809 先輩との勝負で時空魔法が進化していく
よちよち歩きのガチョピンがレミィに捕らえられた。
「バッチリだね!」
「ようやく成功だ!遠隔操作がこんなに難しいとはな・・・」
「コテ、じゃなくて、サイダーもすごく苦労してたみたいだよ」
「やっぱそうだよな~。人形を作るのとは正直難易度が違い過ぎる」
ゴーレム作りでも重要なポイントなのだが、関節をしっかり作ってあげないと歩けないのだ。
しかも人間じゃなくガチョピンの関節なんだよ!虎徹さんもゴン太郎くんの関節を作ったわけだから、泣きごとなんか言ってられんけどな。
まあとにかく、これで時空先輩に追いつくことはできた。
次は発表会に向けての工作の時間だ。
しかしガチョピンをぬるぬる動かせるようになったところで時空先輩を驚愕させることはできないだろう。ガチョピン人形はもう進化させなくていい。
・・・さてどうすっか。
時空魔法の可能性は無限大。
重要なのは閃きだ。
そういや、遠隔操作ってどこまで可能なんだろう?
人形を歩かせる以外のことだって出来るハズだよな。
そうか!わざわざ人間の真似をして地面を歩かせなくたっていいんだ!
ガチョピンが空を飛んだっていいじゃないか!
よし、目標はこれだ!
いや待て。本番はガチョピンでいきたいが、何もガチョピンに拘る必要はない。
作るのが簡単な野球ボールを飛ばす練習をしよう。
時空先輩待ってろよ!何度だって驚愕させてやるぜ!
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結局、近江の遠足は何もイベントが起きなくて、普通に次の日になった。
ただセイヤも土魔法の修行をしていたおかげで、いつもよりマシなセイヤハウスが建っていた。まあそれはいい。問題はあの男との勝負の方だ!
両腕を組んだサイダーと向かい合う。
「先に聞いておこう。まさか先輩に追いついただけで満足なんかしてねえよな?」
ナメられたもんだな。
「笑止千万。この闘いに引き分けなど無いですよ?追いつくのは当たり前。相手を上回れなかった時点で負けです」
サイダーがニヤリと笑った。
いや、メタルヒーローは基本的に無表情なんだけど、雰囲気で大体わかるのだ!
・・・さて、始めるか。
その場でしゃがんで、ガチョピン人形を地面に立たせた。
「ム!?緑の人形だと?」
「そいつはガチョピンか!」
まるで昨日のゴン太郎くんの再現のように、よちよち歩きのガチョピンが二人のいる方へ歩いて行く。
サイダーが拾い上げようと手を伸ばした。
―――――ココだ!
あのメタリックな手に捕まえられる寸前で、ガチョピンが宙に浮いた。
「「な、なんだと!?」」
ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン
ただ浮かせただけじゃなく、二人をあざ笑うかのように、ガチョピンは右へ左へと自由自自に空を飛び回る。
「嘘だろ!?重力の影響を受けていないのか!?」
「地球に住む人達は、魂を重力に引かれて飛ぶことができない」
「すなわちミニゴーレムでは・・・ない?」
「まさか、重さという概念が無い人形なのか?」
「あ、紛らわしいこと言ってスイマセン。重力って単語が出たから名セリフを言ってみたかっただけです!えーとですね、俺も重さなんか必要無いと思って作ってたんですけど、時空魔法じゃ無理でした。操作しやすいように極力軽くはしましたが、無重力なんてのが出来るのは重力魔法の方なんじゃないですかね?」
今のは本当に紛らわしかった。
重力って単語が使われるチャンスってほぼ無いから、見逃せなかったんだ!
「ただの名セリフだったんかい!・・・なるほど。言われてみると、時空魔法があるんだから重力魔法もありそうだよな」
「そんな魔法があったら怖いぞ。戦闘中に身体を重くされて斬られたら一瞬でゲームオーバーじゃねえか」
「使い手と出会わない事を祈るのみですね」
「アニキなんか背後への転移にも対処するし、なんとかなるんでね?」
「知識があればこそだ。初見で対処するなんてまず不可能だ」
とりあえず逃げるしかないだろな~。
ずっと転移で逃げていれば、いつか倒せるような気もしなくはないけど。
「しかしガチョピンが空を飛ぶとはな。やるじゃねえか後輩!」
「金カプセル漢気三本勝負の時もそうだったが、アイツは結構手強いぞ。大丈夫なのか?」
「後輩に負けるわけにはいかねえ!最後に立ってるのはオレだ!」
「これは力勝負じゃなく閃き勝負です。こういうの結構得意なんで、いつまでアイデアを出し続けられるか見物ですな」
「お前こそ呆気なく枯れるんじゃねえぞ?」
「ってことで、俺は休日なんでそろそろ帰ります。ではまた明日!」
「おう。発表会を楽しみにしとけ!」
しかしいつまで続くんだろな~これ。
まあ、遠足の暇潰しにちょうどいいから、やれるとこまでやってやるさ!
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一夜明け、いつものように近江へ転移すると、やっぱり村スタートじゃなく森の中の清光ハウスが見えた。
セイヤハウスと違って皆ぐっすり眠れたようで、レナとパトランがレミィ師匠の前で刀の素振りをしていた。
彼女達は、朝も寝る前も毎日修行してるんで、俺の目から見てもかなりいい感じに育ってるのが分かる。
次の街に着いたらまた大暴れする予定だが、かなりの活躍が期待できそうだ。
「異常なしって感じかな?」
「だな。異常が起きるのはこの後すぐだ!」
「ほう・・・。自信ありそうな雰囲気じゃないですか。見せてもらいましょう」
「ただ今回のは応用編って感じかな?」
「ほうほう」
新技じゃなく、あの人形の使い道を考えてみたってわけか。
それはそれでアリだ。
サイダーがチビ結界を浮かべた。
「まずはこれだ!」
サイダーの周囲にウルタラマン兄弟が出現した。
「ウルタラ兄弟が勢揃いだと!?」
ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン
ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!
バリーーーーーン!
「神風特攻隊かよ!しかも赤いチビ結界を砕きやがった」
なるほど、チビ結界を砕くほどの攻撃力とは凄いな。
しかし人形をいっぱい作って的に当てただけに過ぎん。
こんなすぐ思いつきそうな技じゃ俺は驚かんぞ?
「一応次のが本命だ。驚く程じゃないかもだけどいくぜ!」
サイダーの頭上にウルタラセブンが出現。
次の瞬間、俺に向かってぶっ飛んで来た。
「うおっ!」
慌ててキャッチしようとしたら、すぐ目の前でピタッと停止した。
「ん?」
ポフッ
そして透き通った赤い板に変化した。
「なんじゃこりゃああああああああああ!!」
遠隔操作で形を変えたのか!?
マジか。こんな事まで出来るのかよ!
―――――触れてみると、カチカチでその場から動かせなかった。
「・・・頭が混乱してきた」
「なんかおもしれーだろ?ウルタラバリアだ!」
ウルタラセブンが飛んで来てバリアに?
時空先輩の頭の中って一体どうなってんだよ!
ナナメ上過ぎますぞおおお!!




