836 軍師一人で大暴れ
盗賊の集団が道を遮ったことで、美しい道路を悠々と走っていた馬車が停止した。
「かはーっ!こりゃダメだ。敵が多すぎる」
「大人しく全ての荷物を渡すしかなさそうだな」
「そ、そんな・・・、何とかなりませんか!?」
「いくら俺達でも20人もの野盗は無理ってもんだ。悪いが諦めてくれ」
「ハチベエさん、商売も大事だが命あっての物種だろ?しょうがねえって」
「抵抗しなけりゃ命までは取られないさ。どれ、俺が話をつけてやる」
スタッ
馬車から飛び降りた男が両手を上げて野盗の側まで近寄っていく。
「抵抗はしない!積み荷は渡すから命までは取らないでくれ」
「ほう?物分かりのいい奴らだ」
「信用できんな!武器を渡して馬車から離れろ!」
「分かってる!」
交渉していた男が馬車の方まで戻っていった。
ヒュン スチャッ!
「・・・あ?」
「何だお前は?どこから現れやがった!!」
「上から降って来なかったか!?」
「はあ??」
野盗どもが空を見上げたので、俺もつられて見上げてしまった。
「おい!なんか浮いてるぞ!」
「何だありゃ?」
「それよりコイツは何者だ!?」
20人ピッタリいるな。
会話を聞いた感じだと、後ろの5人は商人の護衛か。
「はい解散!馬車を見逃して大人しくお家に帰ったら見逃してやる」
「ああ!?」
「だから何なんだお前は!!」
まあ20人いるし、大人しく解散するとは思ってないが。
「ミスフィート軍軍師、赤い流星。空のお散歩中にお前らの姿が見えたんでな、立場上見過ごすことは出来んので舞い降りたってわけだ」
ざわっ
ミスフィート軍と聞いて、野盗共の顔色が変わった。
「ミ、ミスフィート軍の軍師だと!?」
「確かに凄い恰好してるが・・・」
「でもたった一人じゃねえか!お前ら、ビビるこたぁねえぞ!」
「言っておくが、戦闘になったら容赦なく全員叩き斬るぞ?優しく言ってるうちにとっとと消えろ。斬り合いが始まったら一人も逃がすつもりはない」
たった一人のくせして高圧的な口調のミスフィート軍軍師を名乗る男に、野盗共も緊張感が高まり動かなくなった。
怖いならフリーズしてないで、とっとと逃げろと言っておるのに。
バカが剣を抜いたらお前ら終わりだぞ?
「おいテメー!俺が野盗と話をつけてるのに勝手なことすんじゃねえ!」
・・・あ?
コイツって商人の護衛だったよな?しかしどうも胡散臭い奴らだな。
殺気がだだ洩れしてんぞ?
「口の利き方に気を付けろ。ミスフィート軍の者だと聞こえなかったのか?」
「だから何だってんだ!この人数相手に一人でやれるとでも思ってんのか!」
タタタタッ
ふーん?
そういうわけね。
護衛のふりして商人を罠に嵌めた、盗賊のお仲間ってわけだ。
あの商人以外皆殺しで決定だな。
シュバッ
後ろから俺の肩を掴もうとしていた護衛の男を刀でぶった斬った。
「ガハッ!な、なぜ・・・」
「野盗は叩き斬るって言っただろ」
「くそッ!」
「そ、そいつは商人の護衛だろが!」
チャキン
「商人の護衛を殺しただけなのに、なぜお前らは剣を抜いた?」
「ダメだ!この男気付いてやがる!殺せえええええーーーーー!」
「うおおおおおおおおおッッッ!」
キン シュバッ
向かって来た二人の盗賊をぶった斬った。
「いけ!ファンネルー」
ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン
「「なんだこれは!?」」
ビュオン ビュオン ビュオン ビュオン
「魔法だ!」
「ぐああああああアァァァァーーーーーッ!」
タタタタタッ
ザシュッ!
「ぎャアアアアアアアッッ!!」
案の定、馬車の護衛のハズの男達も剣を抜いて斬りかかって来たので、1対25の戦闘となったが、近江の遠足で真の化け物達とバトルロイヤルをした俺の敵ではなく、ガチョピンファンネルーを8体投入した事により、ものの数分で全滅させた。
・・・・・
「小烏丸メチャメチャ強くなってるーーーーー!」
はむっ はむっ はむっ
時空魔法を駆使して地面に穴を掘って死体を処理してから、空に転移して試作2号機に乗ったままだったシャイナを地上に降ろしたのだが、戦闘に大興奮した彼女に抱きつかれてメッチャ甘噛みされてます。
「あ、ありがとうございました!まさかミスフィート軍の軍師様が助けに来てくださるとは・・・。しかしお強い!戦闘を見ていた私も興奮してしまいました!」
「確かハチベエといったか?雇った護衛5人が野盗だったとは運が無かったな」
「コロモスの街で雇った護衛なのですが、まさか最初からウチの商品狙いだとは思いませんでした」
「コロモスの街?京の都に近いあの大きな街のことか?」
「はい、その街で御座います。丹波の事はあまりご存じないのですね」
「初めて丹波に来たばかりでな。丹波守護の居城に向かっている途中だった」
「ということは、レイニーパイに向かっているのですな?実は私の店もレイニーパイにあるのですよ!」
「ん?チェリンとカトレアの城って、そのレイニーパイって街にあるのか。悪いが街の名前も何も知らんのだ」
「そうだったのですね。街の外れで築城を始めたと思ったら、瞬く間に完成して度肝を抜かれたのですが・・・。おそらくレイニーパイで間違い無いかと」
このハチベエという男、運は悪いが誠実そうで見所のある商人じゃないか。
いや、俺と出会ったってことは逆に運が良いとも言える。
気に入ったぞ。
チェリンに推薦して丹波の御用商人にしてやろう。
「このまま真っ直ぐレイニーパイに向かう予定だったのか?」
「村に寄って宿泊を繰り返しながらですが、目的地はレイニーパイです。あっ!目的地が一緒なら私の馬車に乗っていきませんか?というか、護衛をお願いしたいという下心もあるのですが。すみません!」
「ハハッ、正直だな。だが馬車に乗っての移動だと何日も掛かるんだろ?俺は今日中にレイニーパイに到着したいのだ」
「えーと、どれだけ急いでもそれは無理かと・・・」
「ところが俺は本気なんだよ。そして本当にそうするつもりだ」
「はい!?い、いや、それはさすがに・・・」
ミスフィート軍なめんなよ?
「ハチベエ、お前は運が良い」
「運が良い?・・・いや、護衛に裏切られたばかりなのですが!」
「そんなもの、俺と出会えたことに比べたら些細な不運だ。完全に幸運に塗りつぶされたぜ?」
「は、はあ」
「そっちの木陰に馬車を止めて数時間程休んでいるといい。後で迎えに来てやる。そうすりゃ一瞬でレイニーパイに到着だ」
「いや、全然意味が分かりません!」
「お前は黙って言うことを聞いてりゃいい。ここから動いたら盗賊が出るぞ?」
「ヒイイイィィィ!」
とりあえずハチベエは放置して、シャイナと二人で試作2号機に跨った。
「じゃあまた後でな!勝手に移動して俺を失望させんじゃねえぞ?」
ドシューーーーーーーーーー!
というわけで、チェリンとカトレアのいる城に到着したら、ここに戻って来てハチベエを回収せんとだ。
ただ今にして思えば、死体がいっぱい埋まってる側で休んでろって言ったのはちょっと酷だったような気がする・・・。
まあいいか!




