149 時計の罠
巨大時計の設置が終わったので、ミスフィートさんを呼んで来た。
「針の位置と数字を照らし合わせれば、現在の時間がわかるのですよ」
「・・・・・・数字?」
「短い針が1の数字を指していれば1時といった感じです」
「その1という数字はどこにあるのだ?」
ん?
「えーと、時計の外側に1から12まで数字がぐるっと書いてありますよね?」
「あの変な記号のことか?」
記号???
「・・・・・・あっ!」
これってアリアの世界の時計だから、書かれているのはアリアの文字なのか!!
俺には、異世界言語:自動翻訳ってスキルがあるから、全然気が付かなかった。
すなわち、俺にはちゃんとした数字に見えているけど、この世界の住民には謎の記号にしか見えないのだ。
「なるほど、話が噛み合わない理由がわかりました!この時計ってダンジョンから手に入れた代物なので、この世界の数字とはちょっと違うみたいですね。えーと、外周に書かれている変な記号を、この紙に書いてみてくれませんか?」
マジックバッグから紙と下敷きになる板を取り出して、ミスフィートさんに渡した。
「えーと、見たまんま書き写せばいいのか?」
「はい。それでお願いします」
ミスフィートさんが紙に時計の絵を書いて、外周に1から12までの数字を書いた。
・・・・・・ん??
ああ!俺はアホか!!自動翻訳されるから結局意味ないやん!
いや、そうでもないか。
ミスフィートさんには記号にしか見えないが、紙の記号の横にこの世界の数字を書けば、意味が分かるようになるハズだ。
「出来たぞ!」
「えーとですね、それで、一つ一つ指をさして行くので、その横に俺が言う数字を書いて行って下さい」
「わかった」
ミスフィートさんが1の横に1という風に数字を書いて行く。
俺にはそう見えるから少しややこしいけど、彼女には記号の横に1って見えているのだと思う。自動翻訳って便利なようで不便だな。こんな罠があったとは・・・。
「それでですね、あの時計に短い針と長い針がありますよね?その短い針が指している部分の数字が現在の時間を表していて、長い針が指している数字が分を表しています」
「ほうほう」
「それを照らし合わせると、現在の時間は2時15分となります」
「なるほど・・・、分なんて細かい単位など使うことがあるのかずっと疑問だったのだが、この、とけい?という魔道具があれば、細かく分ける意味が出てくるわけか」
あーそっか!分という言葉自体は伝わっていても時計が無いのだから、みんな半刻みでしか会話してなかったのも当然だよな。もちろん9時30分とかそういう具体的な数字じゃなくて、『1時間半後にどこどこに来てくれ』とかそういう使い方だ。
一の刻、二の刻といった戦国時代っぽい言葉を伝えなかった歴女女神さんも、なんか適当というか・・・、変に拘るタイプでもない印象を受ける。
「長い針がぐるっと1周すると1時間経過したことになります。今から長い針が進んで12の所まで行くと、短い針は3の所までピッタリ移動する仕組みですね」
「素晴らしいぞ!こちらの文字で書かれていれば尚良かったのにな」
「まあダンジョンから手に入れた魔道具なのでしょうがありません。後でみんなにも紙を見せて、数字の説明をしなきゃですね」
「皆は解体作業中か?」
「毛皮が貰えるから絶賛奮闘中ですよ」
「ハハハッ!あれは本当に素晴らしい毛皮だからなっ!」
「自分で解体した毛皮は自分のモノにすることができるってルールにしたので、きっとみんな丁寧にやってると思います。夕食はシルバーウルフの珍しい肉料理を作りますので楽しみにしてて下さい。ダンジョンの魔物だからめっちゃ美味しいですよ!」
「それは楽しみだな!」
「ルルとルシオも今の話を聞いていたな?ミスフィートさんに説明した通り、時計ってのはそんなに難しい物じゃないんだ。後でまたみんなにも説明するけど、もう大体わかっただろ?」
「大丈夫です!」
「ボクも大体わかりましたです!」
あ、そうだ!この紙を写真に撮ってみんなに配るか?あー、でもあまり豪快に紙を消費するのもマズいか。写真で消費しまくるのが目に見えてるし、何枚か写して城の掲示板にでも貼っておこう。
マジックバッグからカメラを取り出す。
紙を写そうと思ったけど、ミスフィートさんの姿が目に入った。
カシャッ!
「ん?なんだ?今の音は」
「えーとですね、とりあえずこれを見て下さい」
ミスフィートさんに出て来た写真を渡した。
時計を見上げているミスフィートさんが写っている。
「え!?これは私じゃないか!!!」
「これもダンジョンで手に入れた、カメラという魔道具です。景色をそのまま紙に写すことが出来るのです!」
「何だこれは!凄い魔道具じゃないか!!」
カシャッ!
後ろにいたルルとルシオを激写した。
出て来た写真をルルに渡す。
「うわぁ~~~!紙の中にボクがいるですよ!」
「ダンジョンと違って、背後に写っている景色が美しいですね!」
「おおおおっ!2人が並んで描かれているぞ!」
「ああ、カメラで撮った写真は描かれたと言うのではなく、『写った』『写っている』などと表現するのです」
「なるほど!こっちは私が写っているのだな!」
うん。ミスフィートさんが大興奮してらっしゃる。
俺が生まれた頃にはすでに写真があったから感動も何も無かったけど、成人した大人が初めて写真を見ると、こういう反応になるんだな~。他のみんなもすごく良い反応をしそうで楽しみだ!
「小烏丸!私にもカメラを貸してくれ!私も写してみたいのだ!」
「もちろん良いですよ!えーと、この四角い部分を覗いて、そこに見えている景色がそのまま紙に写し出されます。写すときはこのボタンを押して下さい」
「フムフム。わかった、やってみるぞ!」
ミスフィートさんがこちらにカメラを向けたので、Vサインで答える。
カシャッ!
「ん?・・・お!?紙が出て来た。わははははっ!小烏丸が写っている!!」
「面白いでしょう?ダンジョンでこれを手に入れた時はビックリしましたよ」
それからしばらく4人で写真を撮って遊びまくった。
気付いた時には結構な時間が経っていて、慌てて皆の所に向かったのだった。




