221 とうとう線路が完成
漁業の件も片付き、次に必要なのは何かって考えた結果、まず建物とかよりも先に移動・輸送手段だろうと判断し、ドワーフの街に籠って機関車の車両を作っていた。
ドワーフ達の頑張りにより、とうとうレールはトラネコを超えミルドナーガまで繋がったので。後はトラネコからシェルフィーユまでレールを敷けば完成という段階まで来た。
機関車関連はドワーフで行こうと決めていたので、何人かの運転手候補は今も特訓中だ。ただ機関車は放っといても自動で走るので、重要なのはブレーキ操作くらいなもんだけどな。
車両の数なんだが、3車両、食堂、3車両、寝台という感じにする予定。
定員数は多いに越したことないんだけども、立って乗れるようにはしなかった。なんせトラネコまで2日かかるわけだから、とてもじゃないけど座ってないとやってられん。ってことで、1両につき座席は100だ。すなわちこの編成だと定員は600人ということになる。
運転手の後ろのゾーンには従業員が待機出来る場所を作って、そこで車内販売のワゴンに商品の入れ替えが出来るようにした。。
トイレは各車両に男女1部屋ずつ用意したぞ。ずっと機関車に乗り続けるスライムくんには感謝せねばなるまい。
魔石の消耗がどんなもんかは、満席で走ってみないと何とも言えないかな?
そして輸送用に機関車をもう一台作ろうと考えている。
何を輸送するかなどその時次第だからコンテナが中心だけど、魚を輸送するのはもう確定しているので、冷凍車両と冷蔵車両も作るぞ。
とまあ、機関車を一般開放しようとしただけで、これほど大掛かりなモノとなるのだ。三河や遠江でも、俺と同じような苦労をしているのだろうな。
元々尾張よりも発展した国だから、その辺はこっちよかスムーズかもだけどね。
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そしてとうとう全ての線路が完成した。
車両の方も線路作りに合わせて完成させ、輸送専用の機関車も全て作り上げた。
だが、一般公開前には絶対に試運転する必要があるので、今日これからトラネコへ向けて機関車を発車する所だ。
試運転の乗客は志願した兵達で満員にした。カーラ・カトレア・リタ・リナ・チェリンも、これから機関車を使うことが多くなるのが確実なので、ダンジョン探索は一度中断してもらい、機関車に試乗することとなった。
まあそうなるだろうとは思ったけど、城内の主だった人達のほとんどが志願して来ましたよ。
今回の狙いは機関車の安全性の確認だけではなく、例えば他国がミルドナーガへ攻め込んで来た場合、機関車に兵を大量に乗せてミルドナーガへ援軍に向かうことになるだろうから、有事の際の予行演習も兼ねている。
「おおおおおおおおおっ!機関車がめっちゃ長くなってるっスよ!」
「小烏丸がね、全部で600人乗れるって言ってたよ」
「でも本気を出せばその数倍乗せることも可能らしいわ!2日も立ったまま乗るのがキツすぎるからって、定員は座席分だけにしたみたいね」
例の如く、三馬鹿が真っ先に列車に飛び乗った。
「へ~~~!座席は4人が向かい合う感じなんだね」
「これなら皆で話したりながら過ごせるから、すごく良いんじゃない?」
「食堂や寝る所まであるって聞いたっス!この席に荷物を置いて、ちょっと調べて来ないっスか?」
「行こう行こう!!」
「メルティーちゃん、ココにしよ!!」
「窓側がいいのじゃ!ララは童の隣じゃ!」
「んーー、それならマリアナさんはメルティー様の正面に座るです!ボクはララの正面に座りますですよ」
「有難う御座います。向かい合わせの席だとは思いませんでしたね!とても楽しい旅になりそうです!」
メルティー・マリアナ・ララ・ルルといった4人組だと、この配置は最高だろう。
ただ一般人の場合、知らん人と相席になって2日過ごさなきゃならんのは、ちょっとした拷問かもしれん。
相席のおばあちゃんに新聞紙に包まれたおにぎりをもらって、仕方なく食べたのを思い出すわ・・・。なぜか意外と美味かったりもするんだけどね。
個人的には、進行方向と逆向きに座るってのが少し抵抗あったりもするんだけど、それでもこの向かい合わせ方式に決定した。機関車に乗ったままの長い旅だから、みんなに楽しんでもらいたいんだよね。
―――そして機関車が発車した。
「おっ!?動いたぞ!!」
「なるほど。こんだけ乗ってると、さすがにちょっと重そうな感じだな・・・」
「バスとは違った乗り心地ね~」
「たしか運転手って二人いるんだよね?」
「一人だと眠ってしまっての大事故が怖いから、基本的に運転手は二人だな。機関車はドワーフに任せるつもりだから、運転手も含めて関係者は全員ドワーフだ。そしてもう少ししたら来ると思うけど、車内販売でワゴンを押してくる人も女性ドワーフなんだぞ?」
「あ、もしかしてお城に来てた誰かかな!?」
ただの偶然なんだけど、俺の隣にミスフィートさん、そして向かいの席には和泉とナターシャという不思議な組み合わせになった。たまたま近くで話をしていた4人が相席になった感じ。
機関車はパラゾンに停車する。
誰も乗り降りはしないのだけども、本番を想定しての予定通りの行動だ。
そして約10分後に機関車が発車。
機関車は時間の正確さが重要だ。とはいえ機関車の中に時計があるわけではないので、運転席に俺特製の砂時計が置いてあるのだ。
使う場面は基本的に各駅での停車時間を計る時くらいだな。砂時計ってとこが少し頼りないけど、10分・30分・1時間の三つを色違いで用意した。
意外と出来が良かったのもあって、同じ物を何個も作ってマジックバッグに入れてある。料理に便利だからって、和泉にもワンセット持ってかれた。
機関車はトラネコへ向かって走る。
「そうだ。トランプでもしようか?」
「え?トランプなんてあるの!?」
「トラ、なんだそれは?」
「聞いたことの無い名前ね」
「この前清光さんに貰ったんだ。三河にはもう普通に売られてるらしいけど、これは清光さんが土魔法で作った特別性らしい!」
2枚あるうちの1枚のジョーカーを抜いて、全てのカードを配った。
「今からやるのは、ババ抜きっていうゲームです!ルールを説明しますね」
ババ抜きはそんなに難しいゲームじゃないから、ささっと説明した。
そしてゲームは始まり、和泉が1抜け、次にナターシャが抜けて、俺とミスフィートさんの一騎打ちになった。
「ぐぬぬぬぬ!このゴブリンを最後まで持ってたら負けなんだよな?」
「まあそうなんですけど、言ってしまうとババを持っているのが相手にバレてしまいますよ?今はもう、そっちが2枚こっちが1枚と明白なので問題ありませんが、手持ちのカードを内緒にしておくのはトランプの基本です!」
「なるほど!相手に知られることでも負けてしまうのか!!」
ちなみにミスフィートさんは親の仇のようにゴブリンを睨んでいるので、右がババなのがバレバレだったりする。
当然俺は右のカードを引いた。
「やったーーーー!ゴブリンがいなくなったぞ!!」
「クソーー!そっちだったか!!!」
こうして初めてのババ抜きは、俺の敗北で終わったのだった。




