827 レナが暴走した理由
初陣で2人の敵兵を鮮やかに倒してみせたレナだったが、称えてくれたレミィとパトランに手を振って応えるでもなく、次の敵を求めて駆け出した。
「ちょ、レナ!」
「追うよ!」
ゼーレネイマスの絶対的強者のオーラに冷や汗を垂らしていた山賊のような男に切り掛かり、二太刀でこれを仕留める。
続けてヒョロっとした槍使いに突っ込んでいき、さすがにそいつには気付かれて正面からの戦いになったが、槍の一突きを躱して懐に潜り込み刀を一閃。
「カハッ」
ドサ
ガチョピンファンネルーでサポートするまでもなく、4人目の敵を葬った。
「ほう」
獲物を奪われた形となったゼーレネイマスだったが、その顔は笑っていて、むしろレナの成長に感心しているようだ。
しかしレナの暴走は止まらない。
一方的な殺戮に恐れをなし、船の方へ逃げていくスキンヘッドの男を追いかけ、後ろから叩き斬って、まさかの5人抜きを達成した。
「わお!やるねえ!」
「鮮やかだね~。でもちょっと危ういかな?」
俺もレミィと同じことを考えていた。
レナが強かったのは間違いないのだが、どうも鬼気迫る表情をしているのだ。
「よし!これで全員倒したな!」
「逃げた敵とかはいねえか?」
「大丈夫だ。まったく何もしていない俺が見ていた。ただ船の中に残ってるレザルド兵がいるかもしれんからちょっと見てくる。皆は休んでていいぞ!」
「吾輩も行こう」
「じゃあお願いします!」
というわけで、レザルド軍が乗っていた船の所まで移動し、ゼーレネイマスと二人で船に飛び乗り、船内まで隈なく調べた。
「一人残らず美女を追いかけて行くとは、やっぱアイツらアホだな」
「少々傷んではおるが、普通に使えそうだ」
「なるほど、この船が使えるか見に来たのか」
「実際に使うかどうかは分からぬが、沈める必要もあるまい」
「そうだな。でも置いといたら盗まれるかもしれんし俺が持っとくか?ってか元々アイツらの船だけど」
「容量に余裕があるのなら頼む」
「ん?ああ、俺は時空魔法が使えるから、持てる容量は無限なんだ」
「無限だと!?」
「あ、無限ではないか。どれだけ入るか試したこと無いんで限界は分からんけど、無限ってくらい容量がデカいって感じだな」
そんな会話をしながら船から降り、アイテムボックスに船を収納した。
琵琶湖ロードに戻り、レミィ達と合流。
「レザルド軍のヤツらがお父さんとお母さんを殺したんだ!私はこの手で二人の仇を討たなきゃならないの!」
どうやらレナが暴走した理由を聞いていたようだ。
彼女の心からの叫びを聞き、そういうことかと、レミィが納得して頷いた。
そうか・・・、あの凄惨な光景は今でも鮮明に覚えている。
武力を手に入れたレナがこうなるのも無理はない。
亡き両親への想いの強さがあったからこそ、レナはここまで成長出来たんだ。
そしてレザルド軍を滅ぼすまで、彼女の戦いは終わらないだろう。
「俺は復讐心を悪い事だとは思わない。思う存分やるといいさ。ただ一つだけ忠告しておこう」
レナが俺を見た。
「一人でやろうとするな。お前が死ねば復讐はそこで終わりだぞ?もっと仲間を信じて上手く使え。此処に集まっている人達は同じ志を持った仲間だ。あの凄惨な光景を見て、心の底から奴らを許せないと思っている。気持ちが一つなんだから、誰が倒そうが両親の仇を討ったことになるんだよ」
それを聞き、レナがハッとした顔になった。
「レナ!お前の敵は俺の敵だ!俺がお前の剣となってアイツらを全員ぶちのめしてやる!一人で抱え込むな。もっと俺達を頼ってくれ!」
「ケン・・・」
ケンちゃんがレナをそっと抱きしめると、レナの目から涙が零れ落ちた。
・・・うん。ケンちゃんに美味しいとこ全部持っていかれたし!!
『ケンだけに』ってツッコミそうになったけど、無粋だからやめといた。
パトランなんかもツッコミたそうな顔をしてたけど、今はダメだと我慢した。
アツアツカップルは放っておいて、大魔王とセイヤと一緒にレザルド軍の死体から装備品を回収する。革の鎧なんかは斬り裂いてしまったが、修理すれば十分使い物になるらしい。
そして地面に穴を掘り、死体は全部燃やしてから埋めた。
毎日のお人形遊びでセイヤの土魔法が成長していて感心したぞ。
今夜のセイヤハウスは崩れないかもな!
「いや~、流石っスね」
「何がだ?」
セイヤが、俺がやった何かに感心している。
「レナを戒めた一言っスよ!彼女明らかに暴走してたから、俺も危ういなって思ってたんだ。でも声を掛けようにも、あんな核心を突いた言葉なんか出ないっスもん」
「あ~、こう見えて軍師やってるんでな。一見華やかだがアレが意外とキツい仕事でさ、仲間を生かすも殺すも、俺が考えた作戦に全て委ねられるんだよ。そしてそういう身分だからこそ、部下達の悩みも的確な助言で解決してやらなきゃならん。すなわち、こういう事に慣れてんだよ」
戦で病んだルシオの心のケアも大変だったな~。
「うへ、責任が重すぎて俺には無理だ!」
「何言ってやがる。お前、大名になるつもりなんだろ?部下の悩みを聞くのが俺の仕事だと言ったが、俺の悩みを聞くのは大名の仕事なんだ。いや、俺だけじゃなく、全ての兵士の不安を取り除かねばならん。名君と呼ばれたいなら部下の心を掴め。それを怠れば近江のような国になるだろう」
「近江みたいになっちゃったら意味無いし最悪じゃないっスか!なるほど、部下の悩みを解決しまくればいいのか・・・」
近江を反面教師にすると、それだけで絶大な説得力があるのだ。
「でも軍師なんか出来るような頭の良い人なんて、どこにいるんスか?」
「頭が良いヤツなら結構いるもんだぞ?でも学が無いから、部下が育つのを待つしかないだろうなあ」
「それじゃあ困るんスけど!!」
「どっちにしろまだ先の話だ。色々考えるのは軍が出来てからでいいだろう」
「それもそうっスね~」
なぜか最後はセイヤのお悩み相談室になってしまったな。
レナの方はもう放っておいても大丈夫だろう。
しかし軍師な~。
近々京の都に誕生する学校の卒業生でも紹介してやるか~。
育つまで何年もかかるし子供だけどな!




