第7話 友達の作り方
先に建物に入った一華さんは、ガラスの向こうで走り回っているりすを、顔を動かして追いかけていた。
そのあとは巣穴に隠れてなかなか姿が見えないねずみを一生懸命探したり、建物を出たところで放し飼いにされていたアヒルにちょっかいをかけたら追いかけまわされたり。
周りで見ている子供たちよりよっぽどこども動物園を楽しんでいた。本人に言うと怒られるのは間違いないので黙っていたが。
僕も、最近遊んでなかった幼馴染と遊ぶ時と同じかそれ以上に楽しんでいた。
「あ、あの、一華さん」
こども動物園を出たところで、僕は勇気を出して一華さんに話を振った。
ふと、一華さんと友達になりたいと思ったのだ。あくまで仕事相手と言われるかも知れないけれど、もっと親しくなりたかった。本当は彼女になって欲しいんじゃないかと突っ込まれると、まあその通りなんだけど、それは高望み過ぎるというものだ。
「ん、なあに?」
「僕と、友達になってくれませんか?」
緊張して言葉に詰まらないか不安だったが、よく言えた『チキン』!
「んん???どうしたのいきなり」
「え、いや言葉の通りだけど、もっと仲良くなれないかなって」
「デート中に友達になって欲しいって、順序がぐちゃぐちゃだし。それに、叶えられる願いは一つだけよ?」
苦笑いで、仕事相手だからと返されるより厳しい返事をされてしまった。
迷惑だったのかもしれない。そう思ったら、物凄く申し訳なくなった。
「う……、だよね、ごめんなさい」
「でもそんな願い事しなくても、一緒にいて楽しいし、なんならもう友達だと思ってたわよ?」
「……え!?そうなの!?」
「友達になるって、そういうものじゃない?」
「今だけ、僕のプロフィール読み直していいよ……」
「そうだった、私で二人目だったわね……」
哀れみの目を向けられてしまった。仕方ないじゃないか、友達の作り方なんて忘れていたんだもの。
「で、でも嬉しい!ありがとう!」
今は同情されている事などどうでもよかった。記念すべき、二人目の友達ができた瞬間なのだから!
友達が一人増えただけでも奇跡なのに、相手は可愛くて面白い女の子だ。今までできなかった分が清算されているようだった。心の中で盛大にガッツポーズした。
しかし、浮かれてばかりもいられなかった。一華さんがまた意地悪な笑みを浮かべていたのだ。
「さて、お互い友達として認め合ったのなら呼び捨てでもいいわよね。真大?」
「よよよ呼び捨て!?いきなり過ぎない!?」
「貴方の方がよっぽど突拍子もないこと言ったの、忘れたとは言わせないわよ。ほら、真大も私の事呼び捨てにしていいのよ?」
「えええ、それは無理、緊張しすぎて死ぬ……もう死んでるけど」
「んー、でも、友達にさん付けはおかしくない?」
「そうだけど、一華さん年上だし……待って、そんなに寄ってこないで、目が怖い」
少し怯えてるくらいな状態の僕に、かまわず一華さんは迫ってくる。どうやら呼び捨てしないと許してもらえないようだ。
躊躇ってる間にもどんどん顔を寄せてきて、僕の心臓はうるさく跳ねる。一華さんの息遣いが伝わってくる。
直視に耐えられず、僕は目を背けながらなんとか呼び捨てしようとした。
「い、一華……」
「(`・ω・´)」
「…………さん」
「(´・ω・`)」
「すぐには無理!今日中には呼べるように頑張るから……」
「残念、今日中には絶対よ?」
無論、チャンスは今日しかないのだからやらなければならない。僕だって呼びたいし。
とりあえず心の中では呼び捨てしてみよう。
「これ以上強要してもしょうがないしね。さて、次は……クマ館ね、行くわよ!」
一華はそう言うと、元気よく走り出した。先程転んだのを気にしてか、速度は控えめである。
「心の中ならなんとか呼べそう……あ、待ってよ一華さーん!」