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宿花に願いを乗せて  作者: 薔薇茶
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最終話 宿花に願いを乗せて

「私、もう一度、生きてみようと思うの」


 少しだけ震えた、しかし力のこもった声と眼差しが、僕の体を貫いた。


「え、それって」

「死神も元は人間だし、転生しようと思えば出来るのよね」

「そうじゃなくて、昼間の話は……」


 生き返りたいと思っているような印象を受けてはいたものの、生前のトラウマがある中すぐに決心するとは思っていなかった為、僕は戸惑いを隠せなかった。


「もちろん怖いわよ。大人の事……親の事……転生したら忘れるとはいえ、また同じようなことを繰り返すかも知れない。夢も見つからず、一人でまた寂しく死んでいくのかも……」


 目が潤み、震えも増していくが、それでも一華は思いを吐き出していく。


「でも、真大と遊んで、今まで経験したことが無いくらい楽しくて、凄く幸せで、一日で終わっちゃうなんて信じられなかった。生きてたらこんなことが続いたのかもって考えて、それなら今日の朝、私が真大を助けることだってできたし、そうして出会ったならもっとたくさん一緒に居られたのに……!」


 言葉を紡ぐたびに大きくなっていた涙が遂に溢れ出した。

 一華も同じように楽しんでくれていて、同じように……僕以上に名残惜しく思ってくれていた。その事実に僕も泣き出しそうになるが、今は一華の思いを全部受け止めなければ。食いしばって、なんとか堪える。


「嫌なの、真大と会えなくなるなんて!どんなに辛いことがあっても真大が一緒にいてくれるならきっと耐えられる、頑張れる!だから……」


 止まらない涙とごちゃ混ぜになった感情にむせながら、一華は両手を胸にあて、ぐっと握りしめた。

 そうして、一華の中にようやく出来上がったこの世への未練、叶えたい願いが告げられた。


「来世でまた……今度は生きているうちに貴方に出会って、貴方の恋人になりたい」


 人生に絶望していたはずの少女から、未来に待つ希望を追いかけたいという感情が芽生えた。

 だが体はずっと震えていて、恐怖から逃れた訳ではないのが痛いほど伝わってくる。

 僕は一華に近づき、優しく抱きしめ、ゆっくりと頭を撫でた。


「ありがとう、分かったよ、その願い絶対叶えるから」


 凛々しく言い切りたかったが、僕の涙腺もあっけなく決壊してしまった。

 だって、一華がこう思えたのは僕のおかげだと言ってくれた。嬉しくないわけがないじゃないか。

 泣くのを我慢していた分、余計に溢れてきてしまう。


「うん、うんっ……痛っ、髪の毛引っかかってる!」

「え、ごめん!」


 感動で手に力が入ってしまったらしい。指に髪の毛が絡まったのに気が付かず、そのまま動かしてしまっていた。


「下手くそね、最後まで締まりが悪いのも、真大らしくていいんだけれど」

「お恥ずかしい限りです……でも、すぐに笑顔になってくれるから僕はこのままでもいいかな」


 一華が僕らしいと言ってくれるなら、わざわざこの癖も直すことはない。


「そ、そういう事をまたサラッと言う!恥ずかしがり屋なのよね?本当にもう……」


 泣き腫らした目をこすりながら、一華はため息をついた。


「あ、でもあんまりにも悪い人生を引いたらリセマラするから、遅くなったらごめんね」

「反応に困る冗談はやめて……」

「そうね、死んだら願いは一つしか叶えられないけれど、生きて努力すればたくさん叶うもの、頑張るわ」


 一華の目は今や希望に満ち溢れていた。震えも収まっている。

 それだけで、僕はとても幸せな気持ちになった。


「それなら、次に会う時はもう少しお洒落な一華が見たいな」

「悪かったわね、パーカーにジーンズで!見てなさい、もっと美しくなってびっくりさせてやるんだから」


 僕の腕の中からするりと抜け出して、一華はふんぞり返った。


「だから、真大ももう少しいい男になってなさいよ」

「ど、努力します」

「楽しみにしてるわ。さてと、そろそろ時間ね」


 気が付くと、返り咲きさせた桜が散り始めていた。その花びらを掴んだ僕の手はほとんど見えなくなっていた。


「そういえば、転生するっていうなら一緒に天国へは行けないの?」

「ええ、私は一度拒否しちゃってるから、少し面倒な手順を踏まないと転生出来ないの」

「そうか、じゃあ次に会えるのは来世か……待ってるから」

「忘れるんじゃないわよ。じゃあ、天国までの道、開けるわね」


 一華は虚空から、背丈と同じくらいの大きな鎌を取り出した。

 大きく一閃。すると、空間が裂けて柔らかい光が満ちた穴が出現した。


「おお、今までで一番死神ぽかったかも」

「よく言われるわ、でも子供相手にやってたから、らしい格好をしていると泣かれちゃうのよね」


 死神らしい格好をしないのには、ちゃんとした理由もあったのか。それにしては適当すぎる服装だけれど。

 鎌を消して、一華が近づいてきた。僕の手を取り、ぎゅっと握りしめる。

 僕も優しく握り返した。これを離せば、お別れになってしまうのだろう。


「真大、今日はどうだった?」

「とっても幸せだった。願いは叶ったし、それ以上にいろんなものを貰えた。宿題まで貰っちゃったから来世は頑張るよ」

「よかった、ちゃんと浄化できてるわね。……私も幸せだったわ。だから最後に一つだけ、おまけしてあげる」


 おまけ?という疑問の言葉は、一華の唇に飲み込まれてしまった。

 それからゆっくりと、名残惜し気に僕から離れ、光の穴を指し示した。


「じゃあ、またね、真大」

「うん。一華。また、来世で」


 一華のぬくもりを忘れないようにしっかり心に刻み込んでから、僕は天国への門をくぐった。




「……行っちゃった」


 空間の裂け目が閉じたタイミングで、桜も散り切ってしまった。

 あれだけ泣いたのに、まだ涙が出てくる。嬉しいやら寂しいやらで、まだ頭は混乱しているのだろう。


「さて、私も行かなくちゃ」


 来世でまた真大に会うために、私も転生しなければならない。しかし天国に行くのは拒否してしまった身であるし、行ったとしても死神のままでは転生できない。ならばどうするか?


「まさか二回も死ぬことになるなんてね」


 死神の鎌で、己の首を刈り取るのだ。

 死神は元々自殺者である。一度その苦しみを経験しているため、普通はやろうと思わないし、転生したくなっても痛みや苦しみが思い出されて踏み出すことができないのだ。


「良く出来てるわよね、人手不足にしたくないのか、このくらいやれる意志がないともう一回自殺する羽目になるぞっていう警告か。でも私はいくわ。待ってる人がいるんだもの」


 前とは違う。次の人生に向かって、私は死ぬのだ。

 しまっていた鎌を再び虚空から取り出し、空に掲げて願いを込める。地面に落ちた桜の花びらが風に吹かれて、再び宙を舞っていくのが見えた。


「……また、来世で」




 力の抜けた一華の体を、赤いアネモネが受け止めた。


 Fin.

これにて完結となります。ここまで読んでくださり本当に有難うございました。

初めてのネット投稿でしたが、書き切ることができて一安心しています。

次は完全オリジナルで、もう少しファンタジー寄りの作品を書きたいと考えていますが、いつ投稿できるかはまだ決められない状態です。

またいつかお目にかかることがありましたら、よろしくお願いします。

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