第2話 死神との出会い
「おーい起きて、起きてってばー」
聞き慣れない声に呼びかけられ、目を覚ました僕の前に広がっていたのは、一面の青空だった。頭上だけでなく、右も左も抜けるような青空。
そして正面には、声の主であろう少女が立っていた。空の中だから、浮いていると言った方が正しいか。
同い年くらいに見えるが、小柄で華奢で、可愛らしい雰囲気を纏っている。長い髪は真っ黒でつやがあり……、ここまで見れば状況的に天使に見えたのだが、着ているものが灰色のパーカーに青いジーンズだった。もっとそれらしい衣装は無かったのだろうか……。
「おーい元気?ん?元気って聞き方は変かー」
「あっごめんなさい!元気です!」
状況把握が追いつがずぼんやりしていたところに話しかけられ、驚いて返事した。
「別に謝らなくて大丈夫だよー。ところで君、自分がどうなったか覚えてる?」
「ええと、確か女の子を助けようとして代わりに車に轢かれて……。僕は死んだの?ここは天国?君は天使?」
「むむ、順に説明するから落ち着いてー。まずはここ、まだ天国じゃないんだよね。下を見てごらん」
言われた通りに足元を見ると、見慣れた街並みが広がっていた。真下には公園があり、先程助けた女の子が母親らしき人物に抱かれて泣いていた。
すぐそばには救急車が止まっており、ちょうど僕の体が運び込まれていった。
「よかった、女の子は助かったんだ」
「うん。少し体を痛めただけみたいね。代わりに君は死んでしまったのだけれど」
「やっぱりか。でもいいか、最後に人の役に立てたなら」
夢はあったがそこまで頭がよくないので諦めて、なんとなく生きてきた人生だ。大学も周りに流されて入ったし、卒業して就職したところでちゃんと働ける自信も無い。最後に人助けができたならむしろ上出来だろう。
「本当に未練、無いの?」
少女に顔を覗き込まれ、どきりとした。そもそも母親以外の女性とこんなに話すのは初めてだ。突然の事だったので今まで気にならなかったが、意識してしまい頭が混乱してきた。
「思い残す事がなく人生を終えた魂はまっすぐ天国を目指すんだけど、未練ある魂は君みたいにその場を彷徨ってしまうの。そのままだといわゆる悪霊になってしまう。そんな魂の願いを一つ叶えて、浄化して天国へ送るのが私の仕事なの。分かりやすく言うと死神かな」
可愛いのにパーカーにジーンズな死神がいてたまるか。
他にも驚くべきポイントはあるんだろうが、情報が飽和して追いつかない。
「ここに留まってるということは何かしら思い残したことがあるはずなんだけど……どうかな?」
「いきなり願いとか言われても……」
今日の予定であった追試はむしろ受けなくて良くなったのでラッキー。家族や幼馴染に会えなくなるのは寂しいが、何かしようと考えても思いつかない。趣味のゲームは一区切りついている。
「なんだろう、思い残した事、やってみたかった事?……あっ」
一つ、思いついた。通学途中の独り言。彼女がいればできたが、ぼっちには無縁だと諦めていた事。
でもそれでいいんだろうか、言うのも恥ずかしいし。
「お、何か思いついたんだねー。言って言って?」
どうしようか悩んだが、他に何も浮かんでこなかったので恐る恐る口にした。
「デート、したことないからしてみたいです……」
「成程ねー。あ、魂のまま留まれるのってもって二日で、デートとなると実体化に力使うから一日しかもたないから。そこは了承してね」
滅茶苦茶恥ずかしかったのに、軽く流されてしまった。よくある願いなのだろうか。
確かに、童貞の願いになりやすいかもしれないな。自分で言ってて悲しくなってきた。
「で、誰としたいの?知り合い?アイドルの推しとか?誰でもできるけど」
そういう選択肢もあるのか。だがアイドルには興味がなかったので選べない。女性の知り合い、いるはずがない。
となると、選択肢は一つだった。
「えっと、その、貴方と、は駄目でしょうか……?」