにオーガを回収した。
「人食い鬼退治はこんなもんでいいか~」
「こんな山奥の魔物をいっぱい倒したところで、ほとんど無意味ですわ」
「別に街を攻められたとかじゃないしな。しかし他にも面白い魔物がいるかもしれんから、もう少し奥まで探索を続けるぞ」
「ドラゴンとか出ないかしら?」
「山のボスとして君臨してる可能性はあるな。でも地上だと空を飛ぶぞ?」
「飛んでる魔物は無理ですわ!小烏丸に任せますわ」
「アリアダンジョンのおかげで、ドラゴンの肉も足りてるんだけどな」
そんな会話をしながら、再び空へ舞い上がった。
方位磁石で進む方角を確認し、南へ向かって進んでいく。
人食い鬼以外にもウェアウルフやガーストなんかも発見したが、わざわざ降りて倒すまでもないのでスルーした。
山の中だからか面白い魔物がウヨウヨしているので、お嬢と二人ではしゃぎながらどんどん南下していく。
「あっちに綺麗な鳥が飛んでますわよ!」
「綺麗な鳥だって!?」
お嬢が指差す方向にいたのはグリフォンだった。
「うおおおお!唐揚げだーーーーーーーーーー!ガチョピンファンネルー!」
ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン
ビュオン! ビュオン! ビュオン!
『ビイイィィィィィ』
ファイヤーランスがグリフォンを貫き、地面に落下していった。
「エエエエエーーーーー!?鳥には優しいんじゃなかったですの?」
「グリフォンの肉はコカトリスの肉よりも美味いんだぞ!」
「不味い鳥にだけ優しいとか意味不明ですわ!」
唐揚げを回収するため、試作2号機を降下させる。
「なんだ!?空からデカい鳥が降って来たぞ!」
「鳥肉!!今日はご馳走でござるな!」
はあ!?なぜこんな山の中に人間がいるんだ!?
しかも俺の唐揚げを狙ってやがる!
「こらー!それは俺のだぞ!唐揚げドロボーーーーーーーーーー!」
急いでグリフォンの側に着陸すると、下にいた二人が驚いた顔でこっちを見た。
「うお!今度は人が降って来たぞ!しかし儂らのいる所に鳥が落ちて来ただけだというのに、泥棒扱いは酷くないか?」
「ニンニン」
後ろのまん丸い目をしたヤツ!今、ニンニンって言った!!