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arcadia  作者: 深町珠
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春のゆめ

快活な少女たちは、春うらら。

川原の土手沿いを楽しげに、跳ねながら


さくら舞い散る、川面。


その華やかさと儚さ。


一瞬の煌きのような、貴重な時を彼女達は生きている...のであるが。


もし、それが一瞬でなかったとしたら...。



これは、そんなおはなし。



彼女達は、付近にある高校生なのだろう、この時間帯は

下校する学生たちで賑わう。



三者三様。


何を話しているのか分からないが、楽しそう。


土手から橋を渡り、路地沿いのアーケードの十字路へ。


「じゃね、珠子」


呼ばれた少女は、にこにこと快活である。


「うん、またあした、碧ちゃん。神流ちゃん」


と、呼ばれた少女、碧は、短い髪を綺麗に揃えて。やや神経質そう。



もうひとりの少女は、のどかに手を振る、穏やかに。



アーケードの十字路で別れた、ふたりとひとり。


珠子は、このアーケードに住んでいるようだ....。




それが、10年前のこと。



今、3人とも高校を卒業し、各々の道へ進んだ。



珠子は、家業である和菓子の店を継いだ。

神流は、首都、理系の大学へ進み、今は技術者である。

碧は、都会の短大へと。


「しばらくぶりに会わない?」と、発案したのは碧だった。


「いいですね」と、長閑なのは相変わらずの神流である。


「うん、いいよ」と返したのは珠子であった。が....。



ほんの少し気がかりな珠子。


若い女の子なら、むしろうれしいことなのかもしれない。


しかし、26歳になったのに。

10年前と、容姿が殆ど変わらないように見えるのである。



妹よりも若々しく見えるようだ。




「みんなに会ったら、変に思わないかな」と、心配したが



きょうも、仕事が待っている。


職人。


ものを作る仕事は、待っては貰えないのである。


心配する暇など無い。



店を開ける時間である。



「おはようございまーす」と、笑顔で引き戸を開けると


アーケードを歩いていたご近所さんたちは


「やあ、おはよう」

「おはよう、珠ちゃん」

「元気だねー」



と、にこにこ笑顔。




遠景からそれを俯瞰するのは、近所の喫茶店主。


寡黙な人物である。


「・・・・・・。」



何か、すべてを知り尽くしているかのようである。




ここのアーケードは、みんな仲が良いのである。


不思議なことに、どのお店も所謂家族になっておらず。


老人の一人くらし。


独身の中年男性。


高齢の婦人。


子供の居ない中年夫婦。


娘が嫁ぎ、後継の居ない壮年男性。



各々が、家族のように仲良く暮らしているのが

いかにも不思議である。



その理由は、何れ分かるのであるが...。




珠子の家も、家族ではあるが


不思議な事に、母は...。丁度、今の珠子くらいの年齢の時

行方知れずになった。


更に不思議な事に、祖母も、曾祖母も


若き日の写真しかないのである。


その事について、父も祖父も特に触れる事もない。


このアーケードは、不思議な存在である。


すべての住人が、家族であるかのようだ。




アーケードの天井近くに、鯖のモニュメントが吊られている。


ここは、北岸からの鯖を

塩蔵して運搬した、古き良き日の街道の終点である。



趣のある、古式ゆかしい商店街。


信仰の中心地、かつての都。



古い伝承では、しかし


その北岸近く。

800年生きた人がおり、街道を辿り

この都で果てた、と言う....。



古都には、どこにでもある伝承かもしれないが。








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