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72 獣人

 獣人と聞き、喜び勇んで会いに来たのだが、その姿を見て自分を殴りたくなった。


 たぶん見た感じ犬獣人の親子だろう。

 娘はまだ良かったのだが、父親の状態があまりにも酷すぎる。

 これはすぐにでも何とかしないとマズイぞ。


 マジックバッグから小さな箱を取り出して、そこに聖水を入れる。


「飲めるか?」


 柄杓に聖水を汲み、口元に持っていく。


 左腕は根元からバッサリと無くなっており、全身血まみれで左耳も無く、左目も斬られたのか潰れている。本当に今にも死にそうな状態だ。


 男は少し反応したが、こちらに視線を向けることしか出来ない。


「この聖水を飲めば、あンたの命は助かる。娘を1人きりにしたくなければ気合で飲むんだ!」


 その言葉を聞き、虚ろだった男の目が力を取り戻す。


 ―――今が好機!


 柄杓を傾けて、口の中に聖水を少しずつ垂らしていく。



 よしッ!とりあえず第一関門は突破だ。


 少しずつ聖水を飲ませながら柄杓をもう一つ取り出し、全身に聖水をかけていく。



 数分後、男はなんとか自力で聖水を飲めるようになった。



「よーし、もう大丈夫だ。次は娘さんの番だ」


 娘の方は、見た感じ部分欠損らしい箇所は見当たらないな。

 ただ大怪我をしてるのは父親と一緒で、こっちも放っておいたら死ぬ。


 傷に聖水をかけながら、父親の方と同じ手順で急がずに聖水を飲ませた。



「ありがとう!本当に助かった!」

「間一髪だったな、娘さんの方も大丈夫だ!って娘さんだよな?それとも嫁か?」

「娘のセレンだ。俺はヴォルフ」

「小烏丸だ」


 ヴォルフと右手で握手を交わす。



「うう、お父さん・・・」


 セレンもなんとか聖水を飲んだのだが、安心したのか眠ってしまっていた。


「セレン!」


 ヴォルフが娘を抱き起こす。


「う、あれ?お父さん・・・?」

「そうだぞ、父さんだ!俺達は助かったんだ!」

「はっ!?」


 セレンが父親の姿を確認した後、自分の体も確認する。


「え?なんで!?体が痛くない・・・」

「こがら、す殿のお陰だ!彼が俺達を治療してくれた」

「あれ?お父さん、目が治ってない?」

「は?」


 あーそっか。

 手と耳は完全に失われていたけど、目は斬られて潰れていた状態だったから治ったのかな?聖水すげーなホント。


「本当だ・・・。両目とも見えているぞ!!こがらす殿、かたじけない!」

「目だけでも治って良かったよ。セレンも傷は大丈夫そうだな」

「はいっ!全然どこも痛くないです!」


 いやー、最初見た時は助けるの無理かもって思ったが、なんとかなるもんだな。

 とりあえず腹が減っているだろうから、2人を領主の館に連れて行こう。




 ・・・・・




「何があった?」


 2人が料理を食べ終わったのを見計らって質問した。


「村が襲われたんだ。ジャバルグ軍の兵士にな」


 そうだろうとは思ったが、やっぱそうか。


「他の村人は?」

「ほとんどが殺られたか捕まったかだ。俺も戦ったが途中で無理だと判断し、セレンだけでも逃がそうと三河へ向かった。しかし途中で追いつかれてこのザマだ」

「なるほど。追手はどこまで来た?」

「この街へ逃げ込む前に森で撒いたとは思うが、こっちも深手を負っていたから、殺すまでもなく勝手に死ぬだろうと判断したのかもしれん」

「ふむ。ココに来る可能性も一応あるか。警戒しておいた方がいいな」


 街2つに鉱山を占拠して、いつまでも奴らにバレないワケが無い。

 遠くないうちに戦になるのは確実だ。


「此処のボスはこがらす殿なのか?」

「いや、俺ではない。ミスフィートさんが反乱軍を率いている」

「その人に会わせてもらえないだろうか?私はともかく、セレンだけでも保護して欲しいのだ」

「わかった。居場所を聞いて来るから、ココで待っていてくれ」

「頼む」




 ・・・・・




「そういう経緯で、2人の獣人はなんとか助けることが出来ました。ジャバルグ軍が近くに来ている可能性があるので警戒して下さい」

「わかった。2人は軍で保護しよう。しかしジャバルグはもう絶対に許せん!必ず天誅を下してやる」

「それには全体の練度を上げなければですね。兵の数で劣っている我々は、1人1人の命がとても貴重ですから。次に奴らと戦うまで徹底的に鍛え上げましょう」

「だな!」



 そして定期的に来るジャバルグ兵の巡回を処分しながら、3ヶ月の月日が流れた。






 ************************************************************






「大変です!ジャバルグ軍がパラゾンの街へ接近中!」


 とうとう来たか!


「数は!?」

「約1500。率いるのはジャバルグではなく、部将ザンガル」

「ザンガルか・・・。少々やっかいだな」

「手練れですか?」

「前大名との戦いで武功を上げ、部将まで駆け上がった男だ。ゴンズやピエールなどとは格が違う」


 ようやく強い奴が出て来たか。

 雑魚ばっかとしか戦ってなかったから、正直、身体が(なま)ってそうなんだよな。

 俺も少し気合を入れ直さなきゃ、痛い目に合うかもしれん。


「至急、館の前に全員を集めてくれ!」

「ハッ!」


 欲を言えば、もう少し兵を鍛えておきたかった。

 でもジャバルグの動きが愚鈍だったお陰で、最低限の準備は出来た。

 刀を扱えるようになる時間を我らに与えてしまった代償は高くつくぞ?


 ザンガルとやら、思い知るがいい。俺の刀がお前の息の根を止める!

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