150 シルバーウルフ料理
慌てて解体現場に向かうと、すでにかなりの人が解体を終えていて、遅い人の手伝いをしたり肉や内臓を洗ったりしている所だった。
「おお!ほとんど終わってるじゃないか。毛皮を剥ぐ時に脂身が残ってると腐って異臭を発するから、最後にもう一度確認した方が良いですよ!」
それを聞いた皆が毛皮の確認を始める。
毛皮にしてから聖水に漬ければ脂身も消え去るのだけれど、今回は行程が逆だから、俺がやった時のようにはいかないのだ。
そして大体30分後、解体作業は全て終了した。
「みんなお疲れー!今日の夕食は、美味くて珍しい物を御馳走するぞ!」
「珍しい物って気になるわね!?」
「小烏丸が言う珍しいって、本当に見たことのないすごい物が出て来るわよ!」
城門まで歩くと皆が時計に気付いたので、紙を見せながら説明をした。
そのまま皆は毛皮を干しに行ったので、俺はルシオを連れて食堂に向かう。
・・・・・
「さて、皆の期待に応えて、すんごい料理を作りましょうかね」
「僕も手伝えることはありますか?」
「ある!俺が魔法でパンをどんどん乾燥してくから、それを全部粉々に砕いて欲しいんだ」
作ろうとしているのは、トンカツ、もといシルバーウルフカツである。
玉子が無いけど小麦粉を水で溶いて代用できるハズだ。
ジャバルグに制圧されていた時はパンすら手に入らない状況だったけど、今はもう普通に店で買えるようになった。ルーサイアじゃまだ大量に買うのは無理だけど、旧首都のトラネコでは麦も米も普通に売買されている。平和になったのだから、これからは農家の人に頑張ってもらわんとな。
カツ以外にも作ろうと思っているのはタン塩とレバ刺しだ。
その辺の魔物を生で食うのは恐ろしいが、このシルバーウルフは全て聖水で浄化済み。新鮮なうちなら大丈夫とダンジョン生活で実証している。
ホルモン焼きは次回だな。カツとレバーがあるのだから、明日以降の夕食にした方が長く楽しめるだろう。
「こんな感じで良いですか?」
「いいね!少々粗挽きじゃないと、粉にしてしまうとパンを砕く意味が無いのだ」
ちなみに今日の夕食は俺が作ろうと思っていたので当番の人はいない。2人くらい手伝いに残そうかとも思ったけど、やっぱり完全休養日にした。城には結構な人数が住んでいるので、ちんたらやってる暇は無いぞ!どんどん油で揚げて行く。
それと同時に大量のレバーを薄切りにしてから、レバ刺しのタレも作る。
ごま油に塩を振っただけのタレと、醤油ベースのタレの2種類だ。
「すごく良い匂いがするよ!」
「さすがは小烏丸ね!見たことのない不思議な料理を作っているわ!」
「ああ、これはもう絶対美味しいのが出て来るね!」
食堂に腹ペコ共がわらわら集まって来た。
「よし!最初に俺が盛り付けをするんで、それと同じように盛り付けをして、どんどん皆に配って行ってくれ!難しいことはやらんから大丈夫だ」
「了解です!」
カツのお供と言えば、当然千切りキャベツ。
名前がキャベツなのかどうかはさて置き、似たような野菜があるので、それを皿に盛り付けていく。
ソースやマヨネーズなんかは皆のテーブルの上に置いてあるから、それは自分でかけてもらう。
千切りキャベツの上にカツが乗ったメインの皿が中央、タン塩は左に。そしてレバ刺しの皿を右に置き、2種類のタレを小皿に入れる。
最後にご飯を茶碗によそい、みそ汁を付ければ完成だ!
「これ全部で1人前だ!めっちゃ豪華だろ?その分ちょっと大変だが頼んだぞ!」
「大丈夫です!じゃあどんどん配って行きますね!」
「ああ、そうそう!カツにはソースをかけて食べるよう、皆に言ってくれ!」
「了解です!」
悪いなルシオ!俺の近くにいると、結構頻繁に大変な目に合うのだ。
ただ本当に大変すぎて、もう一人くらいお手伝いが欲しかったかもしれん。
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ルシオくんがテーブルに食事を並べて行く。
何だろうこれ?茶色くて大きな謎の塊が、お野菜の上に乗っかっている。
そして別の皿でお肉が出て来たのだけれど・・・、どう見ても生肉よね??
「ねえルシオくん、この肉って生に見えるんだけど・・・」
「生ですよ。これはレバ刺しと言って、肝を薄く切っただけの料理ですね。しかしなんと聖水に漬けて浄化してありまして、安全どころか食べれば食べるほど元気になります!しかも、この2種類のタレに付けて食べると無茶苦茶美味しいのです!」
「へーーーーーー!!聖水に漬けるって、驚きの発想ね!!!」
「こちらのカツにはソースをかけてお召し上がり下さい」
「カツ?こっちの謎の塊の名前かしら?わかったわ!」
あの聖水に漬けた料理と聞いて、すごく興味が湧いた。
早速レバサシ?をタレに付けて食べてみる。
「美味しい!!!」
「うわ~~~!本当に美味しいね!」
「ナターシャ、こっちのカツって料理もすごいわよ!何かと思ったら中はお肉だった!!」
大きな塊なのかと思ったら、食べやすいように丁度良い大きさに細く切れ込みが入ってあった。
ルシオに言われた通り、ソースをかけて口に入れる。
うそっ!?
「美味しい!!!なんて斬新な料理なのかしら!!」
「ご飯が止まらないよ!左のお肉も全部美味しい!!」
「これは驚いたわ、料理って奥が深いのね・・・」
間違いなく太ると思いながらも、本当にご飯が止まらなかった。
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「みんな大絶賛でした!」
「そうだろう!ルシオも食べたいだろうけど、もう少しだけ頑張ってくれ!」
「大丈夫です!皆が美味しそうに食べてるのを見てるだけで満足ですよ」
「全て配り終わったら、その後いくらでも食わしてやるからな!」
シルバーウルフ料理は大好評だった。
肉はまだまだ大量にあるので、しばらく楽しめるだろう。
その後、シルバーウルフの毛皮を使った人達が、その圧倒的高級感に一晩中感動していたという話を聞いた。




