715 金カプセル漢気三本勝負
―――――とうとうこの日が来た。
俺はこの後、地球出身勢の長兄であり、宿命のライバルでもある清光さんと、タイマンを張るのだ!
とは言っても殴り合いとかじゃなく、ガチャで勝負するだけなんだけどね。
この闘いは、突如割って入った宇宙刑事ギャラバーンによって、『金カプセル漢気三本勝負』と命名された。
俺と清光さんの感覚では、宇宙刑事シャアリバーンの衣装を引き当てた方が負けなんだけど、漢気三本勝負にされてしまったので、シャアリバーンの衣装を引き当てた方が勝者となり、全力で喜ばなければならないらしい。
そしてハズした時は、全力で悔しがらなければダメという特別ルールなのだ。
漢気ルールに違反したら罰ゲームがあるらしいので、その内容にもよるけど、やはりちゃんと従わなければならないだろう。
シュッ
険しい顔で勝負のことを考えていると、清光さん、虎徹さん、シルヴァラさん、ニーニャさんの四人が出現した。
「うお!随分と人が多いな」
「虎徹さんの10連勝負の時にいた三人以外は、普通にダンジョンで狩りを楽しみむために集まっただけなんですが、今日の勝負のことを話したら『絶対見る!』と言い出してしまいました」
「赤い流星と三河大名の勝負なんて、絶対見逃せないヤツだし!」
「我らは黙って後ろで見ているだけだから、気にせず心ゆくまで闘ってくれ!」
「勝負の邪魔をしないってんなら、まあいいんじゃね?」
「くッ!こりゃ絶対に負けられねえな・・・」
「清光さん、今日の闘いは漢気三本勝負だってことをお忘れなく!」
「あ、そうだった!」
「ルールを破ったら罰ゲームだから気を付けるようにな」
「罰ゲームはこっちでちゃんと用意してきたから、安心していいぞ!」
「例のアレだな?こいつぁ楽しみだ!」
クソガーーーーー!親父と虎徹さんで何か企んでいやがる!
気を付けないと罰ゲームまでくらっちまうぞ。
「そろそろ行くぞ」
「あいよ!じゃあ全員手を繋いでくれ」
「はーーーい!」
シュッ
景色がアリアダンジョンに変わったので、全員揃ってるか数えた。
・・・よし、全員いるな。
「ちょっと待っていて下さい。勝負の前に聖水で心を清めてきます」
「俺もだ」
女神の泉で、シルバーウルフが清められていた。
「くっ、こいつの事を忘れていた・・・」
「シルバーウルフを浄化してたのか。まあ噴水から直飲みすりゃ問題ねえ」
とりあえずシルバーウルフを全て回収。
今日は敵同士ではあるけど、清光さんと二人並んで女神の泉の水を飲んだり顔を洗ったりしながら精神を研ぎ澄ませる。
「ふぅ・・・、準備オッケーです」
「よーし戦闘開始だ。ガチャ部屋に移動するぞ」
アリアダンジョンに到着した時点で、すでに真剣勝負が始まっているとわかっているのだろう。誰もしゃべらないままガチャ部屋へと移動した。
「じゃあまずは先攻・後攻を決めるぞ」
「何で決めます?」
「当然ガチャだ。ノーマルガチャを回して、カプセルのレア度が高い方が、先攻か後攻か選べることにしよう」
「なるほど。全てをガチャに委ねるってのも面白いですね」
「先に回すか後に回すか、小烏丸が決めてくれ」
俺に選択権を与えるとは余裕ですな。
まあノーマルガチャを先に回すかどうかは、あまり影響も無いか。
「じゃあ先に回します」
ガチャコン!
出てきたカプセルは赤だった。
「ふっ、甘いな・・・」
なんだと!?
清光さんがノーマルガチャの前に立ち、数秒の精神統一から一転、凄まじい闘気を放ちながらレバーを回した。
ガチャコン! キュピン!
「「キターーーーーーーーーーーーーーー!!」」
くそッ、やられた!
ノーマルガチャからすでに本気で挑まなきゃならない所を、まだ勝負の前段階だと思って軽い気持ちで回してしまった。
「俺の勝ちだな。では勝者の権利として選ばせてもらおう。・・・先攻だ!」
「な、なんだってーーーーーーーーーー!?」
宇宙刑事シャアリバーンの衣装を引いてしまった時点で勝負が終わるのだから、絶対に後攻を選んだ方がいいハズなのに、ノーマルガチャで選択の権利を得たにも拘らず先攻を取るとは!!
なんて恐ろしい男なんだ・・・。この人、真の勝負師だ!!
俺に選択権があっても十中八九後攻を選択していたハズだから、結果的には変わらないんだけど、今の攻防で流れが向こうに行ってしまった。
このタイマン、俺は負けるかもしれねえ・・・。
漢気勝負だからどっちが負けなのかよく分からんが、とにかく大ピンチだ!
すぐにでも流れを引き寄せないと、マジでやべえぞ!!
「おやおや~?本当にいいんですか先攻で。宇宙刑事を引き当てた時点で終わりなんですよ?」
「問題ねえ。後攻の恐ろしさをとくと味わうといい」
「自爆して後悔することにならなきゃいいですけどね~」
「まあ見てな?」
ダメだ。挑発してんのに、この人まったく精神を乱さねえ・・・。
これじゃあ俺が雑魚キャラみたいじゃないか!
「ふぅ・・・。じゃあ本番始めっぞ!」
「シャアリバーンの衣装が出ることを心から祈ってます!清光さんに宇宙刑事のご加護がありますように!」
「そんな加護いらねえよ!!」
その瞬間、親父の右手が大バカ殿様の衣装の左袖の中に入った。
「勘違いするな!手に入れたアイテムを入れる籠なんか必要無いと言ったんだ!」
その言葉が功を奏したのか、出てきた右手には何も握られていなかった。
どうやらギリギリセーフだったようだ。
しかし清光さんを動揺させることには成功したぞ!
清光さんがデラックスガチャに魔石を投入し始めたので、もうこの状況で茶茶を入れるわけにはいかない。マナー違反になってしまうからな。
そして精神を研ぎ澄ました清光さんが、何度もガチャを回す。
金カプセル漢気三本勝負なので、まずは本気で金カプセルを引き当てなければならないからだ。赤や銀が出ても清光さんのターンは終わらない。
銀、赤、赤、緑、赤、と引いた後、とうとうその瞬間が訪れる。
ガチャコン! キュピピピン!
「!!」
「「キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」」
レバーを回した後ならば、歓声を上げてもマナー違反にはならない。
会話も自由となる。
「とうとう金カプセルが出ましたね!宇宙刑事の衣装が出るといいな~!」
「あ!?・・・いや、おそらくダメだろう。どうもハズレの予感がするぜ」
清光さんが一瞬ブチキレかけたが、すぐに言葉の軌道修正をしてきた。
そして意を決してカプセルを開けた。
「ぐおッッ!!【服】・・・だと!?」
「はい、宇宙刑事キマシターーーーーーーーーー!」
―――――しかし出てきたのは、男性用の真っ白いスーツだった。
「おっしゃあああああーーーーーーーーーーーーーーー!!」
「ぐはッッ!メッチャ惜しい!!一発であぼーんするチャンスだったのに!!」
ピピーーーーーーーーーーーーーーーッ!
「二人ともアウト!!」
ホイッスルが鳴ったと思ったら、吹いた犯人は虎徹さんで、親父がレッドカードを持った右手を上げていた。
「「しまった!!」」
「今のは完全にレッドカードだろ!」
「でも最初だからな~。今回だけオマケしてイエローカードでいいじゃね?」
「それもそうだな。今回は特別にイエローにしてやるけど、次からは容赦なくレッドカードを出すから二人とも気を付けるように!」
親父がレッドカードを左袖の中に入れ、イエローカードに持ち替えた。
するとシルヴァラさんがトコトコ歩いて来て、カレーライスを手渡された。
もちろん清光さんもだ。
「カレー?」
「これが罰ゲームなのか?」
「そうよ。まあ一皿目は美味しく頂けるんじゃない?」
「えーと、ちなみにレッドカードをくらった場合は?」
「激辛カレーよ!」
「嘘だろ!?激辛カレーって、この前一口でギブアップしたヤツじゃねえか!」
「そんなにヤバいんですか!?」
「アレは悪魔の食いもんだ!やべえぞ、レッドだけはくらわねえようにしねえと」
「今、思いっきりレッドだったんですけど?オマケでイエローになっただけで」
「くっ!とにかく次から気を付けるしかねえ!」
というわけで、罰ゲームはカレーライスだった。
カレーは普通に美味しかったんだけど、何杯も食ったらキツくなってくし、それが激辛カレーだったらマジでやばそうだな・・・。
それはそうと、清光さんが簡単に白いスーツをGETしたことに血の涙を流した。




