837 ハチベエ、城に連れていかれる
途中で線路を敷いているドワーフ達を発見し、水と食料、そして聖水の差し入れをしたら大変喜ばれたぞ!
労いの言葉をかけ、俺とシャイナはそのままレイニーパイに向かったわけだが、線路は作りかけだったけど道路はしっかり完成しており、最初に美しい道路を完成させたチェリンとカトレアの先見の明に感心した。
物資さえ調達できれば、丹波の国が加速度的に成長すると読み切っているのだ。
何も無い土地にいきなり城を建てて、そこに新しい街を作って育てる方が気持ちいいんだけど、カーラやリタ&リナと違って、チェリンとカトレアは既存の大きな街を活用する事にしたらしい。
これは地形や人口密度の問題もあるので、どっちが正解とも言えない。
空の上から見た感じだと丹波ってやたらと広いんだけど、山・盆地・山・盆地・山って地形なので、確かに開拓するにはしっくりこない感じなのだ。おそらくこの作戦で正解だと思う。
そのくせ隣接国が多すぎるという、かなり厄介な国なんだよな~。
なので丹波には兵士も軍資金も多く回し、急ピッチで国境の壁なんかも強化しているところだ。ケンちゃんとセイヤが近江と越前を獲ってくれれば、少しは安心できるんだが・・・。ついでに若狭の国も獲ってくれねえかな?
「大きい街発見!」
「ああ、おそらくこの街がレイニーパイだ」
街の上空を飛んでいると、幼い兄弟が目を大きくしてこっちを指差しているのが見えたが、それ以外の人々は気付きもしていない感じだった。
「あはは!子供がこっち見てる♪」
「雲でも見ていて気が付いたのかもな!よし、もう到着だ」
新しい城の上空まで来た所で高度を下げ、城門前に着陸した。
「ぶッ!小烏丸様が空から降って来たぞ!」
「また変な乗り物に乗ってるし!」
タタタタッ
「最近ちょっと空を飛べるようになってな」
そう言いながら試作2号機をアイテムボックスに収納した。
「あ~、ちょっと人を迎えに行ってくるんで、お前達は元の位置に戻っていてくれ。次はおっさんと馬と一緒に出現する予定だ」
「あ、はい!」
「おっさんと馬ですか?」
ちゃんと言われた場所にいるといいんだが。
「シャイナ、お手!」
「こら!犬じゃなくて嫁だから!」
シャイナと手を繋ぎ、野盗をぶちのめした場所まで転移した。
「お、ちゃんと馬車があった」
「エライエライ!」
馬車に近寄っていくが、ハチベエの姿が見えんな。
「ハチベエはどこだ?」
「馬車の中?」
ガサガサッ
「ああっ!本当に来てくれたのですね!」
「「・・・ん?」」
ハチベエは木の上にいた。
あ、野盗が怖くて避難してたのか。少し悪いことしたな。
ストン
ハチベエが木から降りてきた。
「悪い。もう少し道から離れた場所にすりゃよかった」
「あ、いえいえ!軍師様を信じていましたので」
「よし、馬を馬車から外すぞ。疑問は多いだろうが時間の無駄になってしまうので、俺の言う通りにしてくれ」
「は、はあ・・・」
ここからレイニーパイまでかなりの距離があるし、京の都でかなり商品を仕入れてきたようで、馬一頭じゃ不安なのだろう。二頭立ての馬車だ。
「外しました」
「んじゃ馬車は俺が預かる。一旦目の前から消えるがすぐ返すんで、意味不明な現象が起きても騒がないでくれ。馬が驚いてしまうからな」
「き、消える??えーと、はい」
本当に意味不明なことばかり言っているのに、素直に従ってくれるな。
ごちゃごちゃ言わないから本当に好感が持てる。評価一段階アップだ。
商品が満載の馬車をアイテムボックスに収納した。
「本当に消えた!あ、あの!商品は大丈夫なのですよね!?」
「大丈夫だから落ち着け。じゃあ次だ。俺と左手を繋ぎ、右手で馬に触れるんだ。シャイナは俺と右手を繋ぎ、左手で馬に触れてくれ」
「軍師様と手を繋ぐのですか!?恐れ多いのですが・・・」
面倒なので、俺の方からハチベエの左手を握った。
すぐとハチベエが、もう片方の手で馬に触れた。
シャイナの方もバッチリだな。
「いいだろう。転移!」
次の瞬間、チェリンとカトレアの城の城門前に景色が変わる。
馬も来てるか確認したが、両方ともちゃんといた。
「よし、驚いても手綱を離すなよ?」
ん?って顔をした後、ハチベエが周囲を見回し、目の前に城があることに気付いて目が大きくなった。
「し、城が目の前に!!」
「城の名前を知らないのでちゃんとした紹介ができないが、レイニーパイにある丹波守護の居城だ」
「レイニーパイですと!?今の一瞬で??」
「俺の魔法だ。あまり深く考えるな」
突然のワープで馬が驚くかと思ったけど、意外と普通だった。
「小烏丸様の言った通りでした!おっさんと馬が!」
「城内に連れていかれるので?馬を入れるのはさすがに無理ですが」
「そう長居するつもりも無いから、馬はその辺に繋いでおこう」
「それなら我らにお任せを!」
「わかった。任せよう。じゃあ俺達はチェリン達と会ってくる。いるよな?」
「今日はチェリン様もカトレア様も城から出ておりません」
「よかった。んじゃ城に入るぞ!ハチベエ、馬車は帰りに渡すから安心して俺達について来い」
「私ごときが城の中にですか!?安心も何も、緊張で心臓がバクバク鳴っているのですが!」
ハチベエの緊張など知ったこっちゃないので、門が開いた瞬間ずんずん歩いていくと、アワアワしながらついて来た。
「ひえ~~~~~、なんと荘厳な・・・」
「この城は新品だから美しくて当然なんだが、ミスフィート軍の城は大体全部こんな感じだぞ」
「越後や信濃のお城と全然違うよね~」
「窓ガラスの有無の差が大きいな。普通の窓では雨の日は開けられないし、どうしても城内が薄暗くなってしまうのだ」
「そう、窓ガラス!私も京の都で購入したのですよ!」
「おお!よく買えたな~」
「友人が京の都で店をやっていまして、譲ってもらいました!」
「持つべきものは友達だよね~♪」
窓ガラスという共通の話題が見つかったおかげでハチベエの緊張も解け、ワイワイ騒ぎながら玉座の間に到着した。
「お?まさか二人ともここにいるとは思わなかった。チェリン、カトレア、久しぶりだな!遥々、丹波の国までやって来たぜ!」
俺の声を聞いた二人がパッと振り向いた。
「「小烏丸!!」」
タタタタタタッ
むぎゅ むぎゅ
嫁さん二人に抱きしめられた。
「そして俺が来たということは、いつでも京の都と行き来できるようになったってことでもある」
「やったーーーーーーーーーー!」
「それはとても助かります!まだ線路が繋がっていませんから、もう少し耐えなければと思っていたので」
「ねえねえ小烏丸、海鮮丼が食べたいの!」
「おおう、チェリンも魚に飢えてたのか。またルーサイア港にお邪魔せんとな」
「ところで、其方の男性は?」
チェリンとカトレアがハチベエに注目した。
「ああ、紹介しよう。レイニーパイの商人、ハチベエだ」
「ハチベエと申します。祖父の代からこの街で商売を営んでおります」
「ほうほうほう、祖父の代からの商人とは、聖帝の支配下でとても大変な思いをしたでしょ?よく店を潰さずに耐えたわね!」
「なるほど。それは分かりましたが、どうして玉座の間に連れて来たのですか?」
「実はさっき、野盗を25人ほど斬ってきたんだ」
チェリンとカトレアがプハッと噴き出した。
「「それなのに、どうしていつもと変わらないのよ!!」」
・・・坊やだからさ。




