第6話 心の機微
次に向かったのはこども動物園というコーナー。ウサギなどの動物と触れ合えて、時間によってはえさやりも出来る体験型の施設だ。
動物が逃げ出さないように二重になっている柵をくぐると、すぐに羊の群れに迎えられた。放し飼い状態である。
「思ったよりゴワゴワしてる……野生感あって、なんだか頼もしくなるわね」
一華さんは目を輝かせて羊を撫でた。
楽しそうな一華さんを見ているだけで、幸せな気持ちになってくる。顔に出てないだろうか?変ににやけたりしたらまた一華さんにいじられてしまうので、気を付けなければ。
「突っ立ってないで、真大くんも触ってみなさいよー」
名前を呼ばれて、また僕の心が弾む。好きというのを理解したからなのか、簡単なことで嬉しくなってしまう。
「ごめんごめん。うん、もふもふしてるね」
撫でまわす僕たちの事は気にしていないのか、羊は草を食べている。自由でなんだか羨ましい。
「あ、向こうにはウサギもいるのね!」
ひとしきり羊を愛で終えてから、僕たちはウサギが沢山いる大きなゲージの元へ向かった。
耳や鼻をぴくぴく動かしながら何匹かで寄り添ったり、元気よく跳ねまわったり。個性ある動きが可愛らしく、一華さんは羊を見ていた時よりも真剣な眼差しでウサギたちを見ていた。
「どうですか?抱っこしてみます?」
そこに、近くにいた飼育員さんが話しかけてきた。当然、この申し出を受けると思っていたのだが、話しかけられた一華さんは硬直してしまっていた。
「あ、えっと……」
不安そうな顔は、動物園に入る前に見せた表情とそっくりだった。
口が半開きになっている。返事をしようとしているのだが、なかなか言葉が出てこないらしい。心配になって声をかけようとしたら、一華さんは突然走り出しその場を離れてしまった。
「ま、待って!」
僕の言葉にも答えず、展示物のない奥の方まで猛然とダッシュしてしまう。が、前を見ていなかったのか、途中で躓いて転んでしまった。
「いたた……はあ……」
「大丈夫?一体どうしたの?」
「……何でもない。いきなり話しかけられて、ちょっとびっくりしちゃっただけよ」
ぶっきらぼうに答える一華さん。何でもなさそうにはやはり見えないのだが、追及する勇気は出なかった。
「そっか……。膝、すりむいてない?」
「ええ、ジーンズ破けなくて良かったわ」
「でも中で擦れてて、後から出血するかもしれないよ。僕が貼るわけにはいかないから、絆創膏渡しておくね」
僕はリュックの中から、常備していた絆創膏を二枚一華さんに手渡した。
「手際良いわね……絆創膏持ってるとか女子か!」
「だって心配だし、持ってた方が便利だよ?……おせっかいだったらごめん」
気遣いをいじられてしまい、僕は落ち込んでしまった。
「あー、そんなに落ち込まないで。ほら、もう立てるし」
僕の心配をよそに、一華さんはすっと立ち上がった。
「ごめんてば、よしよーし。これじゃあどっちが転んだのか分からないわね」
一華さんはなかなか機嫌が直らない僕の頭を乱暴に撫でまわす。
「撫でないで……恥ずかしい」
そう言って唇を尖らせたが、内心触って貰えるのが嬉しくて、僕の方が倒れてしまいそうだった。
こんなので機嫌が直ってしまうなんて、我ながらちょろいものだ。
「よしよし、いい笑顔になった」
満足したのか、一華さんもニコッと笑って手を離した。不安そうな表情はすっかり消えていた。
「じゃあ次はあの建物ね!りすとかねずみとか、小さい動物が展示されてるって!」
「走ったらまた転んじゃうよ!?待ってよー」