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Mīnōtauros(ミノタウロス)  作者: 日南田 ウヲ
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迷宮①

 ジョゼは僕に言いました。

 近いうちに僕は君への大きな失望の為に、君を失うことになるだろう。

 驚いた僕は、ジョゼの青い瞳を見て言いました。

「ジョゼ、それはどういうことだい?僕達は兄弟以上に仲良く、親友という言葉ですら僕達の友情を語らうには足りない関係じゃないか。それなのに君が僕への失望のために、この僕を失うなんて、僕は君が言ったその言葉の意味が全く理解できないよ」

 ジョゼは首を横に振ると青い瞳で僕を見ました。

 その瞳には涙が溢れていました。

「親愛なる君よ、例えこの世界が平和で人々の間に神の祝福や恩寵が満ち溢れていても永遠に僕達の友情が続くことなんて有り得ないのだよ。人間は未熟で、そして不完全だ。だから完全を目指そうとして失敗する。僕は君との完全な友情を目指してきたけれど最近の君を見て分かったのだ。君の精神の中でやがて目覚めようとする異性への愛が、きっと君への失望を生み出し、僕は君を遠ざけようとするだろう」

 ジョゼは長い金髪を揺らしながら続けて言いました。

「そうなのだ、友情は愛の前に簡単に打ち捨てられる。いや愛だけではない、死も同様に友情を簡単に打ち捨てる。豊かな愛と同じぐらいの深い友情は無慈悲な死や異性への愛で切り裂かれて最後には終わりを迎えるのだ。そう、それは誰にでも平等に訪れる、僕にも君にも、隣に住むタバコ屋のマリオにも、酒場のアランにも、そしてあの美しい花売りの娘のマルケにも・・・。僕達を取り巻く全ての友情は愛や死によってこの世界で引き裂かれる関係なのだ」

 ジョゼは両手で自分の頭を抑えると、嗚呼と言ってその場に蹲りました。そしてジョゼは大きな声で泣き出しました。

 僕はジョゼが急に大人びたことを言ったのでとてもショックを受けました。

 僕達はまだハイスクールに行く年頃でもないのに、僕の知らない間に彼の中にとても大人な部分が出来上がって、そしてそれがひとりの人間として大人にも負けないぐらいの哲学をもって成長していることに驚いたのです。

 僕達は小さい頃から両親におはようとおやすみをいう以外の時間はいつも一緒でした。それなのに僕が知らないうちに彼の中に隠れていた大人の部分があって、いつの間にか彼の精神が肉体を超えて僕以上に成長していたのでした。

 僕は蹲るままのジョゼを唯黙って見ていました。

 静かに何も言わず、彼の心の奥底に静かに灯る炎を僕は見ていました。

 遠くに太陽が沈み、カモメの声が暗闇の重さに耐え切れなくなって静かになるまで、僕はずっとその場でひとり黙っていました。


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