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arcadia  作者: 深町珠
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失踪

珠子はキャンパスを出て

路面電車の停留所に向かった。

大学から、珠子の家までは少し離れているから。

それで、詩織も時々大学に泊まったりするらしい。



「でも・・・。」珠子は整然としない。



お母さんが、私たちを置いて失踪するだろうか?




珠子だったら、自分がどうなっても

子供と一緒に居たい。


そう思うと「何か、訳があるのかもしれないね。」


失踪だったとすると。

或いは、失踪ではなかったのだろうか?



そんな風に、いろいろと思考を巡らせる珠子だったけれど



「ご近所さんに聞いてみよう」と、明るい珠子だった。



路面電車は、ゆっくりとギアの響きを伴って

停留所に近づいてきた。



ドアが、空気の抜ける音と共に

がらり、と開く。



電車の後ろから乗る。のだけれど

慣れていないので、前扉の所に居て



降りる人が居なくなるのを待っていた。



運転手さんがにこにこと「あ、いいよ。こっちからでも」と言われて

本当は後ろ乗りだったと気づく珠子だった。


「すみません」と、恥ずかしげに礼をして

電車に乗った珠子だったけれど




・・・・もしかして、私が幼く見えたから許してくれたのかな。



なんて、空想をしてしまったりもする珠子だった。




「若見え-10歳肌、なんて」

と、少し明るい気持が戻ってきた。



それも、友達のおかげ。




「友達っていいなぁ」



路面電車に揺られて、いつもの町に戻る。


電停で、こんどは間違えないように前扉から降りると



運転士は微笑んで「ありがとうございます」。




それが、-10歳肌だけではないがのおかげかどうかは判らないけれど。




今のところ、若く見えると言う程度。



「そういえば・・・。」珠子は気づく。

妹は、そんなに若く見える程でもないけれど

それは、化粧とか、服飾のセンスとか。

そういうものもあるのかな、とも思う。



職業柄、珠子は香水すらつけない。

和菓子に移るからである。


「そういうせいもあるのかな。」と、町外れの小川の畔まで来ると

アーケードのご近所さん、揚げ物を作っているおばちゃんが

お地蔵様のお掃除をして、拝んでいた。


珠子も、時々そうしているけれど

地域の風習なので、気にする事もなかった。



・・・・そういえば、都市にお地蔵様って珍しいのかな。


比較的あちこちにあるような気もする。



「おばちゃーん。」と、珠子はにこにこ、声を掛ける。



婦人は振り返り「おや、珠ちゃんおかえり。」


珠子もお地蔵様を拝んでから、ちょっと聞いてみる。



「ねえ、この町ってお地蔵様多いみたいね。」と言うと


おばちゃんは、すこしぎこちない表情になったけれども

穏やかに「みんなを守ってくれているのよ。」と。



みんなを。



その言葉が、どことなく気になって

「ねえ、うちの家って、どうして女の人がいないの?」と

何気なく聞いてみると、おばちゃんは視線を下げたけど


「そういう家もあるね。ほら、宮様の家でもあるでしょう。

女の子は宮家を出るから、男ばかり残るって。」



・・・・宮家。


そういえば、古都なので

そう言う家柄のところもあった。あちこちに。


元々は都だったのだから。



珠子の家もそうなのだろうか?なんて思うと

面白くなって「ははは。うちは宮様じゃないよー。」


おじいちゃんも、おとうさんも職人で

お父さんなんて結構、乱暴だし。



でも、ふと思い返すと



・・・おじいちゃんって、上品ね。かなり。

怒ったところを見た事ない。



なんて、ちょっと面白い空想に囚われたので

それまでのミステリーっぽい空想は、どこかに飛んでいった。



・・・おばちゃんは、その珠子の様子に安堵した。





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