第13話 再び公園へ
日が傾き、風が吹き始めて少し肌寒くなってきた。しかし今更場所を変える訳にもいかず、僕らは公園のベンチに腰掛けた。
僕が事故にあった公園よりも小さく、ブランコと砂場くらいしかない。そこで遊んでいた子供も帰る準備を始めだし、間も無く二人きりになった。
「夜ご飯どうするか考えないとねー、真大が最後に食べるものになるけど、何にしようか?」
「そっか、最後の晩餐か、そう言われると悩むなあ」
嫌いな食べ物は?と聞かれたら答えやすいのだが、好きな食べ物……それも最後に食べたいものと聞かれるとなかなか答えは出ない。
「よく食べた物は麺類かな、うどんとかラーメンとか。律と早食い競争したっけ……あとは肉魚問わず煮物とか」
「あ、ラーメン私も好き!こってり派だなー」
「一華さん、見た目可愛いのに好みが女子っぽくなさすぎるよ……」
好みが一緒なのは嬉しいのだが、洋服のセンスといい、一華の好みはなんだか男子っぽい。
「それ褒めてる?貶してる?」
「というより安心するって感じかなあ」
きっとそういうところが、女性経験の無かった僕でも話しやすい要因なんだろうけれど。
「結局どっちなのよ……まあ、私も好きなものが同じっていうのは嬉しいけれど」
一華は顔をしかめながらも、嬉しそうに答えた。
「ゲーセン以外に行きたいところある?もう一か所くらいならなんとかまわれるんじゃないかな」
「大丈夫、あれで満足よ。思いがけず一緒に遊べて凄く楽しかったし、これ以上真大の時間をもらうわけにもいかないから」
一華はそう言って、また遠くを見つめてしまった。とてもじゃないが満足しているようには見えなかった。
僕だってまだまだ足りないんだ。そのことを、伝えなければ。
……今まで思い立ったらすぐ言えていたのに、緊張してなかなか言葉が出ない。おいチキン、頑張り時だ、言いたいことはちゃんと言え。
「ぼ、僕はまだまだあげたい!」
「なっ」
「僕は、一華さんともっと遊びたいし一緒にいたい。もっと…もっとじゃなくて、えっと」
言葉に詰まって焦りながら、精一杯の気持ちを伝えていく。
「僕は、一華さんと一緒に生きてみたい」
そしてリュックから、先程買ってきたものを取り出した。
「やばい、順番間違えた……とにかく、今日はすごく楽しくて、その、今更になっちゃうんだけど、これを受け取って貰えませんか?」
頭を下げながら、片手に収まるくらいの小さな花束を一華へ差し出した。使われているのは、丸みを帯びた可愛らしい赤い花。
「これ……アネモネよね?」
「うん。一華さんはさっき、『見放された』とか『薄れゆく希望』とかネガティブな花言葉ばかり言ってたけれど、それだけ詳しいなら『赤いアネモネ』のポジティブな花言葉も知ってる……よね?」
知っているかどうか確信は持っていなかったが、ここは格好良く言い切りたかった。さっきから要領悪くて恥ずかしい。それでも逃げずに、僕は顔を上げて一華を見る。
一華の顔は真っ赤だった。これはどうやら、花言葉を知っているらしい。
今にも心臓が飛び出してきそうな胸を片手で押さえながら、赤いアネモネの花束を持つ反対の手を、もう一度一華へ差し出した。
「『君を愛す』……好きです、一華さん」
そうして、赤いアネモネの花言葉と、自分の気持ちを一緒に伝えた。
確かにこんな花言葉、知っていても自分だけでは使えなくて言わないのは当然だろう。でも折角なら、良い意味があるんだから使いたかったのだ。
呪われてるなんて言ってほしくない。明るくて面白くて、優しい……時とそうじゃない時があるけれど、僕の最後の一日を幸せなものにしてくれた、大事な人の名前なのだから。
「真大……」
しばらく目を見開いて固まっていた一華がようやく手を動かし始めた。花束へ向かってゆっくりと……。
あと一息の所まで手が伸びた。緊張はピークに達して僕が逆に硬直してしまう。
と、その時。吹いていた風が一段と強くなった。それほど強く握っていたわけではなかったので、花束が僕の手から攫われ飛んで行ってしまった。
「あ、待って!」
一華が先に花束を追って走り出した。一拍遅れて僕も後を追いかけ始める。あっという間に公園の端までたどり着くが、花束はその先の道路まで飛ばされていった。
「待てったら……!」
一華は迷わず道路へ飛び出した。花束をつかもうとしたその時、クラクションの音と共にトラックが迫ってきて――
「一華!!」
同じ失敗は繰り返すものか。僕は朝女の子を助けた時よりも全力で走り、一華を抱きかかえる。
掴み損ねた花束が宙を舞って、バラバラになりながら僕たちの上に降り注いだ。




