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arcadia  作者: 深町珠
61/93

家族

珠子は「じゃ、お掃除でも」と

広いお屋敷を、端っこからお掃除することに。


珠乃家のような、古都の住宅兼店舗と違って

農村のひろいお屋敷だから大変かと思ったけれども


いつも、ナーヴがお掃除してくれているのか

綺麗だ。


「お掃除ロボットなのかな」と、珠子はにっこり。


それで、雑巾がけをしようかと思い、廊下に。


「えーと、雑巾はどこかな?」


と、 廊下の端っこを見る。

大抵は、洗面所のところの

水道の配管に掛けてあったり。


古い家に住んでいる珠子は、そんな風に思う。


「あ、ナーヴちゃん。雑巾ってある?」と

とことこ歩いてきたナーヴに訪ねる。


しゃがんで話すのは、珠子も久しぶり。

いつか、幼い妹が生まれた頃、そうして話したような

そんな事を思い出す。



ナーヴは「雑巾ですか?何をするのですか?」


珠子は「廊下の雑巾かけ」と言うと、ナーヴは判らない。



「雑巾で、廊下を拭くのですか?」



珠子は不思議そうに「そう?見たこと無い?、こうやって・・・。」と

雑巾かけのポーズ。



ナーヴは「神流は、モップでやってましたね、それ。わたしは機械で掛けています。」と。


廊下の隅から、円形をした機械が

くるくるまわりながら。大きな毛玉のようだ。


珠子は「面白い。いろんな機械があるね。神流ちゃんが作ったの?」


ナーヴは「はい。買った方が早いのですけれど。こだわりですね。神流の」


ナーヴは、珠子に対して「神流」と言う。

珠子のことは「珠子さん」。


呼称を使い分けるのも、知性である。

/users/status/female/kanna.domain

1

/users/status/female/tamako.domain



のように分類してあれば、従って言語を使い分ければいい。

これは単純である。




言葉を発するのが一番難しい。人間らしく話すのは

かなり。


ナーヴについても、なんとなく機械的なのは、まあ仕方が無い。

シンセサイザでは、言葉を発するのは未だに難しいので

サンプリングしても、その言葉を合成するには至らない。


そこで、音節に分けて複数の言葉を採取し、それを合成している。





「でも、なぜお掃除をしたいのですか?」と、ナーヴ。


「なぜって、なんとなく。するの」と珠子。


食べ物を作っている家に育ったから、そんな習慣があるのかもしれない。




「畳のお部屋も機械がしてくれるの?」と、珠子が聞くと


お掃除ロボットは「はい。」と言うので


驚いて。「あの子も聞いてくれてるの。」と。



ナーヴは「はい。音声認識ですね。複雑なのは無理ですけれど。

その辺りも神流の実験のようです。」




珠子は「すごいなぁ、神流ちゃん。」10年前、一緒に飛び跳ねていた

可愛い女の子が、こんなに。と

珠子は、自分が何も変わっていないように感じ、ふと気づく。


・・・・変わっていないのは。



細胞が老化しにくいと言う、体質?のせい。


なぜ、ここに来たか。

それを思い出してしまった。



そんな珠子の表情を見て、ナーヴは今度は

「・・・お悩みの事、ですか?」と


昨日の表情を覚えていて、その時に珠子の気持を類推したのだった。


珠子は、ちょっとどっきり。繊細なナーヴに人、を感じて。


でも、気をつかわせないように、と「うん。でも、気にしても仕方ないもの。」と。

明るく振舞う。



そんな珠子は素敵だなぁ、とナーヴは思う。


それも、優しくされて育ってきたから

みんなに優しく、そう心がける習慣が自然に生まれてくるもの。



そういう家族って素敵だ、とも思う。


同時に、この村にいるのもいいけれども

もし、珠子が望んでいるなら

早く、旅を終えさせてあげたい。


そんなふうにナーヴは思った。




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