648 ミスフィートさん大地に立つ!
実際にゴーレムを操縦してみせてから経緯を説明したので、皆かなり興奮していたものの、ゴーレムに興味津々だったので、大人しく最後まで話を聞いてくれた。
「ゴーレムといったか?なんと面白き乗り物なのだ!!」
戦闘が出来る乗り物なんて初めてだから、ミスフィートさんもかなりの衝撃を受けた様子。メチャメチャ興奮してらっしゃる。
「しかし小烏丸、一つ聞き捨てならないことを言ったな?」
「聞き捨てならない??」
「三河相手に戦ったのだろう?しかも虎徹殿と!!大問題ではないか!!」
ああ、そっか!
同盟国と戦ったなんて聞いたら、そりゃとんでも案件だよな。
「えーとですね、確かに三河相手に大暴れしてきましたけど、このゴーレム大戦って普通の戦とは全然別物なんですよ」
「どういうことだ?」
「まず甲斐と三河のゴーレム大戦では、死人が出ないようになっているのです」
「死人が出ない・・・だと!?」
「運悪く事故死してしまう兵士はいるという話でしたが、甲斐と三河の間でいくつか取り決めがあって、故意に相手を殺した場合、切腹しなければならないのです」
「「切腹だって!?」」
切腹という単語が出てきたので、これには聞いていた全員が反応した。
「相手のゴーレムが戦闘不能になった時点で、それ以上の攻撃はご法度なのです。俺が乗り込んだ部分を『操縦席』もしくは『コックピット』と呼ぶのですが、そこを狙うのも禁止です。相手を殺すと切腹しなければならないので、基本的に狙うのは頭部ですね。それが無理なら手足を狙って行動不能にします」
「ゴーレムというのは、頭を壊されたら行動不能になるのか?」
「そうなのです!頭を壊されると真っ暗になって何も見えなくなるのです」
「ムムム・・・、まずあの中でどう敵が見えているのかが分からぬからな~」
確かにその通りだ。一度乗せてから説明した方が早いか・・・。
「一度乗ってみないと、聞いただけじゃ分かりづらいですよね。あっ、乗る前に一つだけ甲斐と三河と交わした重要な取り決めを話しておきます」
「重要な取り決めだと!?」
「ぶっちゃけゴーレムって、さっき見た通りメチャメチャ強いです!これを戦で使用すれば簡単に相手を蹂躙出来るでしょうね。しかしだからこそ甲斐と三河は侵略戦争でゴーレムを使うことを禁じました。尾張もその取り決めに従わねばなりません。それがライオウや清光さんと交わした約束です」
「約束を破った場合は?」
「甲斐と三河がゴーレムの大軍で攻め込んで来ます。全滅するまでその攻撃が止むことは無いでしょう」
「なるほど。肝に銘じよう」
そういえば清光さんに、『通常の戦にゴーレムを使用する』という行動全般を指していると釘を刺されているから、防衛戦に使うのもヤメた方がいいだろな。
「しかし戦で使えないとなると、このゴーレムは一体どこで使うのだ?」
「先程、甲斐と三河でゴーレム大戦としてるって話しましたが、そのゴーレム大戦に尾張軍として参加するつもりです。その戦いに損得感情はありません。ただ大暴れして自分の力を相手に見せつけるだけです!」
―――――それを聞いたミスフィートさんがニヤリと笑った。
いや・・・不敵に笑ったのは彼女だけじゃなく、ほとんど全員だな。
ただ暴れに行くってのが琴線に触れたのだろう。このバトルジャンキーどもめ!
「ねえ小烏丸!虎徹殿に負けたって言ってたよね?」
ん?カーラか。
「んだ。あの人メチャクチャつえーんだ!」
「赤い流星と呼ばれるほどの武将が、ただ惨敗してすごすごと帰ってきたわけ?」
「おっと、それはこがっちをナメ過ぎだぜ?」
お、ゴマちゃんの乱入だ。
「ほうほうほう?」
「初陣なのに敵のゴーレム6機くらい撃墜して、その後白いゴーレムとスゲー斬り合いをしてから頭を破壊されたんだ。その時点でこがっちの負けだけど、あのメッチャ強いゴーレムにもダメージを与えたんだぞ!」
「へーーーーー!大暴れしてるじゃん!それなら許してあげる」
「ゴーレムの操縦って難しいんだぞ!自分で動かしてみれば、こがっちの凄さが分かるハズだぜ!」
「もちろん乗るわよ!でもまずは隊長からだね~」
俺の代わりに弁明してくれたゴマちゃんが素敵すぎますぅ~!
口は悪いけど本当に優しい子なんだよ。ありがとうな!
「じゃあミスフィートさん、そろそろ乗ってみますか?」
「うむ!」
ガシャン!
コックピットの扉を開き、ミスフィートさんと一緒にゴーレムに乗り込んだ。
「なっ!?全然バスと違うではないか!!」
「バスは大勢の人を乗せて早く目的地に移動する為の乗り物ですから、とにかく椅子がいっぱい必要なのです。でもゴーレムは、基本的に一人で乗って戦うように設計されています。まずはそこに座って下さい」
「緊張するな!」
色々と説明する為に、隣に椅子を出してそこに座った。
こうやって隣で指示を出すつもりで作ってもらったので、操縦席の後ろの方から椅子を引っ張り出して、俺も座れるようになっているのだ。
「これがゴーレムの起動ボタンです。押してみて下さい」
「このボタンだな!ポチッ」
ヴォン!
彼女が起動ボタンを押すと、前面の大きなモニター画面に外の景色が映った。
「なにッ!?目の前に外の景色が広がったぞ!!」
「凄いでしょう?ゴーレムの目で見た景色がココに投影されているのですよ。そして頭部が破壊されると、この画面がプチュンと消えて真っ暗になってしまうのです」
「そういうことか!戦闘不能になるって意味が分かったぞ!!」
「敵が見えなければ戦うのなんて不可能ですからね~。えーとまずは、人ごみに突っ込んでしまうと拙いので右に旋回しましょう」
ミスフィートさんが俺の指示通りにレバーを操作して右を向くことに成功する。もうそれだけのことで彼女は大興奮だ。
やっぱロボットって男の浪漫だよな~!いや、操縦者は女性なんですけどね。
「じゃあ歩いてみましょうか。右足の前にあるペダルを踏むと前に進むのですが、強く踏むと走ってしまうので注意して下さい」
「ぐぬぬぬぬ、バイクと違って足のペダルで進むのか・・・」
「やってるうちに慣れますよ!もっと気楽にいきましょう」
「そうだな。あれこれ考えていても時間の無駄だ!」
ガシン! ガシン! ガシン! ガシン! ガシン! ガシン!
「動いた!すごい振動だな!なんという迫力なんだ!!」
目をキラキラ輝かせている彼女を見て、自分が初めてゴーレムを操縦した思い出よりも、初めてロボットを起動させた時のあの主人公の顔が頭に浮かんだのだった。




