第5話 鳥
中は鳥たちが飛べるように、天井がかなり高く作られていた。種類ごとに金網で隔てられている。
通路はそれほど広くはないが、中にいる客も多くはないため、窮屈な思いはしなさそうだ。
「まずはタカかー!かっこいいわねー」
入ってすぐ僕らを出迎えたのはオスのオオタカ『シン』だ。隣の檻にはメスのオオワシ『ハナ』もいる。
この動物園にはよく通っていたので、名前を覚えている動物が多いのだ。
「うん、やっぱり大きい鳥は格好いいよなあ」
「名前に鷹ってついてるし、やっぱり好きなんだね、『チキン』くん?」
「ぐはっ」
不意に呼ばれたあだ名に精神的ダメージを喰らった。苦しむ僕を見て一華さんはニヤニヤしている。先程の仕返しといったところだろう。
「鷹谷真大。その壮大な名前とは裏腹に、内気で臆病、目立つことはやりたがらない。情けないその姿から、唯一の友人から『チキン』と呼ばれてしまうのであった」
「一華さん、説明いらないです……」
「君のプロフィール、見れば見るほどどうしてデートの誘いなんて出来たのか分からなくなるわね」
「もう見ないでください……。クラスの人達、ヤンキーというかイケイケな奴ばっかりで話しづらかったんだよ。そんな人達の前になんて立ちたくないし」
「ああ、それは共感できるわ。私もギャルとか苦手だし」
この格好見れば分かると思うけど、と一華さんは苦笑いし、檻の方へ目をやった。
「それにしても、タカとワシって区別が付きにくいわね。あとメスの方が大きいのは意外かも」
「そもそも、この二種類って大きさで区別されてるだけなんだよね」
「そうなの?」
「どっちもタカ目タカ科。大きいほうをワシ、小さいほうをタカって分けてるんだ。模様とか、行動とか細かいところの違いもあるけれど。メスのほうが大きいのは、獰猛なオスから雛を守れるように進化したって言われてるよ」
「へえー知らなかった。真大くん物知りなのね」
「動物は好きだから……ここにもよく来たし」
小さい時から動物に興味を持っていて、よく両親に連れてきてもらっていた。
大きくなってからも一人でよく、悠々と飛ぶ鷹を見て元気づけられていた。
そんな思い出の場所に、頼み込んだこととはいえデートで来られるなんて……。感動して泣いてしまいそうになった。
「文系なのに凄いわね。あ、見て、タカとワシが見つめ合ってるみたい?」
さらっと言ってない個人情報を暴露されたが、気にしないでおこう。
檻の中では、確かにタカとワシが互いを見つめ合う状態になっていた。獲物を狙う鋭い眼光……かは分からないが、キリっとした顔つきはどちらも本当に格好いい。
しばらく鳥たちを眺めていたが、視線を感じて横に目をやると、一華さんがこちらをじっと見ていることに気が付いた。
「どうしたの?」
「あの子たちの真似よ。じーっ」
「や、やめてよ恥ずかしい」
顔の前で手を振って抵抗するが、一華さんはまったく目を逸らそうとしない。
「本当に恥ずかしがり屋なんだから。反応面白くてついいじめたくなっちゃうわ」
この人ドSだ――!
「名前も似てるし、ほらほら」
「な、名前?」
「この子達、『シン』くんと『ハナ』ちゃんでしょう?で、『真』大と一『華』だから」
「成程、確かに……これは運命ってやつなのかな」
「そ、そんな恥ずかしい事言わないでよ、ロマンチストか!」
「特に深くは考えてなかったよ、見つめ合う方がよっぽど恥ずかしいよ!」
「うるさい、『チキン』!」
お互い顔を真っ赤にして騒ぎあっていると、余程うるさかったのか今まで大人しかった鳥たちに鋭く鳴かれ、それを聞いて僕たちは我に返った。
「はあ……こんなに喋ったの久しぶりかも」
「私もよ、それに騒ぎすぎて鳥に怒られるなんて初めてだわ」
「疲れたけど、でもなんだか楽しいや」
「それはよかった。どう?もう成仏できそう?」
「え……そんな」
確かに楽しくて満たされた気分ではあるが、これで終わりは早すぎる。
一華さんにとっては仕事だから、早く終わらせたいのかも知れないけど。
「そこまで悲しそうな顔しないで、冗談よ」
「もしかして顔に出てた?」
「眉毛も目じりも下がってて、ちょっと体が縮こまって、小動物みたいだったわ」
「恥ずかし……だって、まだ一華さんと一緒にいたいなって……」
「当たり前じゃない、一日デートって願いなんだから、ちゃんと夜まで一緒にいるわ」
「うん……ありがとう」
一日一緒に居られることは嬉しいが、それよりも一日で終わってしまうという寂しさが心に重くのしかかってきた。
生きてたら次がある可能性があったのに、なんで僕は死んでしまったんだ。
死ななければ一華さんには会えず、こんなチャンスも巡って来なかったのだが。皮肉なものである。
「ほらほら元気出して、次の場所へ行きましょ」
一華さんから差し出された手を、僕はしっかり握りしめた。
繋いでいるはずなのに、ひどく儚いものに思える。
慣れてきたのね、と意地悪そうに笑う一華さんを見て、何故か泣きたくなったのをぐっと堪え、猛禽類館をあとにした。
これだけ感情を揺さぶられることが、人を好きになるということなのだと、僕は初めて理解した。




