第4話 動物園へ
テレポートで着いたのは、動物園の正門前だった。ゴールデンウイーク初日で天気が良いこともあり、かなりの人だかりだ。
そのまま入場券を買いに歩きだしたところを、まだ繋がれていた手を引っ張られて止められた。
「今の私達、まだ魂の状態だから誰にも見えないわよ。ちょっとこっちに来て」
動物園から少し離れた路地に入り、一華さんはきょろきょろと人目が無いことを確認した。
「じゃあ、じっとしていてね……」
一華さんが繋いでいた手を放し、人差し指をくるくると回し始める。すると指先に、赤い光の玉が生じた。硬貨くらいまで大きくなったそれを、僕の胸のあたりにに押し付ける。そこからほんのり体が暖かくなった。
そしてそれとは関係なく、顔が火照ってドキドキしている。指先から鼓動が伝わってないか心配だ。
なんでこんなに簡単にボディータッチできるんだろうか?女性ってみんなそうなのか?デートとはいえ初対面なのに……僕の言えたことではないけど。
「私にもぐいっと。これで実体化完了、夜までは持ちそうね」
「す、凄いね、さっきのテレポートも魔法みたい」
「願いを叶えるための死神様の力よ、ふふ、凄いでしょう」
ドヤ顔の一華さんも可愛い。さっきから僕、一華さんの魅力にやられすぎな気がする。
「こ、これで大丈夫なんだよね。なら行こうか」
照れ隠しを兼ねて、早足で入園券売り場へ向かう。ところが、窓口より少し手前で一華さんは立ち止まってしまった。
「あれ、どうしたの?」
「……ううん、何でもない……」
何でもないとは言うが、今までの明るい雰囲気はどこへやら、凄く不安そうな顔をしている。
「大丈夫?とりあえず券、買ってくるね」
「あ、ええ、お願いするわ」
動く気配が無かったので、僕は一人で窓口へ向かい、二人分の入園券を購入した。
一華さんの元へ戻り、券を手渡そうとすると、受け取ろうとせずに僕の背中を押してきた。
「このまま入場しちゃいましょ!その方が券を切るのも一回で済むじゃない、よろしくね」
「え?わ、分かったよ、分かったから背中押さないで」
こう毎度ボディータッチされては心臓が持たない。言われるがままに僕が先に入口へ向かい、一華さんの分も券を切ってもらい入場した。
「無理矢理でごめんね、助かったわ」
「これくらい何ともないよ」
一華さんの表情は、もう今までの笑顔に戻っていた。
何か事情があったんだろう。確かに無理矢理な言動だったが、深くは聞かないことにした。
「あ。そういえば、大人二人で入園券買っちゃったけどよかった?」
「よかったってどういう意味よ」
「いや、高校生以下なら割引が……って、死神には関係ないか」
身分証明なんてできないだろうし、そもそも僕が払ったのだから気にしなくてよかったのだ。
この発言は完全に失言だった。
「誰が高校生ですって?」
「見た目が……あの、もしかして、怒ってます?」
第一印象から同い年か、年下だと思い込んでいたがどうやら違うらしい。
身長も150センチなさそうだし、まさか成人しているとは思っていなかったのだが。
「私これでも22歳よ?あと誤解されてそうだから明言しておくけど、身長は151センチよ!」
「え!?むしろ年上だった、あと150センチあったんだ!?」
「本当よ!大学も卒業してるんだから」
「圧倒的に先輩だった!失礼しました!」
どう頑張っても22歳には見えないのだが、そんなことを口走ってしまえば大変なことになるのは理解していたのでなんとか踏み留まった。
「この外見のせいで幼くみられるのは慣れてるわよ……分かればよろしい。ほら、行くわよ」
頬を膨らませたまま、一華さんは先に進んでしまった。慌てて追いかける。
そうか、大学卒業してるのか……死神の世界にも学校があるのかな?
「真大くん早く!ここ、猛禽類館だって」
入口から一番近い場所にある猛禽類館の前で一華さんが手招きをしている。待ちきれないのか、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。やっぱり年上には見えないのだが、可愛い。
ここは僕がお気に入りにしている場所の一つだ。もちろん名前に鷹が入っているからである。
「今行くよー」
間も無く追いつき、僕たちは建物の中へ入っていた。